読書レビュー:『保守主義とは何か』(宇野重規)

読書

読みたいと思ったきっかけ

新聞だったか雑誌だったかウェブの記事だったかは忘れたが、どこかで保守主義に関する言説を目にしたことをきっかけに、以前に購入していた本書を再読してみた。


内容

目次

目次は以下のとおりとなっている。

はじめに    
序章 変質する保守主義ー進歩主義の衰退のなかで
第1章 フランス革命と闘う
第2章 社会主義と闘う
第3章 「大きな政府」と闘う
第4章 日本の保守主義
終章 二十一世紀の保守主義
あとがき    

内容

わたしの気になった箇所について記載する。

はじめに

・近代とはいわば、このような進歩主義と保守主義との対抗関係を軸に展開した時代ともいえる。そして、その場合に重要なのは、この対抗関係のなかでイニシアティブを握ったのが、つねに進歩主義であったということである。進歩主義があってこそ保守主義もまた意味をもつのであって、その逆ではない。進歩主義が有力であればあるほど、それを批判する保守主義もまた存在意義をもったのである。

序章(変質する保守主義ー進歩主義の衰退のなかで)

・ギデンズにいわせれば、伝統ですら、その根拠を示さなければならないのが現代である。グローバル化が進み、多様な人々がともに暮らす現代社会で、何が「伝統」であり、何が「権威」であるかは、当然のことながら自明性を失う。

・別にそれでかまわない、自分にとっての「伝統」は「伝統」であって、説明したり正当化したりするつもりはない、という人も出てくるだろう。ギデンズによれば、そのような考え方はすでに「原理主義」的である。自分の考えを頭から正しいとして、他の人からの疑問や批判を受け付けないとき、それは「原理主義」的なのである。「原理主義」というと宗教や民族主義を思う人も多いだろうが、現代的な「原理主義」はそれらに限られない。社会の至るところで「原理主義」が台頭しつつあるのが、「ポスト伝統的社会秩序」のもう一つの側面であるといえるだろう。

・実際、本屋に行って「保守主義」という言葉をタイトルにもつ本を探してみるといい。まずはそのような本の多さに驚き、そこで「保守」すべきとされているものの内容の多様さに驚くだろう。現代とは、保守主義がブームになる時代、誰もが保守主義者になりうる時代なのである。

・このように、もし保守主義という場合にバークに言及するならば、少なくとも、①保守すべきは具体的な制度や慣習であり、②そのような制度や慣習は歴史のなかで培われたものであることを忘れてはならず、さらに、③大切なのは自由を維持することであり、④民主化を前提にしつつ、秩序ある漸進的改革が目指される、ということを踏まえる必要がある。

・そうだとしても、「保守革命」というのは、やはり自己矛盾した用語法といわざるをえない。…制度や慣習の連続性を重視し、現在する仕組みに手を加えながらやりくりしていくことに保守主義の原点があることを思えば、「革命」を目指す保守というのは、やはり奇妙な存在といわざるをえない。

・保守主義は近代の思想であった。社会の無限の「進歩」を信じることができた。人類の歴史でも稀有な時期に固有な思想であった。これに対し、今日の保守主義は、そのような近代が終焉した後の時代のものであり、その限りでは「ポストモダン」の保守主義である。あるいは、すでに言及したアンソニー・ギデンズの言葉を再び借りれば、「再帰的近代」、すなわち近代が、自らの生み出した作用の結果として変質し、新たな段階に入った時代の保守主義なのである。

第1章(フランス革命と闘う)

・実際の所、バークはたしかに抽象的な理性の仕様を批判したが、けっして理性そのものを否定したわけではない。

・バークは「政党とは、その連帯した努力により彼ら全員の間で一致しているある特定の原理にもとづいて、国家利益の促進のために統合する人間集団のことである」と定義した。…このような政党の定義は、政治思想の歴史のなかで画期的なものである。というのも、古来、政党と派閥とはとくに区別されることもなく、両者はともに社会全体の公共利益に敵対する部分利益と見なされてきたからである。これに対しバークは、政党を国家利益の促進のために、原理を共有する集団として再定義することで、単なる一時的利害によって結びついた派閥と区別する理論的基礎を提供したのである。

・代議士は選挙区から選ばれるとしても、あくまで国家全体の公共の利益を考えなければならない。現代の民主的国家ですら、政治家がなかなか口にしにくい正論である。

・マンハイムによれば、保守主義は、単に旧来のものを墨守し、変化を嫌うという意味での保守感情や伝統主義とは、はっきりと区別される。そのような志向は、いつの時代にも、どの社会にも見られるものであった。これに対し保守主義は、フランス革命とその後のダイナミックな変化に、自覚的に対応するものにほかならない。いまや保守すべき何かが危機にさらされている以上、これを積極的に選び直し、保守しなければならない。このような高度な自覚こそが、保守主義を生み出したのだとマンハイムは論じた。

・過去に回帰すべき範を求めるのではなく、抽象的な原理に基づいて未来へ跳躍することーーバークが震撼したのは、そのような事態であった。

・いま生きている人間は、自分たちが生きている時代のことしかわからない。それゆえ現在という時間によって制限された人々の理性は、過去と未来の世代によって補われる必要がある。バークは現在の人間の視点を、時間軸に沿って拡大することによって補完しようとしたのである。

第2章(社会主義と闘う)

・ただし、二十世紀の保守主義について考えるためには、狭い意味での社会主義批判より、もう少し射程を拡げる必要があるだろう。二十世紀前半の保守主義は、(バークのときと同様に)英国をその主な舞台とするが、英国保守主義の基本的な問題意識を形成したのは、むしろ文学者、あるいは文人たちであったからである。

・国家の積極的介入により個人の自由をはかる二十世紀的なリベラリズムが発展する一方で、「理論による革命」に対して懐疑主義の精神をもって向き合ったのも二十世紀的な自由主義の一つの現れであった。

・オークショットが批判するのは「合理主義者」である。この場合の「合理主義者」とは、理性のみを強調し、権威や伝統、慣習といったものからの精神の独立を主張する人々である。そのような合理主義者は経験を否定するわけではないが、認めるのはあくまで自分自身だけの経験である。言い換えれば、合理主義者は人の経験から学ぼうとしない。

・政治教育はまず、伝統を学び、先行する人々の行動を観察し、模倣することから始めなければならない。その意味で、歴史研究は政治教育で不可欠の部分をなす。その場合も、過去に起きた個々の出来事を学ぶだけでなく、政治的思考様式の歴史を学ぶことが大切であるとオークショットはいう。

第3章(「大きな政府」と闘う)

・英国とアメリカは同じアングロサクソン諸国とはいえ、大きく異なる政治的伝統をもつ。とくにアメリカの場合、政治学者のルイス・ハーツが『アメリカ自由主義の伝統』で強調したように、ヨーロッパの王政や貴族制の伝統がもち込まれることはなかった。結果として、「独立宣言」に示されたジョン・ロック的な自由主義、すなわち個人の所有権から出発して、人民の信託によって政府が設立されたと考える発想が正統的な思想となり、民主化以前の伝統に固執するヨーロッパ的な保守主義や、それに対抗する社会主義が等しく根を下ろさなかったのがアメリカの特徴とされる。

・とくに伝統主義的なキリスト教信仰と、所有権の絶対性を説く経済的自由主義は、以後のアメリカ保守主義の際立った特徴となっていく。

・間違いないのは、アメリカが現代の先進国で例外的に「宗教的な」国家であるという事実である。

・しばしば、アメリカの中心を形成したのはWASP(白人でアングロサクソン系、かつプロテスタント)であったといわれる。しかしながら、同じくプロテスタントといっても、多数派である主流派が近代化を受け入れ、世俗に対しても比較的に寛容であるのに対し、『聖書』を文字通り神の言葉として捉える福音派はより『聖書』に忠実で、回心体験をきわめて重視する。科学や政治に対する態度を含め、両者の違いは大きい。

・その根底にあるのは、世俗化し、個人化した現代社会にあって、自らの精神的拠りどころを求める人々の切実な欲求なのである。

・とはいえ、このような「伝統主義」だけならば、それが政治運動のプログラムになることは難しかったであろう。リベラリズムに対する異議申し立てとはなりえても、それに対抗するだけの具体的な政策や制度的提案に欠けていたからである。現代アメリカの保守主義が、単なる精神的態度やメンタリティに終わることなく、一つの「革命」へと結晶化するにあたっては、「伝統主義」に加え、もう一つの要素が付け加わる必要があった。それが「リバタリアニズム(Libertarianism)」である。

・現代アメリカの保守主義を構成する大きな要素として伝統主義とリバタリアニズムがあるが、両者は本来異質な思想であり、その結びつきはけっして必然的ではない。むしろ、リバタリアニズムのもつ個人主義と経済的自由への強い志向は、伝統的な共同体や信仰心との間に摩擦を生み出しかねない緊張を秘めている。両者が結びついたのは、貴族制や封建社会の伝統が持ち込まれることなく、むしろ個人の自由や所有権こそが社会の基本原理となったアメリカに特有の現象といえるだろう。その意味で、同じ結びつきが他の多くの社会でも当然に成り立つとは限らない。

・そもそも初期のネオコンに近い立場にあった社会学者のダニエル・ベルが1960年に「イデオロギーの終焉」を説いたように、このグループには、もはやイデオロギー対立の時代は終わり、今後は専門家集団による合理的な社会運営を目指すべきである、とする発想が根強く見られる。さまざまなシンクタンクと連携し、政策提言にも積極的なことと合わせ、ネオコンには社会変革への志向があることは否定できない。

・市場化と宗教化は今日の世界を見る際に、もっとも重要な要因であることは間違いない。

第4章(日本の保守主義)

・保守主義はあくまでも自由という価値を追求するものであり、民主主義を完全に否定する反動や復古主義とは異なる。保守主義は高度に自覚的な近代的思想であった。

・丸山が日本における連続性の欠如を前提に、あえて「虚妄」の戦後民主主義に賭けたとすれば、福田はこれを否認し、むしろ江戸時代以来の民衆の生き方を評価した。人間は過去なしに生きられないと考える福田は、あくまで「態度」としての保守を擁護したのである。

・それでは、このような近代日本における「保守本流」はどこに行き着いたのか。この流れは原敬による政友会内閣(1918-21)で一つのピークを迎え、その後は西園寺公望や牧野伸顕らによって維持され、やがていわゆる「重臣的リベラリズム」(天皇側近における一定のリベラルな思想傾向)を形成する。彼らはいずれも英国流のリベラリズムや議会政治を高く評価し、天皇を輔弼する元老・内大臣として、政友会と民政党による政党内閣制に支持を与えた。

・いわば、戦後の保守主義は状況への適応としての側面が強く、保守すべきものの理念は曖昧なままであった。

・戦後日本の保守主義を困難なものにしているのが、敗戦と占領という経験であることは間違いない。

第5章(二十一世紀の保守主義)

・社会心理学者のジョナサン・ハイトは、アメリカ社会の左派と右派の分断について、イデオロギーや利害の対立ではなく、むしろ感情的な対立であるとして分析を試みている。(『社会はなぜ左と右にわかれるのか』)。ハイトによれば、人々は自らの道徳や政治的立場を、理性に基づく熟慮によって決定しているわけではない。重要なのは感情による直観である。理屈づけや合理的説明は後からなされるが、最初からそのような理由で決めていると人々は錯覚してしまうのである。

・ハイトと同様、ヒースもまた保守主義の優位を主張する。リベラルが政治を政策や計画の問題として理解しているのに対し、保守は政治を「勘」と「価値観」の問題として捉えている。選挙戦は人々の頭ではなく、心に訴えることで決まるという点をよく心得ているのは、保守の方である。

コメント

保守と聞くと、ついつい反動的で、昔や伝統に固執した復古主義のイメージが湧いてしまうが、本書を読めば、保守主義がそういったものと区別されることがわかる。

そもそも保守主義が自由という価値を守ることを主眼に置いているというのも、結構世間一般の保守へのイメージと異なるかもしれない。

これは保守という用語事態が復古主義や伝統主義を醸し出しているのが原因かもしれない。

なんとなく保守と聞いただけで前時代的な価値観を守るべく行動している頭の硬そうな人というステレオタイプが脳裏によぎってしまうが、本書を読めば本来の保守主義とはそういったものでないことが明確にわかる。

とはいえ、本書でも語られているとおり、保守主義の意味するところやそれが何を守ろうとしている思想なのか、などといったことはその国の歴史や文化に規定されるため、概括的なことは言えないのもまた事実という。

本書では触れられていないが、今後テクノロジーの進歩によっても保守主義のイメージは大きく変わる可能性もあると思う。

テクノロジーの進歩により人々がより快適に暮らすようになり、共同体が分化されて、同じ価値観の人々とのみ交流したとしても生きていけるような社会になったとき、もはや守るべき伝統や価値観、自由(それが傍目から見たときに不自由であったとしても)は存在しなくなるかもしれない。

守るべきものがなくなったとき、保守主義という思想自体のレゾンデートルはなくなるように思うのだが、そうなったときはそうなったときでまた何かしら守るべき考え方が出てくるのかもしれない。

それにしても保守主義を考える文脈において、英米の特殊性は考慮すべきという点は合点がいった。アメリカについてはよく言われるようにヨーロッパの伝統がなく、また啓蒙主義の挫折がなかったことから生じるロマン主義への移行も起きなかったなど、その特殊性が説明される。

しかし、英国が名誉革命によって確立した国制が墨守するべきものとしてあった点で、他のヨーロッパ諸国と異なるというのは、今回の発見だったように思う。(市民革命が生じた時期が英国が早かったのがポイントなのだろうか・・・)

保守主義の歴史的な流れや各国における違いを章ごとに丁寧に述べられており、非常に読みやすい一冊だった。頭の良い人の書いている文章といった印象。

保守主義に興味のある人や、またアメリカ政治における思想的な変遷に興味がある人にも特に有益になるはず。

一言学び

市場化と宗教化は今日の世界を見る際に、もっとも重要な要因であることは間違いない。


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