読みたいと思ったきっかけ
この本はシリーズもので前作の『真説 日本左翼史 戦後左派の源流 1945-1960』を読んでいたので、反射的に続編である本書も購入してしまった。
内容
目次
目次は以下のとおりとなっている。
はじめに | : | 佐藤優 |
序章 | : | 「60年代」前史 |
第一章 | : | 60年安保と社会党・共産党の対立(1960〜1965年) |
第二章 | : | 学生運動の高揚(1965〜1969年) |
第三章 | : | 新左翼の理論家たち |
第四章 | : | 過激化する新左翼(1970年〜) |
おわりに | 池上彰 |
内容
わたしの気になった箇所について記載する。
序章
・話を整理すると、日本の左翼には共産党と社会党、そして彼らよりも遅れて登場してきた新左翼という三つの大きな流れがあり、そしてこの三者のうち社会党の左派と新左翼の親和性が非常に高かったことは、日本の左翼運動のひとつの特徴をなしています。(佐藤)
・なぜ、過去の遺物と化した新左翼の思想を今読むのか。それは、自分の命を投げ打ち、時には他人を殺すことも正当化した思想の力というものを、現代に生きる読者に反省的に学んで欲しいからです。危機の時代には必ず激しい思想が現れます。こういう過去があったということを知るだけで、危険な思想への免疫ができるはずです。(佐藤)
第一章
・こうした共産党のしたたかさ、組織を生き残らせるための戦略をひたすら徹底してきた歴史は、もしかしたら企業経営の観点で見るとものすごく勉強になるのかもしれないと思うこともあります。世の中においては必ずしも正しいものが勝つわけではないということが、共産党を見ていると本当によくわかるからです。(佐藤)
第二章
・だから全共闘の特徴は、近代的な代議制「ではない」というところにこそあります。自治会のように多数決で物事を決めるのではなく、「意識が高い」者だけで集まったほうがよい、そしてそこでは個々の議題についても投票ではなく拍手さえ起これば承認されたものとし、実践していくという思想です。だから実は全共闘は根底の部分では1930年代の翼賛運動の復活でもあるし、ソビエト的でもある。あるいはナチスに似た部分もありますよね。(佐藤)
・東大全共闘が闘争の途中から「大学解体」を叫ぶようになった理由などは、その動機が学生たちの自己批判から発していることを知らないと、今の若い人たちにはピンとこないかもしれませんね。(池上)
・要するに企業という組織は二重忠誠をものすごく嫌うんですよ。会社以上に忠誠を誓っている対象を持っている人を採りたくない。創価学会の会員がある時期まで就職で不利だったのもそれが理由でしょうし、今だって入社試験で「普段どの新聞を読んでいますか?」と尋ねられ、宗教団体の機関紙の名前を挙げるような人は落とされるでしょう。それは思想・信条の問題とは無関係に、二重忠誠の問題があるからです。(佐藤)
第三章
・早稲田という大学は伝統的にリベラルな学風で学生運動も盛んだった割に、経済学科は近経(近代経済学)の牙城なんですよね。というのも早稲田はどんなことでも東大とは別の道を行こうとするから、当時の東大経済学部の代名詞でもあったマル経の学者は意図的に迎えなかったんです。しかも近経の中でも特に計量経済学が強くて、あの頃の早稲田政経で経済を研究していた世代だとみんな数学が得意で統計学をやっている人たちばかりでした。(佐藤)
・私たちがいま敢えて左翼史を若い人たちに学んでもらいたいと考え、こんな対談をしているのだって、その理由の一つは、影響を受けることで自分の命を投げ出しても構わない、そしていざとなれば自分だけでなく他人を殺すことも躊躇うまいと人に決意させてしまうほどの力をもつ思想というものが現実に存在することを知ってもらいたいからです。そして人間に思想を紡ぐ力がある以上、それだけの力を持つ思想は今後も形を変えながら何度も現れるでしょう。(佐藤)
・だから戦後の左翼運動や新左翼運動についても、しっかりと理解するには労農派と講座派の対立に戻る必要があるわけです。(佐藤)
・人間には理屈では割り切れないドロドロした部分が絶対にあるのに、それらをすべて捨象しても社会は構築しうると考えてしまうこと、そしてその不完全さを自覚できないことが左翼の弱さの根本部分だと思うのです。(佐藤)
第四章
・正義感と知的能力に優れた多くの若者たちが必死に取り組んだけれども、その結果として彼らは相互に殺し合い、生き残った者の大半も人生を棒に振った。だから彼らと同形態の異議申し立て運動は今後決して繰り返してはいけない、ということに尽きると思います。(佐藤)
・だから左翼がかつて与えられていた権威は全共闘以降、モラルの面でも完全に失われてしまいましたね。それが全共闘以前と以後の最大の違いの一つだと思います。(佐藤)
・そういう意味では、自分一人の栄達だけで満足できてしまえる21世紀型のエリートではなかった。そこはやはり評価しなければいけない点だと思います。(佐藤)
・閉ざされた空間、人間関係の中で同じ理論集団が議論していれば、より過激なことを言うやつが勝つに決まっている。(池上)
・新左翼の強さであると同時に最終的な命取りになったのは、彼らが官僚化しないことでした。現代の政治は官僚化しないとできないものなのです。(佐藤)
コメント
革マル派、中核派など単語単語を聞くことはあっても、それがどういう系譜に連なっていて、どういった思想背景を持っているかまでは調べていなかったため、この本を通じて概略を知ることができた。
各派がどういう理論に基づき、どういった思想背景を持っているかを都度都度確認をしないと読んでいてわからない部分が出てくるので、その点は少し大変さは伴うが。
東大安田講堂事件やあさま山荘事件など、ニュースで聞いていた事件の背景をドキュメンタリーのような形で把握することができたのが、この本で1番良かった点。
各事件の影響が次の事件につながったりと、ストーリーとして読めるので、そこは物語としての面白さがあった。(本書の特に後半部分)
本編の最後に「第三巻」に関する言及があるので、続編は決定済みの模様。次回も楽しみにしたい。
一言学び
閉ざされた空間、人間関係の中で同じ理論集団が議論していれば、より過激なことを言うやつが勝つに決まっている。
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