読みたいと思ったきっかけ
佐藤優氏の著作なので著者買い。
内容
目次
目次は以下のとおりとなっている。
はじめに | ||
数学・人工知能 | : | 新井紀子 DXで仕事がなくなる時代をいかに生き抜くか |
土木工学・社会工学・思想 | : | 藤井聡 巨大地震とデフレが日本を滅ぼす前に |
マーケティング | : | 三浦展 男性は結婚できると中流意識が持てる |
経済学 | : | 中谷巌 資本主義にいかに倫理を導入するか |
人口学 | : | 河合雅司 人口減少が進む日本で「戦略的に縮む」方法 |
教育学 | : | 柳沢幸雄 毎年1000人海外へ「現代の遣唐使」を作れ |
経済学 | : | 岩村充 変容する資本主義と経済成長時代の終焉 |
経営学 | : | 菊澤研宗 人間は「合理的」に行動して失敗する |
皇室論 | : | 君塚直隆 現代の君主制には国民の支持が不可欠である |
会計学 | : | 八田進二 「禊」のツールとなった「第三者委員会」再考 |
仏教学 | : | 戸松義晴 仏教は「家の宗教」から「個の宗教」へ向かう |
イノベーション論 | : | 清水洋 「野生化」するイノベーションにどう向き合えばいいか |
医学 | : | 國頭英夫 財政破綻を目前に、医療をいかに持続可能にするか |
小説・評論・文学 | : | 五木寛之 「老大国」日本が目指すは「成長」でなく「成熟」 |
おわりに |
内容
わたしの気になった箇所について記載する。
新井紀子
■21世紀はテクノロジーの世紀であるとともに、新文書主義の時代です。対面でのコミュニケーションよりもメールやマニュアルなど、文書によるやりとりの比率がどんどん上がっている。しかも高度な内容を読み解かなくてはいけませんし、そこでミスをすると大きな損害になったりします。(新井)
■文字列によるコミュニケーションはあらゆるレベルで浸透していますが、SNSでのショートメッセージ的なやりとりしかしていない人と、業務的な文書を書かねばならず、かつ読まねばならない人とでは、どんどん読解力が乖離していきます。(新井)
■霞が関の官僚たちも大量の文章を読んで的確に処理することが得意ですが、ホワイトカラーの中でも二分されていくのでしょうね。(佐藤)
■恐ろしいことに、DXによって起きるのは、人を不要とするタイプの変化です。労働者がいらなくなる。もっともシンギュラリティは来ないので、全部いらないということはなく、非情に高い能力を持つ人が少数必要な世界になっていきます。(新井)
藤井聡
■官僚もみな最初は合理的な思考を持っていたはずですが、そういう理不尽な出来事を通じて権力の本質を覚えていく。権力とは、相手の意思に反して自分の意思を強要することであり、合理的なことをなすにはまず権力を握るしかないと考える。でも力をつけていくうちに、その当人も合理性を失っていくんです。(佐藤)
三浦展
■ところがカップ麺もファストフードも立ち食いそばも利用度は上流のほうが多く、下流では少ないのです。上流の人は忙しいので、昼はそれらで済ますから。でもコンビニ弁当は明らかに下流で多い。…趣味だとパソコンやゲームは下流に多く、スポーツと答えるのは上流ですね。(三浦)
中谷巌
■やはりさまざまな制度は、人間の生活の中で、試行錯誤して作り上げてきたものと考えるしかない。だから伝統は重要です。ただ、右派でも立派な教育基本法を作れば背筋の通った日本人ができると考えたら、これは設計主義です。(佐藤)
河合雅司
■いま年間で30万人減っています。それが2040年ごろになると、90万人ずつ減ってくる。やがて100万人です。企業は立ちゆかなくなりますよ。日本は加工貿易国と言っていますが、実際はほとんどの企業が1億2600万人の内需で何とか経営を成り立たせていますから。(河合)
■日本のGDPにおける貿易の割合は14%くらいで、韓国の半分以下です。だから明らかに日本は内需型の国です。(佐藤)
菊澤研宗
■これも理論があって、合理的に悪い人々が生存し善い人々が淘汰されるという「アドバース・セレクション」(逆淘汰)という現象です。限定合理性のもとでは、例えば、良心的な経営者が、不況で特定の従業員をクビにするのは忍びないので早期退職制度を採用すると、有能な人は合理的に退職し、社外に働き場を見出だせない無能な人だけが合理的に残ることになる。インパール作戦も、一方で善良な人々は準備命令のもとでは補給困難で実行させることはないと考えて表舞台から去り、他方で個人的で政治的野心を持つ悪しき人々が実行を求めて表舞台に上がってきた。(菊澤)
■最近、ゼミの学生に、損得計算の結果と価値判断の結果がズレた経験をレポートしてもらったんです。すると出てきたのは、やっぱりというか、いじめの問題なんですね。塾で一緒の仲のいい友達が学校ではいじめられている。いじめは悪いことなので止めるべきだったが、自分もその対象になると損をするので、助けにいかなかった(菊澤)
■伝統的な日本型経営を評価すると、古い、遅れていると考える人がいますが、私は逆に半歩先を行っていると思うんです。コンプライアンス至上主義とか、評価主義や働き方改革で、いま会社組織はそうとうに歪みや軋みが出てきている。やっぱり組織には健全な愛社精神とか、損得計算を超えた理念が必要ですよ。(佐藤)
君塚直隆
■そこでは政府と別次元の、国民の生の声を聞くことができる。政府はどうしても軍事、外交、通商で忙しいですから、弱者に対するケアがこぼれていく。そこを王室が補っていく形になっているのです。(君塚)
■婚姻の自由があるのだったら、表現の自由はどうか、学問の自由はどうか。さらに言えば政治の自由はどうか、と広がっていきかねない。その時、どうするのか。もともと非合理なシステムですから、どこか部分的にでも合理的なことを入れると、かなり速いスピードで制度が溶解していくと思います。だから非合理なものは非合理なままにしておいたほうがいいと考えているのです。(佐藤)
八田進二
■不祥事が起きて第三者委員会が設置されると、どのメディアも「どこまで真相に迫れるか、注目される」式に原稿をまとめますが、それが実際にきちんと評価されることは滅多にないんですね。実は報告書は玉石混淆で、酷いものもたくさんあるというのが実態です。(八田)
■(評者注:第三者委員会の仕組みは)純然たるメイド・イン・ジャパンのスキームです。ルーツは不良債権問題で1997年に自己破産した山一證券の「社内調査委員会」です。すなわち損失隠しの実態究明を目的に、委員長には常務取締役が就き、社内7名、社外2名で構成されていました。その調査報告書の対外公表が前例のない試みだったのです。リスク管理の不在、先送り、隠蔽、責任回避、官との癒着などさまざまな実態を暴き出しました。(八田)
■弁護士資格で税理士登録することは可能ですが、大半は会計を知りませんよ。彼らがかつて行われた会計処理や手続きの正当性、妥当性を判断している。そんなことは無理です。会計には主観的要素もあって、一義的に答えが出ないものがたくさんあるのです。(八田)
■まずはきちんとした委員を選ぶことです。「第三者性」を考えて選ばなければなりません。私の専門の監査論では、第三者という言葉はキーワードです。独立性、公平性に加えて、専門性、倫理性も含めて第三者性と言います。(八田)
清水洋
■「手近な果実」と言いますが、アメリカでは、簡単に利益を得られそうな分野に研究者が出ていってしまった。確かに流動性の高い社会では、イノベーションは起こりやすくなりますが、それと同時に、達成する水準が低くなる傾向があるんです。つまりスタートアップを促進すればイノベーションは次々生み出されるものの、万事OKとはなるわけではない。ここが従来の常識と異なる視点で、シュンペーター賞の受賞に繋がったのだと思います。(清水)
■人材派遣会社の人に聞いたら、外務省の局長級の人も、転職したら年収300万円台と言っていましたね。(佐藤)
■日本ではもっとみんなが自身の市場価値を高めていく必要があるんです。イノベーションは創造的破壊と言われますが、これまで創造面ばかりを見て破壊面をあまり考えてこなかった。流動性が高まると、どんどん破滅的なイノベーションが出てきて、仕事を失う人たちも出てきます。これもまたイノベーションのパターンの一つです。(清水)
■自分のキャリアはリスク分散できません。その点では、女性の社会進出が重要になってくると思います。その人に家庭があって、夫の収入だけで家計を支えていると、すぐに立ちゆかなくなります。でも二人なら何とかなるかもしれない。自身の市場価値を高めるとともに、そうした形でリスクをシェアできるような生き方が必要になってくると思いますね。(清水)
五木寛之
■でも宗教にはやっぱり「肉体性」が必要なんだな。(五木)だから宗教としてカトリックや正教、それからイスラム教は強い。プロテスタントや仏教は近代化してしまっています。(佐藤)
■そう、イエスもソクラテスもみんなそう。大事なことは、声に出して語られる。そして問答をすることです。自分で書いたものはどうしても修飾するし、自分の本音さえ飾ってしまうけれども、相手がいるとそうはいかない。(五木)
おわりに
■筆者は高校1年生(15歳)の夏休みにソ連(ロシア、ウクライナ、ウズベキスタン)、東欧(ポーランド、チェコスロヴァキア、ハンガリー、ルーマニア)を一人旅した。このときの経験が後の人生においてとても役だった。大学生や大学院生になって本格的な留学をすることも重要だが、異文化体験はもっと早く中学生か高校生のうちにしておくと、将来、海外で学んだり働いたりしたいという動機を生み出すことになる。
コメント
週刊新潮で掲載された対談をまとめたものが書籍化されたのが本書。
各分野の専門家の方との対談が14本載っているので、普段は自分で関心を持たなさそうなトピックに触れられるのが良い。
個人的には八田進二氏との対談で触れられている「第三者委員会」の話が興味深かった。
「第三者委員会」が純粋な日本発祥のスキームであることや、調査報告書も玉石混淆で酷いものもあるというのは驚きだった。
でも確かに何かしら不祥事が起きた際に「第三者委員会」を発足したというニュースまでは目にするが、よっぽど大きな事件でない限り、その「第三者委員会」の報告がどういったものだったのかを詳細に報道しているケースにはなかなかお目にかかれない。
これは「第三者委員会」のケースにとどまらず、あらゆる事件が起きたときも、その起きたときは色々とニュースになるものの、最終的に何が原因であったとか、どういった結果になったとかが報道されることは少ない気がする。(報道はされているのだろうけど、扱いが小さくなる)
ニュースというメディアの性質上、新しいものが優先されるので、過去の事件の原因・結果が相対的に扱いが小さくなるのは致し方ないのだろうが。
その他でいうと人材の話も興味を引いた。
人口減少トレンドの日本においてどうやって優秀な人材を育むかは喫緊の課題。
かくいう自分ももちろん自分自身で勉強して、必要な分野のキャッチアップをすることは重要だが、子どもの教育という観点でもどうやって人的資本を高めるかは、親としても気にすべきところ。
佐藤優氏が「異文化体験はもっと早く中学生か高校生のうちにしておくと、将来、海外で学んだり働いたりしたいという動機を生み出すことになる」と述べているが、やはりどこかのタイミングで海外の異文化に触れさせることは、何かしらの動機づけに繋がる意味で重要だと自分も感じる。
対談本なのでわかりやすく、一つのテーマも短いので細切れでも読むことができる。読めば何かしらのテーマから得るものがあるはず。
一言学び
第三者委員会の仕組みは、純然たるメイド・イン・ジャパンのスキーム
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