読書レビュー:『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか “ゆるい職場”時代の人材育成の科学』(古屋星斗)

読書

読みたいと思ったきっかけ

書店で見かけたのがきっかけ。

古屋星斗氏の前作である『ゆるい職場』も読んでおり、面白かったので今回も購入した。


内容

目次

目次は以下のとおりとなっている。

 

はじめに    
第1章 「Z世代」は存在しない⏤二極化する価値観と、若者論のウソ
第2章 「ゆるい職場」と若手の不安⏤若者を取り巻く変化を理解できているか
第3章 若手は会社をこう見ている⏤職場では聴けないZ世代の本音
第4章 心理的安全性だけでは活躍できない⏤「キャリア安全性」という観点
第5章 若手を育成できる管理職、できない管理職⏤育成に成功しているマネジャーを科学する
第6章 「ゆるい職場」時代の育て方改革5つのヒント⏤質的負荷をいかに高めるか
第7章 「優秀な人材ほど辞める」を食い止めるには⏤「二層化した若手」を適切に育てる方法
第8章 若手がひらく、会社と社員の新しい関係⏤「ゆるい職場」時代の組織論
おわりに    

内容

わたしの気になった箇所について記載する。

はじめに

■現代の若者の仕事やキャリアに関する考え方の広がりをコミュニケーションによって理解することなしに、また、その理解を難しくしている背景にある職場環境の変化を理解し「育て方改革」に着手することなしに、若手と企業の新しい関係の構築は難しいと考える。若者への忖度と、“わがまま”に付き合い疲れた先に未来はないのだ。

第一章(「Z世代」は存在しない⏤二極化する価値観と、若者論のウソ)

■努力して頑張ろうという気持ちは、現在の30代・40代と比較して決して弱いわけではないのだ。投入した努力量と報酬の関係についてのシビアな見方は「コスパ」という若者言葉にも表れるように現実主義的であるのかもしれない。

■上の世代と、Z世代の本質的な違いは実は、環境が変わったことにより行動・経験が変わったことに起因するのかもしれない。

■筆者は世代論というよりも、「既得権がなく従来のキャリアのつくり方に縛られず、また変化する環境に適応できる」という特徴こそが、いつの時代も若者が若者たるゆえんだと感じている。

第二章(「ゆるい職場」と若手の不安⏤若者を取り巻く変化を理解できているか)

■そもそも、「ゆるい職場」は社会や法律の要請であり、中長期的にはすべての会社がそうならざるを得ない社会情勢にあると言える。いわばそれは社会全体のトレンドであって、どこかの会社は「ゆるい職場」で別の会社は「きつい職場」で、また別の会社は「ふるい職場」です、といった議論にはならないのだ。

■筆者は若者のなかに顕在化しつつある「自分は別の会社や部署で通用しなくなるのでは」「学生時代の友人・知人と比べて、差が広がっているように感じてしまう」といった、職業生活に関する「このままでは……」という感情のことを「キャリア不安」と呼んでいる。

■それは、職業社会全体の変化を前提とすれば「会社が若手のキャリアを丸抱えする」ある種の“平等性”があった時代が終わり、「若手自身が会社も使ってキャリアをつくる」時代へ急速に転換したことに端を発した、モヤモヤした不安とも言えよう。こういった状況を筆者は、一言で、会社に不満はないけど、不安がある、と表現する。

第三章(若手は会社をこう見ている⏤職場では聴けないZ世代の本音)

■「果たして自分はこの会社を辞めたときに、活躍する場があるのだろうか」ということを誰しもが考えるわけだ。だから、成長したい。それは教条的な意味での「成長しないといけない」ではなく、生存欲求や幸福追求の意味の「できれば成長したい」である。

■若手の不安や焦りが、単なる“青い鳥症候群”なのかそれとも行動に立脚した具体的不安なのかは相対する際の重要な視点だ。ただ、職場の上司がざっくり聞けば「めちゃくちゃ満足しています!」とか「不満は特にないです」とかで流されてしまう(満足⏤不満足と安心⏤不安はそもそも別の問題だ)。

第四章(心理的安全性だけでは活躍できない⏤「キャリア安全性」という観点)

■キャリア安全性については、「このまま所属する会社の仕事をしていても成長できないと感じる」(時間視座)、「自分は別の会社や部署で通用しなくなるのではないかと感じる」(市場視座)、「学生時代の友人・知人と比べて、差をつけられているように感じる」(比較視座)の3項目の逆数を用いて把握した。

■筆者は過去に、約50名の若者へのインタビューを整理し、若者のキャリア観を「ありのままでありたい」と「なにものかになりたい」という2つの欲求に整理している。今回提示した職場に必要な2要素の、心理的安全性が「ありのまま」であることを受容し、キャリア安全性が「なにもの」かになることを促すファクターであると感じている。

■総合すると職場のキャリア安全性とは、「その職場で働き続けた場合に、自分がキャリアの選択権を保持し続けられるという認識」と言えるかもしれない。

第五章(若手を育成できる管理職、できない管理職⏤育成に成功しているマネジャーを科学する)

■もう一度繰り返すが、この結果は若手育成実感を高めることは管理職のワーク・エンゲージメントの代理指標とすら言いうることを示す。組織としては若手育成問題の解消は、若手が育つかどうかを決定することはもちろん管理職層の仕事への熱意の高低をも左右する、「二重写しの問題」と認識すべきなのだ。

第六章(「ゆるい職場」時代の育て方改革5つのヒント⏤質的負荷をいかに高めるか)

■現代の若手育成問題の本質は、「質的負荷の高い仕事を、いかに量的負荷や関係負荷なく与えるのか」という言葉に集約される。

■神戸大学名誉教授の金井壽宏氏が提唱した「最低必要努力投入量」という概念では、ひとつの分野で優位性を持てる専門性を確立するためには一定の時間・一定の努力量が必要とされている。

■キャリア自律の重要性が提唱されて久しいが、自律は行動の結果に過ぎない。

■若者個人の希望に沿ったキャリアパスを用意する限り、その個人の想像する以上の機会や経験は得られないということだ。偶発的な出来事がキャリア形成において大きな役割を果たしているという主張はクランボルツも指摘するところであるが、肌感覚としても納得できるのではないだろうか。

第七章(「優秀な人材ほど辞める」を食い止めるには⏤「二層化した若手」を適切に育てる方法)

■そして、「会社が好きでいきいきと仕事をしているハイパフォーマーな若手が、キャリア不安を感じて辞めやすい」という厄介な状況をも顕在化させている。現代の若者育成、最大の難問がここにある。

■「他社と比べてはじめて、自社の良いところがわかる」比べることではじめて長所を知り、短所を許せるようになることは、ショッピングでも恋愛でも同じ。人間の“あたりまえ”だ。

■問題はルーティンな仕事だった場合だ。方向性は2つあるだろう。ひとつはパフォーマンスを定量化すること。もうひとつはそのルーティンの本来職務から少しずらした職務を担わせ、そちらにゴールテープを張ってしまうことだ。

■問題は、企業側が「やりたいこと」を若者に要請することが完全無欠の解決策ではないということを、企業側も若者側も、まだ認識できていないことだ。

■そのキーワードが「本人の合理性を超えたジョブ・アサイン」である。これを本人の納得感を調達しながらいかに与えていくか(もちろん、「来週からいきなり単身赴任しろ」とか「いきなり違う事業部へ行け」、ではキャリア安全性が担保されず無意味だ)、が今後大きな育成論題となっていくだろう。キャリア自律が重要だからこそ、ひとりで考えさせてはいけないのだ。

■言い訳があることで、人は行動のハードルがぐっと下がる。何か意識が高そうな勉強会があるとして、そこに「自分の意思で行ってきました」と言うのは多くの若者にとって気恥ずかしいかもしれないが「上司に頼まれて行ってきました」と言えばどれだけ楽かわからないし、しかも行った結果得られる行動した事実には差異はない。言い訳を示すことが、モヤモヤした不安を抱えるが行動できていない若手を動かすための処方箋となりうる。言い訳で小さな行動を本人の自発性だけに依拠しない他律的なものにしてしまうのだ。また、それはもしかすると“他率”かもしれない。最初の一歩目は他者に率いられて実行することで、行動量を増やすのだ

第八章(若手がひらく、会社と社員の新しい関係⏤「ゆるい職場」時代の組織論)

■ここで、在職を意思決定する、つまり「選択的在職」の重要性が浮上する。なぜその会社で仕事をし続けるのか、なぜあえて自分は辞めないのか、ということを考えて、“転職しないことを選ぶ”ことだ。その在職こそがキャリア選択の先送りではなく、キャリア選択の結果である。若手に「辞めない理由」を問うのだ。

おわりに

■筆者は、Z世代と言われる若者たちと仕事やキャリアについて話していて、率直に世代間の違いを感じたことはない。それは個々人の違いがあるというだけで、「Z世代は○○である」とか「○○がZ世代のトレンド」といった意見に強い違和感を持っている(仕事やキャリアの領域においては、だが)。もちろん特別視するほどの違いがある個人もいるが、それはどの年齢層にもいる。

コメント

一言学び

自分自身はZ世代には該当しないが、年齢的に近いこともあってか共感する部分が多くあった。

自分が普段から感じていることをや思っていることを上手に言語化してくれている印象。

普段感じているモヤッとしたものを言語化して論理立てて説明してもらえると、それだけで妙にスッキリした気分になるが、まさしく本書はそんな本。

前作の『ゆるい職場』から更に踏み込んで、若者の傾向や職場の環境変化、それを踏まえた対策について言及されており示唆に富む。

個人的には「『既得権がなく従来のキャリアのつくり方に縛られず、また変化する環境に適応できる』という特徴こそが、いつの時代も若者が若者たるゆえん」というのに合点がいった。

結局、年を取っていくにつれて何かしら既得権益が発生してしまい、それを意識的にせよ無意識的にせよ守ろうとしてしまうことで、「かつての若者」は若者ではなくなっていく。

自分自身を振り返ってみても、会社におけるポジションなどによって段々と保守化しつつあるのを薄っすらと感じる場面がある。

これには家族ができたりなど、そういったプライベート環境の変化なども影響しているようには思うが。

もう1点、キャリアにおける偶発性の問題も興味深かった。

「質的負荷の高い仕事を、いかに量的負荷や関係負荷なく与えるのか」という問題意識のもとに、当人が希望を汲んで計画的に仕事を割り振っていくことが当人にとって望ましいのかどうか。

偶発的にあてがわれたり、担当となった業務において成長が促される可能性を最初から無くしてしまっていいのかどうか。

ここは非常に悩ましい部分であり、結果論でしか判断できない気がするが、少なくとも自分のいる組織では、そもそも「本人の希望通り」に進むことも許されていない状況なので、この議論は遙か先にあるように思えてしまうけれど・・・。

本書は、若手育成の指南書であったり、現在の若者の特徴を教えることをメインに想定していると思うが、20代後半から30代が自分自身のキャリア戦略上のヒントを掴むために読むことも有益である。

古屋星斗氏の著作は今後も追いかけていくことになりそう。


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