読書レビュー:『教養としての「病」』(佐藤優/片岡浩史)

読書

読みたいと思ったきっかけ

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教養としての「病」 [ 佐藤 優 ]
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内容

目次

目次は以下のとおりとなっている。

 

はじめに 病と私 佐藤優
第一章 医師と患者の「共同体」をどう作るか
第二章 「生き方の基礎」を見つけた場所
第三章 今の「医学部ブーム」が危ない理由
    病と戦うーー「異質なもの」との対峙 片岡浩史
第四章 新自由主義は医療に何をもたらすのか
第五章 人はみな「死すべき存在」である
あとがきにかえて(片岡浩史)

内容

わたしの気になった箇所について記載する。

第一章(医師と患者の「共同体」をどう作るか)

■どんな病気であれ、ある一瞬に突然発生するものではありません。自覚症状が現れるのはある一瞬かもしれませんが、その萌芽はそれよりずっと前にあるわけです。たとえば腎臓病の場合、50歳の人が自覚症状を訴えたとき、その原因は20代から始まった生活習慣だった、というケースはよくあります。(片岡)

■どんなに並ばされても手に入るのだったら、誰も文句は言いません。しかし、これは旧ソ連だけの話ではありません。日本の医療の基本は、保険診療、つまり公定価格ですから、この場合も需給調整は時間で行われます。(佐藤)

■臨床心理士はその道のプロなので、そこを一般診療科に繋げるのは大変でしょうが、今まで私と波長が合ったお医者さんたちにどういう能力があるかと言うと、対話と癒やしの能力です。これは臨床心理士的な力なんですね。臨床心理士の役割を医師に期待している患者は多いと思います。(佐藤)

■一年間透析に入らないようにするために何をすればいいかと言うと、体重を落とすこと、あとは塩分とたんぱく質の制限をカチッと守ることです。これができたのはやはり強い危機感があったからです。そうしたら思ったよりも経過が良くて、2年3ヶ月ぐらい持ちました。この2年3ヶ月間で、私は一生の中で一番仕事をしています。(佐藤)

■私が患者さんに言っているのは、たとえば20年間透析したら、実年齢プラス20歳ぐらい肉体が歳をとっていることが多い、という話です。「40歳から透析を初めて、今は60歳です」という人だと、肉体的には80歳ぐらいになっているケースが多いんです。透析は人を救命して延命してくれる、ありがたい治療法なのですが完璧ではないんです。(片岡)

第二章(「生き方の基礎」を見つけた場所)

■読者はやっぱりそういうことが気になりますし、「どういう生い立ちなのか」ということは、信頼のベースになります。そこは学歴よりも強いんですよ。(佐藤)

■学校では「悪」を教えません。だから私は学生たちに、小説を読んだりノンフィクションを読んだりして、読書によって悪の代理経験をすることを勧めています。大人になってから悪に引っかかってしまわないために、若いうちに悪について本で知っておくことは重要です。(佐藤)

第三章(今の「医学部ブーム」が危ない理由)

■私が外務省の新人時代に先輩に言われたのは、「『若い頃の苦労は買ってでもやれ、今後の肥やしになる』と言うけれども、他人の苦労を手助けすると、他人の肥やしになるだけだ」ということです。(佐藤)

■つまり何が言いたいかというと、難関中学の受験はやっておいたほうがいいんですよ。そのときに皮膚感覚で知った受験勉強のやり方は一生生きていきます。(佐藤)

■中産階級の親たちは、自分の子どもが貧困層に転落するのが怖くて「医者を目指せ」とわが子の尻を叩くわけです。「医者になれば貧困層に転落することはないだろう」と親たちは思っている。しかし、今やお医者さんというのは必ずしも高収入の仕事ではないし、社会の中で特権的な立場を持っているわけでもありません。(佐藤)

病と戦うーー「異質なもの」との対峙 片岡浩史

■相手を「怖い」と思ったり、「やばい」と思ったりすると、なぜか対話がうまくいかない。そこで意識的に「たとえ怖いと感じても、怖いと思わないことにする」、そんなルーティンをJR時代によく使っていた。そしてもう1つは「ヤンキーなお兄さんにはヤンキー風に話す」。相手がため口なのに、こちらが丁寧語だと何となく相手の勢いに呑まれる。

■実は、従来の古典的な統計学が支配してきた科学の世界では、これまで「属性の違い」「サブグループの違い」というものを「統計学的にはみ出してきた偶然の産物」として、意識的に軽視してきた歴史がある。

第四章(新自由主義は医療に何をもたらすのか)

■そういった意味では、医局制度には社会的なメリットがありました。それがなくなっていって、医者の1人1人が医療の一般的な素養を磨く前に、若いうちからビジネス的に成功したいと美容整形の世界に行くとか、今はそういう世の中になりつつあります。私個人としては、医療全体の力は間違いなく落ちたと思っています。(片岡)

■他方、長子相続型の社会には「人は生まれながらに不平等である」という共通認識がありますから、そこは逆にパターナリズムが強くなって、「弱い立場に置かれている人は、共同体の上部にいる人間が助けなければいけない」という論理が生まれます。つまり、自己責任論、結果責任論が出にくい。(佐藤)

■その基になるのはほとんどが教育で、しかもそれは公教育よりも家庭の教育です。親が持っている価値観は、われわれが想像している以上に強く子どもに継承されます。親が結果しか考えないと、「子どもの小遣いの額は成績によって変える」という話が出てきます。(佐藤)

■知識、教養というのは結果を出すためにあるのではない、時間をかけて自分の血肉になっていくものだーーそれが教養主義の考えですね。教養が身につくというのは、俗世的な結果とは関係ありません。(佐藤)

■私が学生だった頃、今から3〜40年前は「日本人は議論が下手だ」とよく言われていました。しかし、どうも最近は勝ち負けを決するのを目的としたディベートが大好きな人が多くなっているような印象があります。相手を非難する力、否定する力が強すぎる世の中になりつつあるような気もします。(片岡)

■それから、日本では基本的に人口が減っています。特に地方の人口は社会減もありますから、保険医療だけでやっていくのはなかなか大変です。(佐藤)そういう意味では日本の医療の将来は暗いですよ。(片岡)

■今のトレンドは「新自由主義的な規制緩和では国は強くならない」ということです。そういうことを続けていると、アメリカのようなきわめて歪な国になってしまう。(佐藤)

第五章(人はみな「死すべき存在」である)

■私の場合は、「少しでも長く命を延ばせばいい」というところに必ずしも価値観はありません。あとどれくらいの持ち時間があるのか、ということをよく見ながら、仕事のプライオリティを決めないといけないと思っています。お金の貯め方も決めないといけません。そういう基準を分かってくれてその上でアドバイスをしてくれるお医者さんが、私にとって一番いいお医者さんです。(佐藤)

■もう一つ、ヨーロッパ社会がなぜあれだけ「情報の忘れられる権利」を重視するかと言うと、これは「情報もまた死ななければいけない」ということです。ヨーロッパにはキリスト教的思考が色濃く残っていますから、永遠に生き続ける存在への恐怖感が根強くあります。裏返して言えば、「自分はいずれ死すべき存在である」という意識が高い。(佐藤)

■「癌と戦わない」という考え方は、ある意味では極端です。そして極端な考え方にはどこか間違った部分が包摂されているものです。適度な答えはそれとは反対の意見との中間ぐらいにあるわけですね。(片岡)

コメント

佐藤優氏の病状がどんなものであるのか、特に慢性腎臓病に伴う人工透析のリアルが描かれつつ、そこをきっかけにして日本の医療の現状や問題点が佐藤優氏、片岡浩史氏の両方から指摘されていく。

個人的には医者が高収入ではなくなっているという話に驚いた。

医者といえば高給取りがイメージされており、それが医者を目指すことの少なくないインセンティブとして働いていたと思っていたのだが。。。

勤務医としては大学病院の勤務医が年収2,000万円を超えないというのも知らなかったし、開業医であっても平均2,730万円というのも想像よりは少なく感じられた。

そういった背景もあって、美容整形の世界に行って若くしてお金持ちになるという道を目指す人も出てきているのだろう。

お金を稼ぐことを第一に考えるのであれば、医者という職業は必ずしも適さないということかもしれない。

これはどの職業にも多かれ少なかれ言えることかもしれないが、特に公共性や公益性の高い仕事はより当てはまるように思う。

医療の問題は根深そうで、一気に変えることが難しそうではあるが、現状どういった問題点があるのかを把握できる点でも本書は一読する価値がある。

それにしても佐藤優氏の病状がファンとしては心配であるし、そんな中でも仕事を続ける佐藤優氏の倫理観に敬服の念を抱く。

一言学び

「どういう生い立ちなのか」ということは、信頼のベースになります。そこは学歴よりも強いんですよ。

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