読みたいと思ったきっかけ
新聞広告に載っていたのを見たのがきっかけ。
『スマホ脳』はベストセラーになっていたが、読もうと思っていて機を逸していたので、今回がアンデシュ・ハンセン氏の著作を読む初めての機会となる。
内容
目次
目次は以下のとおりとなっている。
アンデシュ・ハンセンからのメッセージ ― 新版刊行によせて、日本のみなさんへ | ||
はじめに | ||
第1章 | : | 現代人はほとんど原始人 |
第2章 | : | 脳から「ストレス」を取り払う |
第3章 | : | 「集中力」を取り戻せ |
第4章 | : | うつ・モチベーションの科学 |
第5章 | : | 「記憶力」を極限まで高める |
第6章 | : | 頭のなかから「アイデア」を取り出す |
第7章 | : | 「学力」を伸ばす |
第8章 | : | 健康脳 |
第9章 | : | 最も動く祖先が生き残った |
第10章 | : | 運動脳マニュアル |
おわりに |
内容
わたしの気になった箇所について記載する。
アンデシュ・ハンセンからのメッセージ
・私が言いたいのは、たとえば通勤するときは車を使わずに自転車をこぐ、テレビばかり見ていないで庭いじりや散歩をする、そういったことだ。身体を動かすのであればどんなことでも有効であり、その一歩一歩が脳にとって勝ちがある。いつ、どこで、何をするかは大した問題ではない。
第1章(現代人はほとんど原始人)
・脳の可塑性の研究においては、身体を活発に動かすことほどに脳を変えられる、つまり神経回路に変化を与えられるものはないことがわかっている。しかも、その活動を特別に長く続ける必要はないという。じつをいえば、20分から30分ほどで充分に効果がある。
第2章(脳から「ストレス」を取り払う)
・定期的に運動を続けていると、運動以外のことが原因のストレスを抱えているときでも、コルチゾールの分泌量はわずかしか上がらなくなっていく。運動によるものでも仕事に関わるものでも、ストレスに対する反応は、身体が運動によって鍛えられるにしたがって徐々に抑えられていくのだ。
・前頭葉や前頭前皮質など、ストレスを抑える脳の部位は、最後に完成する。10代では、まだ発達途中の段階で、じつをいえば、25歳ぐらいになるまで完成しない。いっぽう扁桃体のようなストレスを生み出す部位は、17歳でほぼ完成する。
・だが、もしあなたがジョギングに出かけて何事もなく走り終えたとしても、やはり動悸は激しくなる。ところが走り終えたときに気分は穏やかになり、脳内でエンドルフィンとドーパミンと呼ばれる物質が放出されて快感を覚える。つまり身体を動かすことで「心拍数や血圧が上がっても、それは不安やパニックの前触れではなく、よい気分をもたらしてくれるものだ」と運動が脳に教え込むのである。
・ストレスが増すと、つまりコルチゾールの血中濃度が高くなると、脳内で情報を伝達する機能が妨げられるが、運動は逆にその機能を高める。
・ストレスは脳の変化する特性(可塑性)を損なわせるが、運動はそれを高める。
・ストレスが高まると短期記憶(数分から数時間の記憶)が長期記憶に変わる仕組みにブレーキがかかるが、運動はその逆の作用を促す。
【抗ストレス体質を培うプラン】
・まずはランニングやスイミングなどの有酸素運動をお勧めしたい。ストレスの緩和が目的なら、筋力トレーニングよりも有酸素運動のトレーニングのほうが効果がある。少なくとも20分は続けてみよう。もし体力に余裕があれば30〜45分続けよう。
第3章(「集中力」を取り戻せ)
・ADHDを薬で治療する理論は、たいていこれにもとづいている。薬によってドーパミンの分泌量を増やし、集中力を改善させるのである。ADHDと診断された人の多くが、薬の服用によって感覚が鋭敏になり、頭がすっきりしたと言っている。おそらく雑音、つまり脳内の音と外界からの雑音の療法がやんだためだろう。では、薬に頼らずにドーパミンの分泌量を増やす方法はないのだろうか。ある。そう、身体を動かすことだ。
・この実験(=マシュマロ実験)で観察された集中力と自制心は「認知制御」ともいわれる実行機能で、ウォルター・ミシェルの言葉によれば、脳の「クール・システム」の一つだという。いっぽうノーベル賞受賞者のダニエル・カーネマンは、これを「システム2」ー時間をかけて熟考する脳のシステムだと考えている。歴史上の科学者や研究者たちも、思い思いの言葉でひょうげんしているが、基本的にはすべて同じものを指している。それは「高次の思考によって衝動を抑え込む働き」であり、目の前の状況に集中するべく前頭葉と前頭前皮質がつかさどっている能力である。そして何を隠そうこの働きも、運動によって強化することができる。
・私たちがADHDの症状だと考える特性、つまり衝動性や多動性は、迅速な決断が必要な活動的な環境で暮らす狩猟民族によっては有利になるということだ。いっぽう農耕民族は、すばやく行動する必要はない。彼らの環境では、長期的な目標に向かって精神を集中し、忍耐強く作業に取り組むことのほうが重要であり、そこではADHDの特性が障害となってしまうのだ。
【集中力を脳に戻すプラン】
・歩くよりは走ろう。身体に負荷がかかればかかるほど、脳はドーパミンやノルアドレナリン(集中物質)をたっぷりと放出する。
・運動は朝にしよう。集中力を高めたければ、日中の早い時間、少なくとも午前中に行えば、その後もしばらくは効果が続く。
・可能であれば30分続けてみよう。少なくとも20分は続けたいが、30分のほうが充分な効果が期待できる。
第4章(うつ・モチベーションの科学)
・走ることが、莫大な開発費用をかけ、飛ぶように売れている抗うつ剤と同じ効き目があるといわれても、にわかには信じがたい。しかも抗うつ剤よりも効き目が長いとなれば、本当かと疑いたくなるだろう。だが真実なのだ。これは、科学の実験が立証した事実である。
・運動の場合、効果はたいてい運動を終えたときに感じられ、その状態は1時間から数時間続く。定期的に運動すれば、分泌される量も徐々に増えていく。そして、効果も運動後の数時間の数時間にとどまらず、丸1日続くようになる。運動は抗うつ剤と変わらず、それどころか「ノーリスク」でセロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンを増やせるというわけである。
・じつは、うつ病の症状を最終的に取り除いてくれるものは、この「別の何か」だ。近年、神経科学の分野の研究者たちは、この奇跡ともいうべき物質にますます注目している。「BDNF(脳由来神経栄養因子)」だ。これこそ、この章の主役、脳内最強とも呼べる物質である。
・BDNFを増やせる活動は、有酸素運動だ。筋力トレーニングでは、同じ効果が得られないといわれている。BDNFを大量に増やしたければ、定期的に活発に身体を動かすことが好ましく、有酸素運動のうちでもとくに「インターバル・トレーニング」が適している。
【「プチ・ランナーズハイ」で意欲を高めるプラン】
・うつ病とまではいえなくても疲労感が抜けない、あるいは気がふさいで仕方がないといったことはないだろうか。それなら外に出て走ろう。
・30〜40分のランニングを週に3回行うこと。運動の強度は、最大酸素摂取量が少なくとも70%になるようにしたい。
・その活動を、3週間以上続けよう。
第5章(「記憶力」を極限まで高める)
・もし暗記力を最大限に上げたいのであれば、運動と暗記を同時に行うことをお勧めする。たとえば、トレッドミルの上で歩きながら暗記するのである。もちろん、いつもできるとはかぎらないが、そのことを心に留めておくといいだろう。
・運動と暗記を同時にすれば効果が上がる理由は、まだはっきりとはわかっていない。おそらく身体を動かすと筋肉の血行がよくなるように、運動すると脳の血流もよくなるためだろう。身体を動かすと、たちまち血流量が増える。そして脳にたくさん血液が流れこむことで記憶力も上がるという仕組みだ。
・暗記にかぎっていえば、ウォーキングや軽いジョギングに最も効果が期待できる。疲労を覚えるほど運動すると、かえって逆効果になるからだ。疲れると筋肉がさらに血液を必要とするため、脳に流れる血液の量が減り、記憶する力が損なわれてしまう。
・また激しく身体を動かすと、脳は覚えようとしているものではなく、動作そのものに集中する(望まない方面に集中力が発揮される)。覚える内容を聴きながら速いペースで走ると、脳は聴いている内容ではなく、走るという動作に集中してしまうのだ。
【何でも覚えてしまう具体的プラン】
・理想的な方法は、有酸素運動(持久力系のトレーニング)と筋力トレーニングの両方を取り入れることだ。ほとんどの研究は、有酸素運動が海馬に与える影響を対象にしたものだが、記憶の種類によっては、筋力トレーニングのほうが効果的な場合もある。(たとえば、顔と名前を一致させるなど、関連性を想起する連想記憶力)
・何かを暗記するときには運動してから、あるいは運動しながら覚えると効果が上がる。この場合、決して全力で行う必要はない。ウォーキングか軽いジョギングでも充分に効果がある。
・効果が最も上がるのは、トレーニングしてから1日から数日後であることも忘れずに。
第6章(頭のなかから「アイデア」を取り出す)
・環境の変化に刺激を受けると、普段とは違った考え方ができるようになるといわれている。あながち間違いではないのだろうが、先ほどのスタンフォード大学の研究では、創造性が増すのに、歩いた場所は関係ないことがわかっている。
・断定はできないが、ウォーキングよりもランニングか、もしくはそれと同じような活動により効果があるといわれている。身体にある程度の負荷がかかる活動のほうが、創造性においても効果が高いのだ。
・創造性が高まる効果は、あくまでも短時間だ。創造力の上昇は1時間から数時間で、その後は徐々に消えていく。もう一度インスピレーションを得たければ、また歩くか走るよりほかないだろう。あの村上春樹も、日常的にランニングしている。
【創造性を発揮するプラン】
・創造性を増やすために最も効果がある活動はランニング、またはそれと同じような活動だ。ウォーキングにも効果はあるが、走ったほうがより効果は大きい。
・できれば20〜30分は走ろう。走り終えてから、創造の力が高まるのが実感できる。その効果は2時間ほど続くだろう。
・疲れきるまで走らないこと。また、無理をしすぎると、そのあとの数時間は逆に創造の力が衰える(しかし長期的には衰えはしない)。
第7章(「学力」を伸ばす)
・10歳児の脳をMRIでスキャンしてみると、体力のある子どもは海馬が大きいことがわかった。つまり、子どもでも身体を鍛えれば、脳の重要な部位である海馬が大きくなるということだ。
・脳の成長という観点から、運動を積極的にさせたほうがよい年齢はあるのだろうか。まだ詳しくわかっていないが、多くの研究データによれば、小学校に通う学童期が最も運動の恩恵を得られるようだ。
・立って授業を受けた子どもは集中力が増し、勉強の内容も頭に入りやすくなるのだ。家庭学習などで早速取り入れてみてはいかがだろう。
・総合的に見れば、あらゆるデータは同じ結論に行きつく。運動をすれば頭がよくなる。だが、知能指数の高さと相関性があったのは持久力のみで、筋力とは無関係だった。筋力テストの結果だけがよかった新兵は、知能検査ではよい結果を出さなかったのだ。
・嘘のような話だが、これは正真正銘の真実だ。だとすれば、今すぐ子どもたちに言おう。タブレット端末やスマホを置いて、もっと身体を動かそう、と。わが子の頭がよくなることを願わない親などいないはずだ。
【IQを高めるプラン】
・脳に効果をおよぼすには、何より心拍数を上げることがじゅうようだとされている。脈拍を1分間に150回前後まで上げることを目安にしよう。
・最大の効果を得るためには、子どもたちが少なくとも30分、活動を続けることが望ましい。
・短い時間でも効果はある。12分間身体を動かしたことによって、学童期や思春期の子どもたちの読解力や集中力が増している。ジョキング程度の活動を、わずか4分するだけでも物事に集中しやすくなる。
第8章(健康脳)
・この変異型の遺伝子は、144名のパイロットの3分の1に見られた。全人口に置き換えても、同じ割合でこの遺伝子を持つ人がいると考えられる。人類の3分の1が、これと同じ遺伝子を持っている可能性があるのだ。つまり3人に1人が、脳の老化や海馬の萎縮を早め、知的能力の衰えを促す遺伝子を持っているかもしれない。
・運動をすれば、知性が衰えないためのコンディションを保つこともできる。脳の老化も、知性の老化も食い止めることができるのである。人類の3分の1が老化を早める遺伝子を持っているならば、私たちはすぐにでも運動を始めるべきだろう。
【脳の老化に抗うプラン】
・脳の老化を予防するなら、毎日か、少なくとも週に5回、20分〜30分歩こう。または週に3回、20分ランニングをしよう。それと同等の運動強度であれば、水泳やサイクリングでもよい。
・筋力トレーニングは身体機能を維持するのに役立つが、脳の老化を食い止める効果についてはまだわかっていない。効果が証明されるまでは、有酸素運動をお勧めする。
第9章(最も動く祖先が生き残った)
・基本的には、移動する生物だけに脳がある。植物は移動しないため、脳はない。…つまり、地球上に初めて現れた脳細胞の最も大切な仕事はその生物を移動させることだったのある。
・人類も同じだ。最も大切な脳の仕事は「動きの制御」だったと考えられ、今の時代でもそれは変わっていない。そう考えれば、もし身体を動かさなかったら、脳が影響を受けないはずはない。脳なくして身体は動かせない。そして身体を動かさなければ、そのためにできている脳も機能できないのである。
・人類の歴史を1日に短縮すると、私たちは午後11時40分まで狩猟採集生活を送っていた。そして工業化が始まったのは、午後11時59分40秒。1日が終わるまで、あと20秒というときだ。デジタル社会、つまりインターネットにつながったのは午後11時59分59秒。1日24時間のうちの最後の1秒である。
・生物学的には、私たちの脳と身体は今もサバンナにいる。私たちは本来、狩猟採集民なのである。
・幸せな気分になれるのは、生存の可能性を増やす行為をしたときだけだ。座りがちでいると調子が悪くなる「お仕置き」をされることも、それで納得がいく。1日中座ってばかりいれば獲物は捕まえられず、新しい住み処も見つからない。座ってばかりいると生き残れない。多くの現代人が心や身体を病んでしまう理由は、「脳」と「私たちの環境」の矛盾、そこにある。
第10章(運動脳マニュアル)
・インターバル・トレーニングは肉体維持の観点ではすぐれたトレーニング法だが、脳におよぼす効果はかぎられる。疲労が激しいため、運動後にすぐに得られる効果はあまり期待できない。即効性は乏しいといえるだろう。もっと負荷の軽い運動、たとえば通常の速度でランニングすると、運動を終えてから数時間にわたって創造性が増す効果がある。だがインターバル・トレーニングには、そのような効果は見込めない。
・とはいえ、このような負荷の大きい運動も、長期的に見ると脳のためになると考えられている。激しい運動をすると、BDNFの生成量が大幅に増えるためだ。要はきついトレーニングは習慣にできれば心強いが、なかなかハードルが高いというわけである。
おわりに
・運動をすれば気分が爽快になることは、わざわざ研究が証明しなくても知らぬ者はいない。だが、運動が認知能力(たとえば創造性、ストレスに対する抵抗力、集中力、知能など)に具体的にどのようにして絶大な影響を与え、またなぜ私たちに欠かせないものなのかといった理由については、あまり知られていない。事実、これに気づいている人は、ほとんどいないといっていい。
コメント
運動しよう
基本的には運動することが脳にとって有用であって、あらゆる解決策につながっているので運動しなさい、といった内容となっている。
第2章から第8章までは、それぞれ運動が脳のどの機能に影響をおよぼすのか、その具体的な事例となっている。
この各章のトピックに関しては、トピックごとに具体的なアクションプランまで書かれているので、どういった運動をどれくらいの強度・頻度で実施すればいいのかがすぐにわかるようになっている。
とりあえず運動すれば解決するのではあるが、記憶力や創造性のアクションにおいては、あまり激しく運動し過ぎると効果が出なくなるなど、分野によって運動の内容や強度、頻度が少しずつ異なっている。
このあたりは各人で持っている身体的な能力が違うので、最終的にはそれぞれの項目の基準を参考にしつつ自分でアレンジしていくのがある。
狩猟採集民と変わらない
本書の第9章に「24時間」人類史というものが出てくる。
それを見ると人類は23時40分まで狩猟生活を送っていたことになるらしい。
そう考えると人類史のほとんどが狩猟採集生活で埋めつくされるわけで、遺伝子レベルでは現代人も狩猟採集民であるというのは、改めて当然のことのように感じた。
最近はこの手の遺伝子レベルでは狩猟生活していたときの影響が残存しているという話はよく書籍に出てくるが、今回改めてそれを再認識した。
また「幸せな気分になれるのは、生存の可能性を増やす行為をしたときだけ」というのももう一度認識する必要がある。
長年培われてきた合理的な淘汰において生き残ったシステムに自分が支配されているという事実は意識しておく必要がある。
一見、非合理に見える行動であっても、それが狩猟生活時代に置いて生存の可能性を高めるものであったために、ついその行動を取ってしまうというケースは本書に記載されている事項以外にもたくさんありそう。
すべての非合理性が狩猟生活時代の環境要因によって説明できるわけではないと思うが、解決策の一つのヒントとはなるはず。
まとめ
書籍自体の作りもわかりやすかったし、文章も読みやすかったので、すいすい読めた。
一応、この書籍自体は2018年3月に出版されている『一流の頭脳』の加筆・再編集版のようなので、内容的にはそこまで新しくなっていない可能性もある。(『一流の頭脳』を読んでいないので断定できないが)
新潮新書でシリーズとして出ているが、元々はサンマーク出版のほうが先行してアンデシュ・ハンセン氏を取り上げていたのだろうか。
新潮新書の『スマホ脳』の出版が2020年11月であるので、元々はサンマーク出版のほうが早めに手がけていたっぽい。
『一流の頭脳』もそれなりに売れたのだろうが、やはり『スマホ脳』のインパクトの方が強い。このあたりは新書だから売れたのか、タイトルがよかったのか、などヒットの理由として参考になりそうではある。
一言学び
幸せな気分になれるのは、生存の可能性を増やす行為をしたときだけ
コメント