読書レビュー:『室内生活 スローで過剰な読書論』(楠木建)

読書

読みたいと思ったきっかけ

最近ハマっている楠木建氏の著作のため購入。

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室内生活 スローで過剰な読書論 [ 楠木建 ]
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内容

目次

目次は以下のとおりとなっている。

はじめに ラーメン屋のスープ
1号室 ビジネス書解説
2号室 さらにビジネス書解説
3号室 さまざまな書籍解説
4号室 さまざまな書評
5号室 もっとさまざまな書評
6号室 読書以外の「室内生活」

内容

わたしの気になった箇所について記載する。

1号室(ビジネス書解説)

・著者のいうように、ITは世の中を便利にし、ギバーであることのメリットを加速させる面をもっている。しかし、その一方でゆっくり構える鷹揚さを阻害し、ギバーであることを難しくしている。ギバーでいることの、非常に重要な条件は「心のゆとり」「」人間関係において想定する時間軸のゆとり」にある。(『GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代』)

・ここで理解しておきたいのは、人間の行動に科学のような法則性はないということ。本に例示されたギバーたちの行動を知ることで、洞察や気づき、教訓が得られます。この際、「ギバーになるための即効的ノウハウはない」ということが分かるだけでも、十分に意味はあるでしょう。(同上書)

・「言われてみれば当たり前」ということは「言われるまで分からない」。「当たり前」の向こう側にある真実を頑健で鋭い論理を重ねて突き詰め、無意識のうちに見過ごされている人間と社会の本質を浮き彫りにする。(『ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代』)

・注意すべきは「多様性のワナ」に陥らないことだ。イノベーションのカギを握るのは多様性ではない。そのあとにくる「統合」にこのイノベーション・マネジメントの本質がある。「創造性には2種類ある。ゼロから一を創り出すものと、一から千を創り出すものだ」という西和彦の言葉を引用して、イノベーションは後者の創造性であると著者はいう。(『イノベーション5つの原則』)

・生産性向上の本丸はあくまでも分子にある。アウトプットの最大化が本筋であって、インプットはそもそもアウトプットのための手段に過ぎない。(『GREAT @ WORK 効率を超える力』)

・正しい順番は「運用が先、制度は後」。制度を設計してから運用に移すのではなくて、すでに実行され、成果が出ている動きを事後的に制度化するという発想に立てば、「運用上の問題」は存在しなくなる。制度は実行なり運用に「遅れて」いるぐらいでちょうどいい。(同上書)

2号室(さらにビジネス書解説)

・どうすれば普通の人々が高水準の努力を持続できるのか。ここに問題の焦点がある。僕の考える解決策はひとつしかない。それは「努力の娯楽化」という発想の転換である。客観的に見れば大変な努力投入を続けている。しかし当の本人はそれが理屈抜きに好きなので、主観的にはまったく努力だとは思っていない。むしろ楽しんでいる。考えてみれば、それが「努力」かどうかは当事者の主観的認識の問題だ。(『ビジネス・フォー・パンクス』)

・「良し悪し」に対する「好き嫌い」の決定的な優位は、それがネガティブな状況にやたらに強いということにある。「努力の娯楽化」のメカニズムが動き出したとしても、すぐに思い通りの成果が出るとは限らない。努力をしても思うような成果が得られないこともある。インセンティブを拠りどころにする人はその時点でくじけてしまう。(同上書)

・もう誰と知り合いだろうが関係ない。才能と知恵があれば、それで世の中に名が広まる。自分の会社をよくすることに時間を使おう。たいしてうまくないパーティー料理などどうでもいい。(同上書)

・競争優位を獲得することと、優位を持続させることは違う。商売の鍵は、今も昔も、情報技術があってもなくても、「持続可能性」にある。これも、リアルタイムにやるということだけでは答えが見えない論点である。(『リアルタイム・マーケティング』)

・ノーベル経済学賞を受賞したハーバード・サイモンは、「インフォメーション(情報)」と「アテンション(注意)」を対にして考えるべきだ、という。なぜならば、この二つはトレードオフの関係にあるからだ。「情報の豊かさは注意の貧困をもたらす」という名言を彼は残している。(同上書)

・非連続性とは何か。それは「パフォーマンスの次元そのものが変化すること」。これがピーター・ドラッカーによって与えられたイノベーションの定義である。これまた50年以上前の古い話だが、私見ではいまだにこれがもっとも正確で有意義なイノベーションの定義だと思う。(『世界を動かすイノベーターの条件』)

3号室(さまざまな書籍解説)

・他者とディファレントになりうるのは、そこにトレードオフがあるからである。男であれば女ではない。北に向かえば南に行けない。トレードオフにこそ独自性の基盤がある。どちらかに軸足をはっきりと置くからこそ独自性も際立つ。(『男の肖像』)

・今の時代、誰もが同じ情報を同じコストと同じスピードで手に入れることができる。真剣に商売しているということではみんな同じだ。こうした状況で他社との違いをつくろうとしても、組み合わせだけではほとんど差別化の可能性はない。ところが、そこに時間軸を入れて順列を考えればより攻め手のバリエーションが広がる。一見同じような持ち駒しか持ち合わせていなくても、違いをつくる可能性が広がる。(『成功を決める「順序」の経営』)

・凡庸な経営者ほど「とりあえず選択と集中」に走る。マクドナルドのような業界でいえば、不採算店舗の閉鎖である。確かに、不採算店舗を閉めればアセットが縮小して自己資本比率の改善や総資本売上総利益率が改善する。しかし、それをやった次にどうなるかという答えを持っている経営者は少ない。ストーリーが次から次へと展開せず、話がそこで終わってしまう。(同上書)

・人間は「時間的に遠いもの」に弱い。KPIが与えられれば、ストーリー全体を考えずに済む。気分よく思考停止できるのである。担当者だったらそれでよいが、これでは経営はできない。「KPIなんかにこだわるようじゃダメだ。でもそういうとすぐにKPIを全部引っ込めようとする人が出てくる。それはもっとダメ。自分の頭を使ってシークエンスを組み立てなければ経営にならない」というのが原田さんの弁だ。(同上書)

4号室(さまざまな書評)

・戦略の眼目は「何をしないか」にある。「何をするか」ではない。経営は常に資源制約の下で行われる。だとすれば「何をしないか」は「何をするか」と表裏一体だ。「何をしないか」を決めて、はじめて何かにコミットできる。捨象こそが選択であり、戦略的意志決定の本質である。「集中」は結果に過ぎない。(『選択と捨象』)

・「偉い人がエライ」、これは二流の企業の特徴である。あらゆる企業の一義的な存在理由は顧客に対する価値提供にある。偉い人がエライ組織では、この原理原則がしばしば歪められる。組織上位者の利害やメンツ、内部の論理が優先する。その結果、組織が間違った方向に暴走する。(『テヘランからきた男』)

・論理とは「XがYをもたらす」という因果関係についての信念である。因果関係である以上、論理は必ず時間を背負っている。ようするに順番の問題である。(『ヤマト正伝 小倉昌男が遺したもの』)

・二流経営者は「シナジー」という言葉を連発する。戦略を単に組み合わせの問題として考えていて、時間的な奥行きがない。その点、小林は「こういうことやると、こういうふうになる」と、いつもストーリーを考える。論理と思考が時間軸上でつながっている。(『日本が生んだ偉大なる経営イノベーター 小林一三』)

・だからこそ、夏は暑い、冬は寒いじゃなくて、夏に「寒くないぞ」と考えられるのが、経営者だと思うのです。小林一三はまさにそれをやった人ですね。(同上書)

・現状を悪く考えるのは人間の本性といってよい。「邪悪な時代がやってきて、世界は険悪となった。政治は腐敗した。子供たちはもはや親を尊敬しない」ーー本書で紹介されている紀元前3800年の碑文である。(『進歩 人類の未来が明るい10の理由』)

・芸能。文字通り「芸」の「才能」を売る仕事である。「大勢の人々を一時的にだますことはできる。少数の人を長い間だますことはできる。しかし大勢の人を長期的にだまし続けることはできない」。政治についての至言だが、大衆音楽にも当てはまる。才能の正体は持続性にある。(『1998年の宇多田ヒカル』)

・専門学校卒業後19歳でトヨタに入社した成瀬は現場叩き上げのテストドライバー。「感性の職人」である。自動車開発ではあらゆる性能が数値化される。しかし、「運転の楽しさ」「走りの気持ちよさ」は人が走行テストを繰り返すことでしか評価できない。成瀬はトヨタの300人のテストドライバーの頂点にいる「トップガン」だった。(『豊田章男が愛したテストドライバー』)

・生涯で為した悪の総量はよい勝負だが、ヒトラーとスターリンは人物としてはまるでモノが違う。スターリンは桁違い、正真正銘の怪物だった。ロシア革命やドイツとの大戦、ありとあらゆる挑戦を受けつつも、自らの政治的力量でそれらを克服し、最期まで独裁者として君臨した。(コラム「本質は細部に宿る」)

5号室(もっとさまざまな書評)

・「これまで見た中で首尾一貫した人は誰一人としていなかった」ーー人間洞察のプロを自認していた小説家、サマセット・モームの結論である。一人の人間の中に矛盾する面が矛盾なく同居している。そこに人間の面白さと人間理解の醍醐味がある。(「半歩遅れの読書術」)

・石原は何かを考えるときに、必ずそれが「何でないか」を考える。いつも頭の中に二つの対立する概念があり、それが思考のエンジンになっている。歴史理解という点でも石原はずば抜けていた。過去の戦争指導者がとった戦略の本質を見抜き、そこから独自の構想を引き出す。だから構想の体幹が太い。(『最終戦争論』)

・例えば、ファーストリテイリングの柳井さんは社員に向かって「あなたは商売の面白さがまだ分かっていない……」とかよく仰るんです。配属がどうとか、職種がどうだとか、インセンティブがどうだとか……もちろんそれもあるでしょう。けれど、それを100個繰り出すよりも「商売の面白さ」を分かってもらう方が、よっぽど人は動くと思うんです。そういったことを考える際の、参照点にしてもらえるといいなと思いますね。(著者インタビュー『好きなようにしてください』)

・ビジネスには有能な担当者が必要です。自分は経営者向きではないと悲観せず、経営はセンスのあるやつに任せればいいと、良い意味での”諦め”を持つのも悪くないと思います。(『経営センスの論理』)

・経営者にとっていちばん大切な資質をひとつだけ挙げろ、という無茶な質問をされたら、僕は「人間についての洞察」と答える。本田宗一郎は技術もバイクもクルマも好きだったが、それ以上に人間が好きだった。人に好かれることが理屈抜きに好きだった。このことが本田に尋常ならざる人と人の世に対する洞察力をもたらした。(「文藝春秋を彩った95人」)

・民主制下での政治というのは、基本的にはある制約の下での資源配分の問題である。有限な資源をどうやって配分するのか。しかも、企業経営と違って、ターゲット顧客の設定ができない。日本国民全員を相手にしなければいけない。そこに政治決断とリーダーシップが必要になる。ある意味では企業経営における意思決定よりもタフな仕事だ。…企業経営における意思決定と異なり、政治的な決断というのは「妥協の芸術」といってよい。(コラム「日記を読む、文脈を知る」)

コメント

各種の雑誌や新聞などで掲載された書評や本に関する文章が1冊にまとめられたのが本書であり、そのため一つの書籍に対する文章は長くても10ページくらい(対談のものはもう少し長いが)となっている。

全体では500ページ以上ありだいぶ分厚く感じるが、どこから読んでもいいので取っつきやすい。

楠木建氏がビジネスの競争戦略を専門としていることもあり、ビジネス書や企業、組織に関する書籍が多いが、それ以外の政治、経済、哲学、小説などの分野に関する書籍に対しての文章もある。

どの文章を読んでも面白いし、読んでいて苦痛でない。この分厚さでも次から次へと読めてしまう。

「文章がうまい」という言葉に収斂されてしまうのだが、読ませる文章を書くのが上手いと感じてしまう。

色々な書籍が紹介されているので、それらを読みたくなってしまう。既に何冊か読みたい本をリストアップしており、買うかどうか迷っている・・・。

面白い書籍を探すために読むのも良し、経営やビジネスにおけるヒントを掴むために読むのも良し、文章自体を楽しむのも良し。どんな使い方もできる。

一つ一つが長くないのでスキマ時間に読むにもピッタリ。紙の本だと分厚くて持ち運びが大変ではあるが。

自分は気が向いたときにパラパラめくるようの本として、取り出しやすい位置(積読タワー上部)に置いておこうと思う。

一言学び

トレードオフにこそ独自性の基盤がある。

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