読書レビュー:『すべては「好き嫌い」から始まる 仕事を自由にする思考法』(楠木建)

読書

読みたいと思ったきっかけ

楠木建氏にハマっており、著者買い。


内容

目次

目次は以下のとおりとなっている。

はじめに 「好き嫌い族」宣言
第1部 「好き嫌い」で仕事をする
第2部 「好き嫌い」で会社を見る
第3部 「好き嫌い」で世の中を見る

内容

わたしの気になった箇所について記載する。

はじめに(「好き嫌い族」宣言)

※特になし

第1部(「好き嫌い」で仕事をする)

■これに対する僕の答えは、「無努力主義」。これを年来の仕事の原則にしている。僕のこれまでの経験でいえば、「努力しなきゃ……」と思ったことで、仕事として上手くいったことはただの一度もない。「努力しなきゃ……」と思った時点で、そもそも向いていないのである。ポイントは、それが「努力」かどうかは当事者の主観的認知の問題だということだ。だとしたら、「本人がそれを努力だとは思っていない」、この状態に持ち込むしかないーー。これが試行錯誤の末に行き着いた結論である。すなわち「努力の娯楽化」。客観的に見れば大変な努力投入を続けている。しかし当の本人はそれが理屈抜きに好きなので、主観的にはまったく努力だとは思っていない。これが最強の状態だ。

■品格とは「欲望に対して行為の遅いこと」。加賀まりこの自伝で知った言葉だ。本質をついた実にうまい定義だと思う。やたらと「品格!」と声高に叫ぶ人がいるが、そういう人に限って品格がない。品格というのは「さりげなく、さりげあるもの」でなくてはならない。

■ラジオ体操の歌ではないが、「新しい朝が来た、希望の朝だ」といのは人間の本性の発露だと思う。朝になって日が昇れば、大体のことは解決する。これが僕の信条だ。

■若者に「キミのやりたいことをやれ!」と言い放つ大人がしばしばいる。これほど不親切なアドバイスはない。若い身空、たいした経験はないし、世の中にどういう「仕事」があるのかロクにわかってない。自分がホントに「やりたいこと」はなかなかわからない。ましてや、それを具体的な職業オプションに結びつけられるわけがない。

■前世の記憶を引きずっているという奇特な人は別にして、誰もが自分一人の人生を一回しか生きたことがない。結局のところ、誰もが自分の経験を基準にしてものを言う。仕事はその最たるもので、どうやっても個人的な経験に縛られた話になってしまう。

■比較は往々にして嫉妬につながる。嫉妬、それは人間の心の動きの中で、間違いなく最も醜く、かつ非生産的なものだ。ところが嫉妬は人間の本性であるのもまた事実。なければどんなにいいだろうと思うけれど、絶対になくすことはできない人間本来の感情だ。

■長く続くキャリアのよりどころは、自分の中にある「好き嫌い」にしかない。「川の流れに身をまかせ」というのは、何も手を抜くとか人任せにするとかいうことではない。むしろ主体性が大いに問われる。自分の「好き嫌い」に忠実に流されることが大切だ。「これをやるとなんか調子出るなあ」という、自分が好きな流れを見つけ、それに乗る。

第2部(「好き嫌い」で会社を見る)

■なぜならば、成熟はひとえに時間の関数だからである。人間でもそうだが、成熟には時間がかかる。時間をかけて経験を積み重ねるしかない。どんなにカネをかけても、若者は一足飛びに成熟した大人にはなれない。カネを出してもすぐには手に入らないもの。それがもっとも有効な差別化の次元となる。

■労働市場にしても競争市場にしても、われわれは市場経済の中で生きている。各人が自分の好き嫌いに従って意思決定し、行動する。市場経済というのは本来的に「好き嫌いシステム」である。いろいろと問題もあるけれども、そこに市場メカニズムの頑健性がある。

■論理的な時間軸を取っ払って平面上にやっていることを箇条書きしてしまえば、意図していることの順番はまるで違うにもかかわらず、アマゾンと競合他社との間には(とくに初期の段階では)さしたる違いはないように見える。しかし、ことの順番を考慮に入れると、まったく違ったストーリーになっている。ここに戦略と差別化の醍醐味がある。

■大胆な企業変革に成功した企業の事例を見ると、変革に先行して、かなりの長い間にわたって業績低迷のフェーズを経験している。「変化に対応」というのは、かけ声として言うのは簡単であるけれども、現実にはほとんど不可能だと思った方がよい。試しに「変わった」とされる会社の名前を思い浮かべてみてほしい。日産のみならず、80年代のインテル、90年代のIBMやフィリップス、今世紀に入ってからの日立、マツダなどなど、いずれも深刻な業績悪化に苦しんだ末の変革だった。

■変革とは創造的破壊であり、それは創造ではなく破壊から始まるプレセスである。この順番が肝心だ。変革の成否は破壊にかかっている。そして、破壊の決断と実行は、一にも二にも最高意思決定権限を持っている社長にかかっているのである。

■「運用が先、制度は後」。これが正しい順番だと思う。制度を設計してから運用に移すのではなくて、すでに実行され、成果が出ている動きを事後的に制度化するという発想に立てば、「運用上の問題」は存在しなくなる。制度は実行なり運用に「遅れて」いるぐらいでちょうどいい。

■話は大げさになるが、男の威張りと女の媚びの結託、私見ではこれこそが人間社会の不幸の淵源である。歴史的にみても、男の威張りがなければ戦争もなかったことだろう。ヒトラーやスターリンの評伝を読んでいると、つくづくそう思う。ただし、これは同時に人間社会の駆動力でもある。威張りと媚びの結託がなければ、社会が活力を持たないのもまた真実。本能には逆らえない。威張られたとしても怒ってはいけない。悲しむに限る。

■なぜこれほど優秀な人たちが、何もかも独力でやって、利益を一人占めにしようとせず、会社のために富を創造することができたのか。ジェニーンは、それは何よりもパーソナリティの問題だと言う。ほとんどの会社員は、会社が与えてくれる朝鮮と報酬に満足している。必要とあらば残業もするだろう。しかし、過大なリスクをものともせず、独力で事業を起こして成功したりすることは、そもそも多くの人はあまり好きではないというのである。

■言葉は言葉、説明は説明、約束は約束……なにもとりたてて言うべきことはない。だが、実績は実在であり、実績のみが実在である。ーーこれがビジネスの不易の大原則だと私は思う。実績のみが、きみの自信、能力、そして勇気の最良の尺度だ。実績のみが、きみ自身として成長する自由をきみに与えてくれる。覚えておきたまえ。ーー実績こそきみの実在だ。ほかのことはどうでもいい。(評者註:ハロルド・ジェニーン『プロフェッショナルマネジャー』より)

第3部(「好き嫌い」で世の中を見る)

■だとすると、売る側の立場で考えれば、自分の売るものを顧客に何と比較させるか、準拠点の持たせどころが商売の一つのカギになるということだ。どのみち顧客は準拠点との比較でその商品の価値を認識するのだから、自分の売り物と相対化したときに明らかに正のギャップが強く出るように準拠点を操作するーーここに競争戦略の一つの要諦がある。

■そこで、十数年前に方針を決定した。よほどのことがない限り、記憶に残しておきたいことをノートしておいて、読んだ本は即座に捨てる(もしくは中古書店に二束三文で売却する)。どうしても現物で残しておきたい本は10冊に1冊あるかないか。つまり、年に30冊程度である。本の置き場問題のソリューションとしてはこれに勝るものはない。

■「誰に嫌われるか」をはっきりさせる。そういう人からはきっちりと「嫌われにかかる」。ここに商売の生命線がある。僕は、自分の仕事がどういう人から、どのように嫌われるのかに大いに興味がある。罵詈雑言を浴びるたびに、自分の仕事のコンセプトの輪郭が明確になる。誰に向けて、何をすればいいのかがはっきりしてくる。それが日々の仕事の拠りどころとなる。

■ようするに(笑)の人は言語においてズボラなのである。思考において怠惰だといってもよい。自分にとって都合がいい良し悪し基準にかこつけて、言いっぱなし。最後に(笑)を一つつけておけばOK。実に低コストで効率が良い。ただし、その分内容は薄っぺらになる。

コメント

本書は文春オンラインでの連載がベースになっている。

著者のあるテーマに関して好き嫌いを示し、それについて論じていくというスタイル。

冒頭に二項対立的に好きと嫌いが示され、その理由が述べられていく。

個人的に楠木建氏の文章は読んでいるだけで面白い。

ユーモアがありながら、何かしらの示唆がある。読んでいて飽きがこない。

本書の中で印象的だったのは「品格とは『欲望に対して行為の遅いこと』」というもの。

これは加賀まりこの自伝で知ったということだが、品格という言葉を非常に上手く表していると自分も感じる。

自分としては、子どもの様子を見ているとこの定義の正しさを感じる。

子どもは何かにつけて我慢ができない(これはうちの子どもが我慢弱いだけかもしれないが)。

ご飯やおやつは直ぐに食することを望み、おもちゃについても直ぐに欲する。そこに品格は感じられない。その欲望の早さを見ると、確かに品格の定義がその通りだと感じてしまう。

一般論としても子どもに品格があるとは言えないように思うが、まさしくそれは「欲望に対して行為が早い」がゆえであり、それが品格の定義と逆だからだろう。

これは自分自身も気をつけねばならないこと。「欲しい」と思ったときに一息置いて、もう一度その必要性を考えてみると、不要であるという結論になることも結構ある。

がつがつしないで、ゆっくりと欲望に向き合う。そんな泰然とした構えで日々過ごすことで、ちょっとは「品格」ある大人に近づけるかもしれない。

一言学び

品格とは「欲望に対して行為の遅いこと」


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