読書レビュー:『リーダーの教養書』(出口治明、楠木建 他)

読書

読みたいと思ったきっかけ

Amazonか楽天のレコメンドに出てきたのを見たのがきっかけ。

「教養」というパワーワードに見事に引っ掛かっているのが情けないけど、つい買ってしまう。

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リーダーの教養書 (幻冬舎文庫) [ 出口治明 ]
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内容

目次

目次は以下のとおりとなっている。

 

序文 日米エリートの差は教養の差だ(佐々木紀彦)
対談 なぜ教養が必要なのか?(出口治明 楠木建)
歴史 出口治明
経営と教養 楠木建
経済学 大竹文雄
リーダーシップ 岡島悦子
日本近現代史 猪瀬直樹
進化生物学 長谷川眞理子
コンピュータサイエンス 中島聡
医学 大室正志
哲学 岡本裕一朗
宗教 上田紀行
おわりに 「日本3.0」の時代を生き抜くために
解説 箕輪厚介

内容

わたしの気になった箇所について記載する。

序文(日米エリートの差は教養の差だ)

・結局、何が言いたいかというと、業界にかぎらず、勝負に勝ち続けて、世の中をリードし、何か偉大なものを残せる人間は、「普遍的なもの」を自分の中に持っているということだ。「普遍」のストックを自分の中に多く備えていれば、それと時代性を掛け合わせることにより、無数のアイディアが湧いてくる。しかも、普遍に基づいたものは、人間の本質に根ざしているだけに、持続性と爆発力のあるアイディアであることが多い。

対談(なぜ教養が必要なのか?)

・「動因(ドライブ)」と「誘因(インセンティブ)」の区別が大切だと思います。例えば、昇進のために必要な試験の点を取ろうとして英語を勉強する。こういうのは昇進を誘因とした行動です。誘因とは、文字通り自分の外部にあって自ら誘う要因ですね。これに対して、教養はインセンティブが効かない世界です。その人の内発的な動因でしか、教養を身につけることはできませんね。(楠木)

・僕が一番気に入っている「品がある」の一定義は、「欲望への速度が遅いこと」。言い換えると、即時即物的にではなく抽象度を上げて物事を理解しようとする姿勢ですね。これは教養の有無と深く関わっていると思います。目の前の具体的な事象に対して「これは要するに何なのか」と考える。これが抽象度を上げるということですが、それは同時に思考の汎用性を上げるということでもありますね。(楠木)

・アウグストゥスは、「ゆっくり急げ」という言葉を壁に貼っていたそうです。結局、ゆっくり考えて対処する方が、問題が早く解決することになるのだ、と。それと同じように、いろいろなことを知っていれば、すぐに飛びついて決断せずに一呼吸おくことができるんですよね。(出口)

・つまりは、「パターン認識」ですね。様々な因果関係を包括して抽象化するということです。歴史を知ることは、過去に起きた事象のパターンを多く知るということですから、歴史についての知識や理解は、パターン認識の能力を身につける上で最上のトレーニングになります。(楠木)

・それこそがリーダーにとっては大切で、優れたリーダーは、新しい出来事に直面しても、「いつかどこかで見た風景」「いつか来た道」として捉えているフシがありますね。俗に言う「ブレない」というのは、こうしたパターン認識の豊かさに依拠しているのだと思います。(楠木)

・僕自身が人間観として大切だと思っていることは、人間は多面的で、一貫性がないものであるということです。選書でも触れたサマセット・モームの本から学んだことですが、あれだけ人間について洞察を重ねた作家が行き着いた結論が「首尾一貫した人はいない」。そして、その理由は「誰もが結局のところ自分だけは特別だと思っている」からだと言うのです。(楠木)

・洋の東西を問わずに、優れたリーダーの周囲には「カバン持ち」や「書生」といった制度が発達するのは理由があることです。一挙手一投足をそばでずっと見ているというのは、学びの方法としてきわめて優れていると思います。(楠木)

歴史(出口治明)

・アンダーソンのこの書を読んでいなければ、国民国家の構造や成り立ちはまず理解できないだろう。僕自身は、ネーション・ステートという在り方は、われわれの現在の歴史認識の根本にあるもんだいだと考えているから、そのことを理解するためにも僕はこの書を「必読書」だと断言してもいいほど重要視している。これを読まずして、現代の歴史を語ることは、まずできない。(ベネディクト・アンダーソン『想像の共同体』)

経営と教養(楠木建)

・しかし、教養とは本来、「その人がその人であるため」の知的基盤を形成するものである。教養は人間の知的能力のもっと根本的なところに関わっている。それは要するに、「自分の言葉で対象をつかみ、自分の言葉で考え、自分の言葉で伝える力」である。

・知性の中核にあるものを教養と呼ぶならば、教養のさらに中核にあるものは人間洞察である。小説の本領は、人間の本姓を見つめることにある。優れた小説家は人間に対する洞察が群を抜いている。モームの『サミング・アップ』は、極上の人間洞察に溢れた一冊だ。(モーム『サミング・アップ』)

・本書から読み取ってほしいのは、異質な対象に対する観察の仕方だ。人間は自分と異質なものを見たとき思考を深める。トクヴィルのフランス革命とアメリカのデモクラシーを比較する態度は、教養人の最高の手本である。(トクヴィル『アメリカのデモクラシー』)

・商売の原理原則は昔からほとんど変わっていない。向こう100年先でもビジネスの基本原理は変わらない。AIやIoTといった、新しい「タマ」は次から次へと出てくるにしても、根本原理に変化はない。この根本的なところをつかむのが教養である。(井原西鶴『日本永代蔵』)

経済学(大竹文雄)

・集団の意思決定で最も難しいのは、相互がフラットな関係のときだ。その中で意思決定をするリーダーになるためには、ロジカルに状況を分析し、周りの信頼を勝ち得るべく、戦略的に行動する必要がある。本書は事業改革の記録以上に、リーダーが困難な状況下で組織運営をどのように進めるか、難題克服のノウハウが集積された一冊と言える。(鈴木亘『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』)

リーダーシップ(岡島悦子)

・リーダーシップを学ぶために、書籍は役に立つ。しかし、リーダーにとって何より大事なものは「経験」だ。経験があってこその、書物であり、経営学である。

・この本の主張はきわめてシンプルである。それは、「生まれながらのリーダー」など存在せず、リーダーとはあくまでも「なるもの」なのだという主張だ。(野田智義・金井壽宏『リーダーシップの旅』)

・リーダーシップは、多様な人々を理解することから始まる。個性ある人間をまとめ、組織して事業を行っていく上で、人間に興味のないリーダーにリーダーシップを発揮することは不可能である。(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット『ライフ・シフト』)

日本近現代史(猪瀬直樹)

・この本を読むと、明治という時代が、日本の近代の持つ意味が、もっと深く見えていくるはずだ。現在の自分たちが置かれている歴史的な立場までもが見えてくる。戦後民主主義で育った親から自由の名の下に不安を植えつけられ、通過儀礼と呼べるものがなくなっている状況で育った子どもが自我について考えるのにも役立つと思う。(石光真清『城下の人』)

・人間はやっぱり下積みの生活がないとダメだ。売れなかった期間だけそのぶん売れるのだろう。清張は40年間の不遇のときを過ごしたからこそ、82歳で死ぬまで40年間も第一線で書き続けられたのだと思う。(松本清張『半生の記』)

・昭和、平成にもその流れは継続しており、現代の日本人は、生活の変化を観察する能力がさらに弱くなっている。ちょっとした小さな変化から大きな転換を読み込んでいく観察力は、古典を読むことで培われる。本作や『遠野物語』や中江兆民の『三酔人経綸問答』は、そうした鋭い観察力の宝庫だ。古典は若いときにしか読めない。大人になればなるほど時事問題に振り回されていく。現実の枝葉末節から離れて、古典の奥深い世界に入ることに役立つ一冊だ。(柳田國男『明治大正史 世相篇』)

・日本人は日本人の文体で日本人の日常性の中にあるものから言葉を編んでいくが、三島の場合はそれを外国語に翻訳したときにどういう状態になっているかということから逆に日本語をつくっていく。それはヨーロッパ近代が世界の基準だからだ。それゆえに、三島の作品は未だに西洋で翻訳として読まれている。(三島由紀夫『金閣寺』『鏡子の家』)

進化生物学(長谷川眞理子)

・進化生物学を学ぶ意義はどこにあるのか。それは、進化や淘汰といったフレームワークを使うことで、現代人が自明としている社会制度や文化制度の根本を違う角度から見るところにある。例えば、人類の進化の歴史を少しでも知っていれば、人類の繁栄を支えたのが共同繁殖、つまり、共同体の中での子育てであることが容易に理解できる。この共通認識が社会に浸透していれば、子育てを若い夫婦だけに担わせる危険性がもっと議論されるだろう。

コンピュータサイエンス(中島聡)

・文系のビジネスパーソンこそ、プログラミングの基礎を学ぶべきだ。「プログラミングで何ができて、何ができないか」「この仕事はどれほど難しいか」といった勘所を摑むだけでも、エンジニアとの仕事が一気にやりやすくなるからだ。自ら基礎について身につければ、簡単なプロトタイプは自分で作ってしまい、専門的な知識が必要な段階からプロに依頼することもできる。エンジニアの身からすれば、本当に初歩段階の仕事はあまりやりたくないので、こうした段階を飛ばしてくれるだけでも、そのビジネスパーソンを信頼するようになる。そして、もしエンジニアが甘ったれたことを言っても「これくらいできる」と突っぱねることもできる。

・アカウンティングとコーポレート・ファイナンスは、現代人にとって必須の教養だろう。お金の現在価値と将来価値、資金調達コストといった知識は、ビジネスを行う上での基本中の基本だが、案外多くのビジネスパーソンが誤解している。もしあなたがこれからリーダーとして経営に近い立場で仕事をしたいと考えており、かつ金融に関する知識が欠落していると思ったら、すぐに学び直すことをおすすめする。(リチャード・A・ブリーリーほか『コーポレート・ファイナンス』)

・自分たちが成功したその瞬間に、その成功体験を否定する大切さを、ゲイツのメッセージは教えてくれる。ソフトウェアに関わる人はもちろん、これから組織を牽引しようとする人に、一読をお薦めする。(ウェブサイト「The Internet Tidal Wave」)

医学(大室正志)

・私が気になるのは、ネットリテラシーなどの他の分野で十分にリテラシーがある人でも、ひとたびガンなどになると、途端にエビデンスに乏しい怪しげな代替医療にはまることがけっこうあることだ。私からすれば、「なぜあの人が?」と思うようなケースがわりと多くある。おそらく、病気自体が人を不安にさせる要素を持っており、かつ不安なときには判断力が低下するため構造的にデマを信じてしまう状況が生まれやすいのだろう。

・細菌は自己増殖できるが、ウイルスは自己増殖できない。ウイルスは、それ自体だけではたんぱく質でコーティングされた遺伝情報に過ぎない。”メモリースティック”と同じようなもので、特定の”読み込み主体”に付着して初めて増殖できる。例えば、鳥インフルエンザが鳥に付着しないと作動しないように、あくまでも宿主とともにしか生きられないのだ。だから、宿主が絶滅すればウイルスも死滅する。(フランク・ライアン『破壊する創造者』)

・また、ウイルスは動物の進化スピードを速めることに役立っている点も指摘されている。ウイルスは”異物”ではあるが、その異物こそが同時にわれわれの進化を助けてもいるのだ。異物の存在がプラスに働くことを示しており、職場のダイバーシティの議論にも活かせるだろう。(フランク・ライアン『破壊する創造者』)

・承認というのは学問的にはマズローの5大欲求階層論では自己実現欲求よりも低い位置にあるとされている。ところが、近年では所属や生存が満たされた人々は自己実現よりも承認を強く求めるとされ、承認欲求が最上位の概念になっている若者も多いと著者は指摘する。宮台真司氏なども言うように、「承認」が現代社会の人間を見る際の一つのキーワードになっているのは間違いない。(斎藤環『承認をめぐる病』)

・要するに、医学の営みには定量と定性の間の葛藤が多分にあり、単に科学的にのみ決められるわけではないのだ。公衆衛生的に図式に当てはめ解決するのでもなく、文学的にロマンチックに死を美化するのでもない方向で、死を目前にした患者の「生」を論じている。(アトゥール・ガワンデ『死すべき定め』)

哲学(岡本裕一朗)

・本書を読了する頃には、あなたも仕事は人生における気晴らしの一つと捉え、一歩引いた目線で、冷めた目で見られるかもしれない。働くために生きるのでも、生きるために働くのでもなく、生きている実感を得るために働くのだ。(パスカル『パンセ』)

・本来、力同士で対抗するところ、力量の差から別の理由をつけて自分たちを正当化するのだ。これを「ルサンチマン(恨み)」と言う。(ニーチェ『道徳の系譜学』)

・ここで問題視されているのが、同じ原理に基づいているものから反対のものが生まれたとき、人は気付くことができないという点だ。大事に育ててきた文化などの啓蒙が、反啓蒙になりうる。逆に漫画やアニメーションのように、ひと昔前まで反教育的とされてきたものが、日本を代表する文化へと転じることもある。見慣れた事象も、突き詰めれば全く新しいものに変化を遂げる可能性を内在しているのだ。(ホルクハイマー、アドルノ『啓蒙の弁証法』)

宗教(上田紀行)

・本書は、宗教を「創唱宗教」と「自然宗教」の二つに分けている。前者は、誰か特定の教祖によって始まった宗教であり、後者は自然に発生した宗教だ。イスラム教、キリスト教は明らかに「創唱宗教」だ。仏教もお釈迦様もいるので「創唱宗教」だったが、日本では、平安時代あたりから、神様と仏様が共存する状況になった。つまり、神仏習合によって、仏教が「自然宗教」化したところに、日本の宗教の原点がある。(阿満利麿『日本人はなぜ無宗教なのか』)

・近代の政治家たちは「神国日本」といったように、神道を持ち出して自らをオーソライズしようとする。一方、民衆は、神仏習合に沿った「八百万の神」的なメンタリティーを持っている。その二つが常に混在しているのが日本の宗教の歴史と言える。(末木文美士『日本宗教史』)

・例えば、お祭りで神輿をかついだり、後先考えずに酒を飲んだりすると、ものすごい快感が吹き上がる。そうしたハレの空間や体験がないと、人間は生きている実感が得られずに枯れてしまう。リーダーになる人は、やたらと部下をノルマで締め上げたりしてはいけない。リーダーは、他のメンバーに対して、生きていて楽しいというエクスタシーや自己肯定感を与えないといけないのだ。もちろん自分自身にも!(ジョルジュ・バタイユ『宗教の理論』)

・そもそも仏教には「自分と世界の思いやり(慈悲心)を実感し、世界を良くしていきましょう」という面と、「あなたの中のとらわれ(執着)がいけないので、どんどん手放していきなさい」という面がある。どちらも大切だが、そのうちの後者がこの本。現代の若手の仏教者が生み出した、時代にフィットする作品と言えるだろう。(小池龍之介『煩悩リセット稽古帖』)

解説(箕輪厚介)

・だから結構難しい本も並んでいて、編集していて苦しかった。もし本書に挙げる教養書をすべて読破する人がいるとすれば、相当な教養人だろう。

・しかし、教養のための教養というものは、まったくの無意味だとは思わないが、サッカーの試合に出る前にサッカーの試合を見まくって、戦術を座学で学んでいるようなものだ。いざ試合に出た時にそれが役立つことがあったとしても、実戦経験には及ばない。人生の貴重な時間を、教養書を読むという行為に費やすというのは学生時代でもない限り、なかなか現実的ではないような気がする。

・堀江貴文にせよ前田裕二にせよ落合陽一にせよ、今、時代の最先端にて新しいことをやり続けている人は、みんな等しく歴史に詳しく、古典を読み漁り、学問を学ぶ。時代の流れは線で捉えないと、未来の点となる最先端は予測できないからだ。彼らとご飯を食べに行くと、半分以上は「歴史的にみるとこういうことが次に来ると思う」とか「心理学的に考えると人間ってこういう動きをするんですよ」といった会話になる。未来を作る人こそ、歴史の荒波に耐えてきた「普遍の原理」に答えを求める。

コメント

久しぶりにこういった書籍が紹介されるタイプの本を購入した。

この手の本を買うと良いのは、自分が普段は興味ない分野についての概観や取っ掛かりとなる本が紹介されていることにある。

今回も例に漏れず、普段あまり触れることのない進化生物学やコンピュータサイエンスといった分野について少しでも触れることができ、お薦めの書籍を知ることができたのは収穫となる。

わたしが購入したのは文庫版なのだが、どうやら単行本にはプラスして数学もあったらしい。著者の意向により文庫版には収録されていないらしい。数学も読みたかったところではあるが。

これだけの書籍を一気に読むことはそもそも不可能だし、それに取り組むこと自体もしかしたらナンセンスなのかもしれないが、それでも「いつか読んでみたい」という気持ちがついつい出てきてしまう。

解説の箕輪厚介氏の言うように、教養のための教養になってしまっては現実が何か変わることもないだろうし、このあたりはバランスを取る必要がある。

教養書を読むという行為を考えると、やはり時間のある学生時代にゴリゴリと読書を進めることが如何に重要性を改めて思い知る。今さら気付いてもどうしようもないのだけれど・・・。

それにしても文庫本で買うと638円という安さ。この値段でこの情報を得られるのはつくづく有り難いと感じる。

一言学び

歴史についての知識や理解は、パターン認識の能力を身につける上で最上のトレーニングになる

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