読書レビュー:『指導者の不条理』(菊澤研宗)
それを実践理性によって損得計算の結果を価値判断するにより、失敗を回避するのが本書の薦めるところであり、そこに「人間としての尊厳、気品、そして真摯さがあり、リーダーとしての権威が生まれる」としている。
まさに誰もが薄々は感じている部分であり、だからこそ人は利他的だったり、倫理的な振る舞いを尊ぶ。
しかし、言うまでもなくこれが難しい。
実践理性を加味した「重層的なマネジメント」を推奨することで組織の失敗を回避しようとするわけだが、結局はまずはリーダーが実践理性を用いてそういった価値判断を実施していく必要が出てくる。
そうなってくると個人としての生き方や考え方など根本的な部分での刷新が要求されるように思う。
このあたりになると宮台真司氏の活動や主張のように草の根運動ではないが、社会全体として個人の考え方や行動を変えていく取り組みを行っていかねば改善できないようにも感じる。
組織が人間の集合体であり、その人間は社会の中で育まれることを考えれば、当たり前の話なのかもしれないが、根本的な解決には相当な時間が掛かるようにも思えてくる。もちろん人の考えや行動が一気に変わることができればこの限りではないだろうけれども、それはハードルが高いように思われる。
即効的な解決が難しいとはいえ、個人の損得計算がもたらす弊害について、歴史的な事例を引き合いに出しながら知ることができるし、これにより実践理性としての他人本位でない自分本位の価値観を構築することの重要性を認識するきっかけになる。
章立てなどの本の作りもわかりやすく、ロジックも明快なので読みやすいので、ぜひ一読して欲しい。