読みたいと思ったきっかけ
楠木建氏にハマっており、著者買い。
内容
目次
目次は以下のとおりとなっている。
まえがき | : | 「好き嫌い」の復権 |
Profile #01 | : | 永守重信 日本電産 代表取締役社長 |
Profile #02 | : | 柳井正 ファーストリテイリング 代表取締役会長兼社長 |
Profile #03 | : | 原田泳幸 日本マクドナルドホールディングス 取締役会長 |
Profile #04 | : | 新浪剛史 ローソン 取締役会長 |
Profile #05 | : | 佐山展生 インテグラル 代表取締役パートナー |
Profile #06 | : | 松本大 マネックス証券 代表取締役社長CEO |
Profile #07 | : | 藤田晋 サイバーエージェント 代表取締役社長 |
Profile #08 | : | 重松理 ユナイテッドアローズ 名誉会長 |
Profile #09 | : | 出口治明 ライフネット生命保険 代表取締役会長兼CEO |
Profile #10 | : | 石黒不二代 ネットイヤーグループ 代表取締役社長兼CEO |
Profile #11 | : | 江幡哲也 オールアバウト 代表取締役社長兼CEO |
Profile #12 | : | 前澤友作 スタートトゥデイ 代表取締役 |
Profile #13 | : | 星野佳路 星野リゾート 代表 |
Profile #14 | : | 大前研一 経営コンサルタント |
Profile #15 | : | 楠木建 一橋大学大学院国際企業戦略研究科 教授 |
内容
わたしの気になった箇所について記載する。
まえがき
■位置エネルギーを獲得するに従って運動エネルギーを喪失する「状態のリーダー」は、経営という仕事の誘因(インセンティブ)と動因(ドライバー)を混同している。誘因と動因のすり替え、といってもよい。誘因と動因は異なる。誘因とは、文字どおりその人の行動や意思決定をある方向へと「誘うもの」であり、当事者を取り巻く外的な環境や条件にある。給料やボーナスといった金銭的なインセンティブはもちろん、昇進や出世も誘因である。目の前にそうした誘因を提示すれば、人はそれに誘われてある種の行動をとる。それに対して、動因はその人の内部から自然と湧き上がってくるものだ。内発的なモティベーションといってもよい。自分のなかに強い動因があれば、外的な誘因がなくとも、場合によっては負の誘因(ディスインセンティブ)があったとしても、人は動く。
#01永守
■タクシーでも何でも、とにかく自分が価値を認めないものにお金を費やすことほどの無駄はない。僕が一番嫌いなのは、身分不相応なことをやること。これは死んだ母親の教えです。(永守)
■それはグローバルな仕事じゃないですね。確かに世界中、どこの国へ行っても必要なものだけど、それぞれの国の規制や法律が関係してくる。「許認可を要するものはやらない」というのが僕の今の考えだから、世界自由競争のものしかやりません。役所に頼み事をするような会社に興味はありません。(永守)
#02柳井
※特になし
#03原田
■たぶん普通の心理では、苦しいことに直面したら、まず逃れようと考えるでしょう。私の場合は、まず「よし!精いっぱい、ここで苦しみを感じよう」となる。そうやって覚悟を決めるとアイディアが出てきます。(原田)
■自分の限界で終わってしまうと、成長はないと感じています。私にとってトレーナーは、いつも課題があるように見張ってくれる存在です。(原田)
■つまり、ある時点では利益を求め、ある時点ではコストを上げてでも品質向上を求める。そうすることで、時間の流れとともに利益と品質の両方が上向きになっていきます。こういう観点で考えたとき、KPI(重要業績評価指標)管理を数値管理だけでやると、見誤るということがわかります。利益か品質かの二者択一になってしまう原因だと思います。(原田)
#04新浪
■モチベーションを上げるには、お互いに同じ方向を向くというのが重要で、上下関係で不条理にやったら絶対無理です。それをリーダーが示さないと下が間違えてしまいます。給与を急に増やすことはできないけれど、直接声をかけることはできる。そうすれば何かしらのシェアができるし、モチベートできると思っています。どんなにオートメーション化されても、最後は人。これはどの分野も同じだと思いますね。(新浪)
■そうです。そこまで言うからには、それだけのことをやらなきゃいけない。やれてなかったら、やれるようになるまで黙ってやるしかないと覚悟しています。サラリーマンの大きな組織のなかで評価されたいだけの人は実に多いし、そんな人に気を使う時間がもったいない。それだけ追い込まれているわけです。要らない人から早く要る人に切り替えないと、会社がおかしくなる。(新浪)
#05佐山
■肩書がなくなって初めて、個人にスポットライトが当たり、初めて「素の自分」に気づく。それまでは看板の肩書きにライトが当たっていたのでしょう。私は学生たちに、「将来出世しても、何とか銀行とか何とか商事という肩書が、自分に染み込んでいるような錯覚をするな」と話します。会社を辞めて初めて、ワッペンなしの「素の自分」に気がつくのでは遅い。早いうちから社内価値ではなく市場価値を高めることをやっておくかおかないかで、将来違うよと。(佐山)
#06松本
※特になし
#07藤田
■情報と注意は完全にトレードオフですね。情報の数が多いと、1つひとつに注がれる注意は減りますからね。そこで人間の注意を回復するようなサービスがあったら、ますますインターネットも便利になると思うのですよ。(楠木)
■まあ、そうですね。既得権益の世界は、基本的に「守ろう」というパワーがすごいですし、そういう場に下から入れてもらうときの敷居の高さや面倒臭さよりも、新しいところでゼロからやるほうが好きです。(藤田)でも、きちんと秩序があるなかで上に行くことがすごく好きで、パワーをいくらでも出せる人もいますからね。それこそ好き嫌いの最たるもので。(楠木)
■モテないということは、人間にとってすごく重要ですね。僕も若い頃からとにかくモテなかった。デフォルトが「モテない」なので、物事が自分の思いどおりにいかないものだというのが染みついています。このことは仕事をするうえですごくためになりました。うまくいかなくても、「ま、そうだよな」「ま、いいか」なので、いちいち落ち込んだりしませんし。(楠木)
#08重松
■今はそんなに読んでいません。以前は経済・経営書をたくさん読みました。「創造的破壊」で有名なシュンペーターとか。でも、ドラッカーを読んでからは、ほかの本を読まなくなりました。というのは、経営に関しては、ドラッカーに尽きると思っているので。ドラッカー以上のものはないんじゃないでしょうか。(重松)ドラッカーは超本質ですよね。ドラッカーだけで、ご飯10杯いける。(楠木)
#09出口
■トータルメディアという考え方があるでしょう。横尾忠則さんがよく言ってましたが、特定の人物や具象をフィルターにして、ありとあらゆるものを見たり考えたりするという。僕はわりとそのトータルメディアというものが欲しいほうですね。(楠木)
■僕自身は、仕事なんかどうでもいいと思っているんですよ。人生80年として、平均的な時間を計算してみたら、寝て食べて遊んでいる時間が3分の2以上を占めていて、仕事に費やす時間なんて3分の1くらいです。3割くらいのものなんていうのは、全体を10としたらどうでもいいことなんです。人間にとって大事なのは、良いパートナーを見つけて楽しい生活を送ることで、仕事なんて価値がない。価値がないものだったら、何でそんなもののために上司にごまをするとか、人からどう思われるとか、そんなしょうもないことを考えるんだと。どうでもいいことだったら好きにやればいいじゃないか。思うとおりやって、チャレンジして、イヤだったらチェンジすればいい。(出口)最高ですね。普通は、特に若い方だと、勝つか負けるか、がんばらないといけない、これからはコレが大切だ、となる。いわゆる「ビジネス書」には、そういうことがいっぱい書いてあるんですよ。もうそういうことばっかり。(楠木)
■仕事が100%だと思ったら、上司に嫌われただけで俺の一生はもう終わりだと落ち込むじゃないですか。どうでもいいものだと思っていて、みんな失敗するという現実が見えていれば、「ああ、失敗した。俺もやっぱり普通の人間や、99%の多数派なんや」と思えば気が楽になる。だから仕事で落ち込んだり悩んだりしている人は、人生における仕事の位置づけが間違っている。人間と人間が作る社会に対する洞察力が欠けている。小説を読んだり、たくさんの人と飲んだり、遊んだり、世界を旅したりすれば、仕事なんかどうでもいいということがよくわかると思います。(出口)それはイイ話ですね。気が楽になりますし、人生が豊かになりますね。しょせん人間なんてそんなもの。(楠木)
■一番憧れるのは自然な人、素直な人ですね。どんな事象に対しても、まったく同じ態度で、素直に受け入れることができる。人間の能力のなかでは素直であることが一番高い能力であると思いますね。(出口)
■ギリシャの神様ですら一度言った言葉は取り消せないのだから、人間は言うまでもありません。もちろん朝令暮改はあってもいいと思いますし、間違えたらごめんなさいと言えばそれでいいと思うんです。ただ、やはり行動や信念、理念は変えるべきではない。それは社会を作っていく上での基本的なルールでしょう。だからギリシャの人々は、「神様ですら、言った言葉は取り消せない」というロジックを作って、有名なギリシャ悲劇を書いたわけです。(出口)
#10石黒
※特になし
#11江幡
■僕は個人的にビジネス書の「キーワード」とか「フレームワーク」は嫌いですね。「ストーリー戦略」とか(笑)。そういうことばかりインプットしている人は商売であまり成功しないんじゃないかと。このフレームワークで分析すると……、なんて言う前に、どうやって稼いでいくのか、自分の考えを述べてくれ、と言いたくなりますね。(楠木)
#12前澤
■前澤さんのいろいろな言葉からは、「自分にできることを、自分でやれ」というメッセージを感じますし、僕はそれに共感するのです。何時の時代もいろいろな問題があって、みんながハッピーというわけにはいかない。そうすると、文句を言う人が出てきます。そのなかには何か運動をしたり、「みんなでこうしようぜ!」とやたらと人に呼び掛けるタイプがいます。僕はあれば嫌いです。文句があるなら、自分ができる小さなことをやればいいし、自分の日々の生活や仕事のなかで、少しでもよくなるようにすればいいだけだと思うのです。(楠木)
■ああいうふうに騒動みたいになると、発言の内容までコロッと変えちゃう人がいるじゃないですか。それは嫌ですよね。僕も反省の日々ですけれど、反省して悪いところを改めるだけじゃなく、自分本来のスタイルや考え方まで変えてしまうと元も子もなくなる。(楠木)
■だから僕は、自分の頭でものを考えるときに一番手っ取り早い方法というのは、外から入ってくる情報を減らすことだと思うのです。「スマホからアプリを一掃しよう、テレビは捨てよう、新聞はさーっと読めば十分、『東洋経済』は読まないようにしよう」という姿勢が大切(笑)。
#13星野
■フラットな組織文化と私は呼んでいて、すごく難しい概念を簡単に言うと、「会社組織の人間関係がフラット」という意味です。職務上の権限はいろいろあってもいい。ただし人間関係はフラットであることによって、議論が普通にできる環境が整うということです。意思決定は最終的には権限者がやらないといけないし、それが私の役割ですが、申し上げたとおり心配性だし、悩みもあるし、わからないことだらけです。考える段階においてはフラットに議論する仲間がいればいるほど助かる。これと同じ状態を各旅館やリゾートでつくってほしいと思っています。意思決定するまでの間のフラットな議論こそ、意思決定者に正しい判断をさせる上で何よりも大切な文化ですから。もっとも、「コミュニケーションを自由にやってください、言いたいことを言ってください」と制度的に入れても駄目だったのです。これは制度じゃなくてやはり文化ですよね。(星野)
#14大前
■経営学というのはストーリーが出ていたらまず駄目だと思うね。ストーリーというのは思い返して出てくる部分が非常に多い。私もいろんなずるい経営者に会っているけれど、みんなうまい具合に過去が物語になっています。だけど一緒に苦労した人間から見ると違いますよ。必死になって生きようとした末にやっただけというのがほとんどです。先程シンガポールとマレーシアの話をしましたが、「おっ!この国はこういう姿が見えるよな」とポッと気がつくのが先です。(大前)
■仕事をリタイアしてから死ぬまでに20年あったら、自分で自由になる時間が8万9000時間あるわけです。この時間をどう過ごすかと聞かれたときにノーアイディアだったら、今まで会社でどんなことをやっていても死ぬときは不幸だと思います。そこを考えたくなくて「いつまでも働きたい」という人が最近増えていますが、これは迷惑ですよ。仕事をやっている自分と、死の直前の自分と、その間の15年か20年の自分。この3つの自分について、どう生きたいかをちゃんと考えるといいと思います。戦後の日本人に欠落している部分ですよね。(大前)
#15楠木
■ポイントは、「正しいこと」と「正しいこと」の選択だということです。そういう決定的瞬間での判断を迫られたときに人間は自分の価値観を知る、というのがバダラッコさんの主張です。決めないわけにはいかないのですから、自分で判断し、選択し、動いてみるしかない。人間はこうした決定的瞬間の積み重ねで自分の価値観についての理解を深めていくというのです。
■「経営者にとって一番重要なものを1つだけ挙げろ」と言われたら、「人間に対する洞察」というのが僕の答えです。インタビューでの永守さんの言葉が非常に印象的でした。僕が「永守さんというと、ハードワークで即断即決、厳しくて冷酷無比みたいなイメージが世の中にはあります」と申し上げたら、永守さんは「それじゃ人はついてこないよ」と一言おっしゃった。そのとおりですね。管理するのではなくて、統率する。極端な言葉を使えば、経営者とは組織の人々を「心酔」させて率いるものです。その1つ奥にあるのは、そもそも人間に対しての興味が強い、人間が好きだということでしょう。
コメント
本書は楠木建氏が経営者の方々に「好き嫌い」を聞く対談記録となっている。
2014年に初版が発行されているので、もう10年以上前の書籍となるため、経営者の肩書やポジションなどに変化があるが、記載内容について古いと思われることは特にない。
幅広い分野の人が出てくるため、それぞれの好き嫌い、考えが述べられていて単純に読んでいて面白い。
本書にも記載があるが「広い意味で同じアパレル業界でも重松(理)さんや前澤(友作)さんと柳井さんの好き嫌いはだいぶ違い」があるというのが興味深い。
それぞれ企業経営においては軌道に乗せており「成功」しているわけだが、そこに至るまでのプロセスは当然異なっているわけであり、そのプロセスの違いを生み出している「好き嫌い」もまた違っているというのが、「成功」が多様な道筋で達成できることを表しているように感じた。
本書の中で特に印象的だったのは誘因(インセンティブ)と動因(ドライバー)の違い。
「給料やボーナスといった金銭的なインセンティブはもちろん、昇進や出世も誘因である」一方で、「動因はその人の内部から自然と湧き上がってくるもの」として定義される。
自分自身は日頃からインセンティブとドライバーという言葉を使うことがあったが、厳密に定義づけせず、ふわふわとした定義で使用していたことを反省。
内発的なモチベーションであるドライバーをどう保持するか。これが重要であるのだが、そもそもこういった課題設定自体がドライバーの定義からすると間違っているのかもしれないけど・・・。
また、最後に楠木建氏が語る「極端な言葉を使えば、経営者とは組織の人々を「心酔」させて率いるもの」というのも非常に頭に残った。
自分の短い会社員生活においても付いていきたいと思える上司は「心酔」マネジメントがあったように感じる。
「心酔」させるには仕事ができるだけではなく、その人自身に魅力がなければ付いていきたいとは思わせることはできない。
これはミメーシスを惹起できるくらいの「ひとかどの人物」という話に通じるものかもしれない。
根本にあるのは人間的な魅力、それは個別具体的なスキルや能力を総合したものではなく、要素に還元できない総体としてあるもの。
この対話に出てくるのは一線級の経営者の方々であり、少なくとも何かしらチャームがあるから組織を率いてこられたと考えられるし、対談のなかでもそのチャームの片鱗が見えるような気もする。
何かのファンになったり好きになったりすると、外野から「信者」と罵られるのをよく目にするが、人を「心酔」させて率いるということに鑑みれば、それは原理上、避けられないように思う。そうじゃないとファンも獲得できないし、人は付いてこない。
一言学び
極端な言葉を使えば、経営者とは組織の人々を「心酔」させて率いるもの。
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