読書レビュー:『世界史の分岐点』(橋爪大三郎/佐藤優)

読書

読みたいと思ったきっかけ

出張に行く際に駅の売店で見つけたのがきっかけ。

最近は佐藤優氏の対談本を連続で購入してしまっている。

内容

目次

目次は以下のとおりとなっている。

まえがき 橋爪大三郎
第1章 経済の分岐点ー「アメリカ一極構造」が終わり、世界が多極化する
第2章 科学技術の分岐点ー人類の叡智が、新しい世界を創造する
第3章 軍事の分岐点ー米中衝突で、世界の勢力図が塗り替わる
第4章 文明の分岐点ー旧大陸の帝国が、覇権国の座を奪う
あとがき 佐藤優

内容

わたしの気になった箇所について記載する。

第1章(経済の分岐点ー「アメリカ一極構造」が終わり、世界が多極化する)

・一般的には博士論文は修士論文程度に落ち、修士論文は卒業論文程度に落ち、卒業論文は高校生の作文程度に落ちている。博士論文の量産が全体の質を下げていると思います。(佐藤)

・在職中にどんな法律を作ったのか。どういう交渉を重ねて、どんな条件を諸外国と結んでいたのか。こういった点で業績のある人は、やはり死ぬほど働いています。日本もアメリカもロシアも、どこの国も同じ。なぜなら、そういう仕事だからです。「何時間以上働いたら過労死する」ではなく、「何時間働いても過労死しないように健康管理する」、それも役人の実力のうちという話になってくる。そういう世界があるということを認めなくてはいけません。(佐藤)

・みなが「哲学の言語」で話せなくてはいけない。そのために「哲学の言語」を大学から社会へと広めていく。これは死活的に重要だと私は考えています。(佐藤)

・カタカナを使ってすませるのは知的堕落です。儒学の教養も素養もないから、ぴったりの感じを思いつかない。(橋爪)

第2章(科学技術の分岐点ー人類の叡智が、新しい世界を創造する)

・つまり、いかに言葉が人々の物事の捉え方に影響するかという話です。制作においても言葉は本当に重要で、核融合も「核」とついている時点で、この国では非常に難しくなってしまう。(佐藤)

・再生可能エネルギーは、核融合が実用化するまでの「つなぎ」です。(橋爪)

・コロナ禍の一連の騒動を見ていても、たとえば新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身会長が、なぜあそこまで前に出たかと言えば、自民党の元衆議院議員の尾身幸次さんの弟さんだからです。尾身会長自身、WHOの事務局長選挙に出たときに政治家とのつながりができていたから、この人に会長を任せればいいだろうと、おおむねそういう決定だったのでしょう。という具合に何をとっても非常に属人的なんです。ただ、どの国もきっとそうだろうという話です。(佐藤)

・でも、もう少し経つと、アメリカ人で中国語を勉強する人がますます増えてくるでしょうね。中国語をとりなさいというのは、今、私も学生たちに強く言っています。必ず必要になりますから。(佐藤)

第3章(軍事の分岐点ー米中衝突で、世界の勢力図が塗り替わる)

・ですから、外務省の専門職で、国際法の一級の専門家を目指す。あるいは戦争法や宇宙法に特化した専門家になる。今後、そういう若い人が出てくるというのが非常に重要です。これは2、3年、海外に留学して勉強すれば目指せる道です。日本では国際法も戦争法もマイナー分野になってしまっていますが、アメリカやロシアなど、国際的には非常に大きなウェイトを占めている分野です。中国でもそうです。そういうところで、しっかり速歩で勉強してきてほしい。そして勉強したことを日本に還元してほしいと思います。(佐藤)

・今までは全体主義批判が一定の効果を上げていましたが、このコロナ禍に直面したときに、実は全体主義的な体制のほうが効果的に封じ込めることができるんじゃないか、という認識が西側政権で強まってしまいましたよね。その意味では、やはりコロナというのも、中国と付き合っていく上では非常に大きな要素だと思います。(佐藤)

・普遍的な価値とはいえないような「人権」という概念で押していくやり方は、もう事実として限界があるということです。(佐藤)

・日本は、漢語の運用能力がとても低くなっています。これを強化するのは、ソフトパワーとして有用だと思う。(橋爪)

・ヨーロッパ人とか、世界の人ひとは漢字がわからない。日常で漢字を使っているのは、もう日本人ぐらいなんです。ソフトパワーの基礎はある。あとはやる気です。(橋爪)

第4章(文明の分岐点ー旧大陸の帝国が、覇権国の座を奪う)

・近代人は記憶力が弱くなっているので、聖書全体を暗記することが難しくなっていますが、近代より前、特に活版印刷が普及する前は、神学部では聖書をすべて暗唱することがカリキュラムに組み込まれていて、通常、みんなできましたよね。日本でも、小学生ぐらいの子どもが論語などを丸暗記していました…やはり「暗記できる量」ということが重要だと思うんです。(佐藤)

・今ここに、ロシアでよく売れている『北のキツネ、プーチンの大戦略』という本があります。2021年7月に東京堂出版から『ウラジミール・プーチンの大戦略』という邦題で翻訳版が出たのですが、著者のアレクサンドル・カザコフ君は、私のモスクワ時代の同級生で、私が大宅壮一ノンフィクション賞をもらった『自壊する帝国』の主人公なんです。(佐藤)

・まず、日本の外交当局者は、基本的に「よらしむべし、知らしむべからず」、つまり外交はエリートだけでやっていればいい、というのが本音です。(佐藤)

・外交というものが、勇ましいことを言えば言うほど有権者に好まれて票をとれるという、ポピュリズム的な道具になってしまっている。(佐藤)

・あるいは、私はチェコ語を少し話す関係でチェコにも関心があるのですが、この国の人たちも大したものですよ。小さな国ですが、チェコは共通通貨ユーロに加わっていない。にもかかわらず、なぜ技師や医者がユーロ圏に逃げ出さずに、チェコに留まっているのかというと、やはり、そういうもんだと思っているからです。そうしないと我々のような小さい民族は生き残れないと考えて、経済合理性とは違う基準で動く人たちが相当数いるわけです。ロシアにもそういうところがあります。これって結局、教育とも強く結びついてくる話だと思うんです。(佐藤)

・教育の原点に戻るならば、その人が生きていく、幸せになる可能性の条件として、若いとき、どうしても身につけなきゃならないことが幾つかある。それを選り抜いて、選り抜いて、これだけは身につけてね、と上の世代から若い人びとに手渡しする。それが身につけばいいのであって、大学入試だとか就活だとか、そんなことはいくらでも取り返しがつく。(橋爪)

あとがき

・1人あたりのGDPは、その国家の生産性を表す。日本は生産性の低い国家になりつつある。少子化が経済成長を阻害しているという点にだけとらわれると事柄の本質を見失う。なぜなら韓国における少子化は日本よりも深刻だからだ。韓国は生産性を向上させ、経済を成長させているが、日本にはそれができていないのである。このままの状態が続くと20年後には国民1人あたりのGDPで日本はヴェトナムに追い抜かれると思う。

コメント

基本的には各章の冒頭で橋爪大三郎氏がテーマの概略や歴史を紹介し、それをきっかけにして佐藤優氏と対談を進めていくという構成になっている。

橋爪大三郎氏の本は以前に『世界がわかる宗教社会学入門』を読んだような気がしていたのだが、文体の面白さ(基本は単文を紡ぐ)に目を引かれた。

この本の中でも橋爪大三郎氏の文体について触れられているが、反論している箇所がわかりやすくなるよう意図的に単文を連ねる形式にしているという。

単文を連ねる形は読んでいるとすぐに気が付き、最初は読みづらさを多少は覚えるが、慣れてくると命題や論理がハッキリしていて文章が理解しやすいと感じるようになる。これは面白い体験だった。(今回は対談ベースであるので口語文がメインなので、また純粋な文章は別かもしれないが)

今回の本で特に印象に残ったのは①核融合の話と、②中国語の話。

核融合

核融合の技術が進めば、軍事転用の恐れもなく、CO2も排出がゼロであり、エネルギーを施設で生み出せるという画期的な技術が誕生することになるというもの。

この技術が完成した暁には今話題の再生可能エネルギーはすべて無駄になるというのも衝撃的である。

こういった議論やワードは人口に膾炙していないように思えるが、ここまでインパクトが大きいと今後はこういった話が巷でも話題にのぼってくるのだろうか。

中国語

佐藤優氏の著作を読んでいると最近は中国語を勉強する学生に指導している、という記述がよくある。

草の根的には中国語熱も高まっているのだろうが、それでもやはり英語熱の方がまだまだ高い。

わたしにとっても他人事ではなく、今は英語にいっぱいいっぱいになっているが、近未来的には中国語の学習も進めていく必要が出てくるかもしれない。

もっとも英語すら身についていない段階で、そんなことをしても無意味かもしれないけれど。。。

ただ、語学学習については英語と中国語のどちらの学習も日本でマストになってくるのは間違いなさそう。

自分ももう若くないので、始めるなら早いほうがいいか・・・。

まとめ

そこまで特化したわけではないが、理系的な技術の進展の話を久々に本で読んだ気がする。

テクノロジーの進歩に疎いと現代ではまったく話についていけなくなるという思いを改めて強くした。

もはや技術的な基礎知識が頭に入っていないと何もできない状況になりつつある。こういった知識のアップデートも日々進めていかねばならない。

そういった意味でも本書を読むことは理科系的な知識の重要性を知るきっかけになる1冊だと思う。

余談

佐藤優氏のファンとしては『自壊する帝国』でのメインプレーヤーであるアレクサンドル・カザコフ氏が今はプーチン政権を支持する青年運動を指揮しているという事実に驚いた。やはり優秀な人は世に出てくるということか。

一言学び

中国語をとりなさいというのは、今、私も学生たちに強く言っています。必ず必要になりますから。


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