読書レビュー:『コンテクスト・マネジメント』(野田智義)

読書

読みたいと思ったきっかけ

このシリーズの1作目を読んでいたことから、2作目も購入した。


内容

目次

目次は以下のとおりとなっている。

はじめに    
序章 経営の質と組織能力ーー「よい経営」と「そこそこの経営」を分けるもの
第1章 競争優位は組織プロセスから生まれるーー戦略分析論から組織戦略論へ
第2章 組織による意思決定と行動のメカニズムーーコンテクスト・マネジメントという考え方
第3章 組織能力はいかにして形成されるかーー学習する組織/しない組織
第4章 組織の成長と経営のジレンマーー組織と経営管理システムの有用性
第5章 企業と経営者が直面する経営の課題ーー企業全体戦略と本社の役割
第6章 組織優位から経営者優位へーー組織優位を構築するプロセスとマネジャーの行動
第7章 ポスト産業資本主義へのパラダイムシフトーー個と組織の関係性を再考する
第8章 21世紀型組織の経営ーーコンテクストを示す、挑戦を後押しする
あとがき  

内容

わたしの気になった箇所について記載する。

はじめに

■本書が目指しているのは、より一般的かつ抽象的な、経営というものに対する全体俯瞰的な理解(経営者にとって人や組織とは何か、それらを舵取りする経営とは何か)を深めていただくこと、そして、よりよい経営の実現に向けて、経営者リーダーは組織にどう介入しうるのか、経営者リーダーの役割と責任は何なのかという視座を獲得していただくことだ。

■もう一つのお断りは、本書が基本的には、規模が大きく複雑な企業、とりわけ、複数の事業(マルチビジネス)を傘下に置く、多角化した企業の経営を分析の対象としているということだ。

序章(経営の質と組織能力)

■本講義を受けるにあたって、たえず念頭に置いておいていただきたいのは、組織は「1人ではできないことができるすばらしいものだけど、1人でいるときには考えられないことが起こる厄介なものだ」ということです。この組織の本質にこそ、経営者リーダーが対峙すべき挑戦、そして希望と苦悩が隠されているのです。

■現代では、イノベーションの担い手が企業から起業家にシフトしていますが、生産設備や流通システムを有する企業には、個人の起業家には起こせないイノベーションを実現する能力があります。特に脱炭素革命などのサステナビリティ領域では、AIやデジタルによるサイバー空間上のイノベーションとは違って、リアルな設備投資が不可欠であり、その意味でも、組織によるイノベーションには大きなポテンシャルが広がっていると思います。

■プロセス学派に共通している主張は、戦略分析ではなく、人と組織にこそ、そして「組織プロセス(organizational process)」にこそ、本当の競争優位があるというものです。

第1章(競争優位は組織プロセスから生まれる)

■経済学者(厚生経済学者)たちは従来、経済政策の立場から、いかに完全競争に近い状態を実現して公共の福祉を増進していくかを考えてきました。これに対してポーターは、ロジックを逆さにして、企業が不完全競争状態をつくり出すことで、平均以上の利益をあげうる条件を提示したのです。天才的な発想といえばそうですが、どこか複雑といえば複雑ですね(笑)。

■戦略は、策定から実現までのホンダの組織内におけるプロセスから生まれます。だとしたら、競争優位のエッセンスは、このマネジャーたちの一連の行動がつくり出す、組織のプロセスの中に宿っているのではないのかと考えられるからです。

第2章(組織による意思決定と行動のメカニズム)

■今から僕がご紹介するのは、組織による意思決定と行動を考察するためのフレームワークです。とりわけ、そこでのトップ、つまり経営者リーダーの役割を明確にしている点では、僕が知る限り世界で唯一のフレームワークです。僕の恩師ジョー・バウワーが、企業内の資源配分をめぐる意思決定プロセスを詳細に観察分析し、概念化し、提唱したもので、「コンテクスト・マネジメント(context management)」と呼ばれます。

■現場から上がってきた提案書は、自社のパーパスや戦略志向を反映したものではありますが、その内容はといえば、技術用語や専門用語の羅列であるのが通常であり、トップやその周囲の人たちが読んでも、たいていは訳がわかりません。だから、ミドルは、自身が取捨選択した提案のチャンピオン(擁護者)となり、その内容をトップその他の経営陣が理解できる用語にブラッシュアップします。

■理屈っぽく説明すれば、トップは、“未来”に向けた“不確実”な新規事業提案の是非を判断するために、“過去”における“確実”な業績(打率)を代理指数(proxy)として用いるのです。これは、きわめて合理的なアプローチとも言えるでしょう。

■「したがって重要となるのは、私の判断にトップマネジメントがどれだけの信頼を築いてきたかです。私のようなポジションにある人間は、たえずこのように考えなくてはいけません。もし上席の経営幹部たちの信頼を失ったら、その人間は企業の中での有用性を失ってしまいます。どんな提案を行ったとしても、その人間の提案が承認されることはないでしょうから」(評者註:ジョー・バウワー著作より)

■そうすると、事業戦略を実質的に決めているのは、トップではなく、ミドルだということになりますね。(カワカミ、評者註:受講生の名前)、その通りです。バッティング・アベレージの高い有能なミドルマネジャーが事実上の意思決定をして戦略を策定し、その後、計画を実行に移す際にも中心的な役割を果たすのです。(野田)

第3章(組織能力はいかにして形成されるか)

■経営を行うにあたって僕たち経営者は、人間存在の本質をとらえて人と接しなくてはなりませんが、その本質とは「弱」なのです。だから、組織の中に置かれた人間は、トップがつくり出すコンテクストに敏感に反応してしまう。

■戦略性の最大の敵は政治性です。政治性と闘うには、一にデータと事実。二に論理、三にトップの意思が不可欠です。粗探しをして足を引っ張るのではなくて、より高い経営の質を実現するために、客観的事実とデータに基づいてレビューを行い、論理的に教訓を導き、全社で共有する。「言うは易く行うは難し」ですが、トップの本気のコミットメントと覚悟があれば可能です。逆に言えば、トップのコミットメントなくしては実現不可能なものです。

第4章(組織の成長と経営のジレンマ)

■M-form(評者註:事業部制組織、multidivisional organization)では、ともすれば「分権」と「集権」が繰り返されます。本社が事業部をグリップするべきか、それとも事業部に権限委譲するべきかという選択を常に迫られ、なおかつこの選択には正しい答えが存在しないため、多くの企業では分権かと集権化との間で、まさに振り子のように揺れるのです。

■僕は、この高いレベルでの対話(ダイアローグ)とその連鎖こそが、経営者人材の育成にいても重要だと信じています。経営者は日々のマネジメントの中で生まれるもので、人材育成の研修それ自体から生まれるものではないのです。

第5章(企業と経営者が直面する経営の課題)

※なし

第6章(組織優位から経営者優位へ)

■(評者註:3Mの)歴代の経営者が注力してきたのは「ふつうの人を刺激して、ふつうでない成果を生み出す(stimulate ordinary people to produce extra-ordinary performance)こと」でした。

■ところで、3Mのプラクティスの中には、ちょっと風変わりというか独特なネーミングのものも多数含まれていますね。僕は実は、これこそが、優れた経営をしている企業の特徴だと思っているのです。独特のネーミングは、組織の成員が同じ意識を持ち、同じ風景を見るのにとても役立つからです。言葉が共有されていれば、「15%ルール?」「ああ、あれね」というふうにコミュニケーションが円滑になります。

■経営に求められる組織能力を考えるにあたって、スマントラたちが出発点に置いたのは、すでに議論した「事業部制組織(M-form)」でした。M-formは20世紀最大の経営イノベーションであり、プラクティスを超越した経営のディシプリン、あるいはマントラ(教義)ですらありました。

■経営にとっての組織能力を構築し、経営の質を向上させるにあたっての最初のステップは、経営を組織構造や経営管理システムといったハードウェアから見るのではなく、プロセスの束として見ること、いわば視点の転換です。

■一応補足しておくと、日本ではマネジャーというと、「課長級のポストかな」と思う人が多いようですが、欧米ではマネジャーは基本的にPLとBSについての責任を持つ役職であり、文字通りの経営者(経営幹部)です。

■先にも述べたように、組織能力やコンテクスト・マネジメントのフレームワークは、「科学的に証明してください」と言われても、証明できるような類のものではないのです。多くの変数が複雑に絡む経営や組織の全般に及ぶ事象を扱っているので、「大規模サンプルで調べた結果、統計的に有意だ」といった証明は不可能です。

■僕は、アメリカ的な経営に対するやみくもな追従に強く反対しているのですが、こと組織変革に関してはアプローチに違いはないと考えています。組織変革というのはきわめてユニバーサルな現象であり、カルロス・ゴーン氏によるかつての日産改革であっても、ローマ教会の変革であっても、イスラム圏における組織の改革であっても、アプローチは基本的に同じだと思います。なぜなら、組織変革の本質は人間のマインドセットを変えることにあり、日本でやるにせよ、アメリカでやるにせよ、対象が人間である点に違いはないからです。

■行動が本当の意味で定着するのは、マインドセットが行動を支えているときですから。

■その一方で、十分にトレーニングされていないのは経営陣であり経営幹部です。だから、この話は「経営陣・経営幹部の能力や資質がきわめて大事だ」というふうに理解していただきたいのです。

■もう一つ、「人が大事だ」なんて容易に言ってほしくないと僕が思うのは、欧米の産業界とビジネススクールでは、この「人(マネジャー)が大事」という結論に達するために60年間の歳月を費やしてきたからです。

第7章(ポスト産業資本主義へのパラダイムシフト)

■つまり、IT・ネット・デジタル技術の発達や外部市場の発達によって、「組織の時代」から「個の時代」へのシフトが生まれたのです。

■しかし、社員の提案によって立ち上がった多くの新規プロジェクトは、もともとの技術基盤とはかけ離れたもので、ビジネスとしてうまくいかず、最終的には会社自体が傾いてしまいました。その様子を間近で見ていた経験から、社員の自由を重んじる経営は、強いビジネスモデルや唯一無二のコア技術を確立しているような会社でないとうまくいかないのではないかと僕も疑っています。

第8章(21世紀型組織の経営)

■ただし、ここで改めて注意が必要となります。「自由」と「野放図」は違うからです。自由は会社に活気をもたらしますが、それが行きすぎると野放図になり、組織がバラバラになり、結局は会社を滅ぼすことになります。ランジェイが、“枠組みの中での”自由を言っているのも、こうした文脈からです。その意味で、21世紀型企業のコンテクスト・マネジメントにおいて経営者が最も注意すべきことは、「遠心力(centrifugal force)」と「求心力(centripetal force)」のマネジメントです。

■経営について考えるとき、僕はこの会話をよく思い出します。エクセレント・カンパニーは、他社が「そこまではできない」とあきらめてしまうようなことを平気でやってのけます。だから、そのまねができない人々からは、狂信的な集団に見えてしまうこともあるのだと思います。前出のジム・コリンズも「ビジョナリー・カンパニーは、カルトではないが、カルトのようだ」と指摘しています。

■頭脳明晰で組織に対する忠誠心を持っている有能な個人が、真に生産的な行動を起こさずに、貴重な時間とエネルギーを浪費してしまっている。彼ら彼女らは、毎日毎日、降りかかってくる仕事への対応や問題の解決のためにあくせく働いていて、一見行動しているように見えるが、本当の挑戦に向き合っていない。そんな状態をスマントラたちは「アクティブ・ノンアクション(active non-action)」と呼び、鋭く批判しました。

■スマントラとハイケは、アクティブ・ノンアクションを打破するには「意志の力(willpower)」が必要だと主張します。つまり、誰かから評価してもらいたい、頭をなでられたいといった外から与えられるモチベーションに依存して行動するのではなく、自分の内面からわき上がってくる意志の力によって行動することが重要だということです。そしてこの意志の力は、僕が定義するリーダーシップの原点でもあります。

あとがき

■日本の経営幹部たちの多くは、転職を経験することなく、一つの会社の中でキャリアの大半を過ごしているために、そもそも、経営の質というものに対する感度が低くなりがちだ。そのため、経営政策が扱う複雑性、正解がない領域でのアートとサイエンスの合わせ技には、容易には関心が向かない。

コメント

前作同様に講義がベースになっているため読みやすい。

前半や途中途中に経営学におけるプロセス学派の歴史や流れが紹介されて、代表的な学者が紹介されている箇所は少し面食らう部分もあるが、全体としてはそこまで難解な箇所はないように感じた。

個人的には「バッティング・アベレージの高い有能なミドルマネジャーが事実上の意思決定をして戦略を策定し、その後、計画を実行に移す際にも中心的な役割を果たす」という箇所が最近の自分の引っかかりを説明してくれていて印象に残った。

自分の会社でも基本的には経営企画にいる課長級の社員があらゆる物事を差配し、決定しているように見受けられる。

実際的に決裁をし、決定を下すのは経営陣であっても、その起案を作るのは、経営企画の中心的人物であり、実質的な権限は当該人物に集約されている。

上下への情報の伝達も基本はその人物を通して行われるため、その伝達がストレートに伝わることはなく、フィルターを通じて伝達されるため、そこでも情報をある程度コントロールできるように思う。

このあたりは旧日本軍の永田鉄山が組織の差配をしていたという話にも通ずるところがあるが、どの組織でも構造的にそういうシステムになってしまうものなのだろう。

このことを意識したうえで組織を見てみると、色々と気付くこともありそう。

また「行動が本当の意味で定着するのは、マインドセットが行動を支えているとき」というのも印象的だった。

先日読んだ『コンサルが「マネージャー時代」に学ぶコト』でも「人生はメンタリティ。そしてビジネスはもっとメンタリティ」という言葉があったが、それに通じる。

読書レビュー:『コンサルが「マネージャー時代」に学ぶコト』(高松智史)
自分がマネージャーではないこともあって、後半のメンタル的な部分の方が刺さるものが多かった。 とにかく読みやすく、実用的・プラクティカルなので役に立つ、というのは前作から変わらないところ。 読めば何かしら気づくことがあるし、参考になる。 個人的には、「人生はメンタリティ。そしてビジネスはもっとメンタリティ」「ビジネスは人生の下位互換」というのが刺さった。 前者は、頭の回転だったり、知識の抱負さ、論理力などが大事だと思ってしまうところ、その前段階としてメンタリティが重要だということを再認識させてくれる。 いわゆる「勝者のメンタリティ」と言われるようになったのも、メンタリティの重要性に対する認知度が高まってきたからだろうか。 また後者については、捉え方によっては逃げているようにも聞こえがちだが、どう考えても人間にとって人生の方がプライオリティが高いことを考えれば、これは意識しておくに越したことはない。 仕事をしていると、ついつい仕事が人生の全てのように見えてしまうときがあるが、そういうときに視野狭窄にならないために、このフレーズを唱えよう。 内容が盛り沢山で、一度読んだだけだと消化しきれない。 著者が言うとおり、重要だと思ったところや、使える部分は「暗記」するまで繰り返し読み込まねば。

行動を規定しているのがマインドセットやメンタリティであることを考えれば当然なのであるが、ついつい忘れがちになってしまう点でもある。

「仏作って魂入れず」ではないが、会社という組織の一員としてどういったマインドセットを持つかは、価値観が多様化して、一つの方向に価値ベクトルを向けるのが難しい現代において、より重要になってくるように思う。

上記以外にも3Mの取り組み事例なども紹介されており、管理者側としてはもちろん、組織で働く人であれば管理者でなくても示唆に富む内容があるはず。

わたしもまだまだ一兵卒の平社員であって、マネジャーでもなんでもないが、マネジャーがどういう視点を持つべきか、その視座を持つという意味において本書は有用だと感じた。

一言学び

欧米の産業界とビジネススクールでは、この「人(マネジャー)が大事」という結論に達するために60年間の歳月を費やしてきた。


コメント

タイトルとURLをコピーしました