読書レビュー:『コスパで考える学歴攻略法』(藤沢数希)

読書

読みたいと思ったきっかけ

たまたまAmazonを見ていたときにレコメンドとして掲載していたのを見たのがきっかけ。

子どもの教育については悩ましい部分が多く、どういった教育投資をするべきかを悩んでいたところなので、その参考になると思い購入した。


内容

目次

目次は以下のとおりとなっている。

まえがき    
第1章 たかが学歴 されど学歴
第2章 日本の高校までの教育レベルは高い
第3章 学校のカリキュラムは何を目的に作られているのか
第4章 中学受験はダービースタリオンだ
第5章 格安の公立中学からの高校受験ルートで学歴獲得競争に勝つ
第6章 日本の教育に足りないものを家庭で補う
あとがき    

内容

わたしの気になった箇所について記載する。

第1章(たかが学歴 されど学歴)

・なお、学歴や学歴社会といえば、欧米や欧米のアカデミアの仕組みを模範とした香港やシンガポールなどのアジア諸国では、修士号や博士号などのより高い専門性や研究の遂行能力を証明する学位やそれらを尊重する社会を指すことがふつうだが、日本では偏差値やランキングなどで表される卒業大学の序列を指すことが多く、この点で日本の学歴観はますます専門性が重視されるグローバル経済の中にあって異端であり、個人的には嘆かわしいことだと思っている。

・子供を早期教育に追い立てるような行き過ぎた学歴獲得競争とは健全な距離を保ちながら、いかに効率よくこの競争に勝てるように家庭で子供をサポートできるか、そして、どうせ学歴獲得競争に参加するならそのプロセスからいかに多くの果実を得るか、ということを考えていきたい。

・一言でいえば、日本の大学入試はある種の科挙であり、卒業大学の格が「身分」と言ってもいいほどのものなのだ。

第2章(日本の高校までの教育レベルは高い)

・現実問題として、日本の教育産業というものは、高校間や塾間で大学進学実績を競い合うという知的競技のために出来上がっており、日本で子供を育てる場合、良くも悪くも、こうした教育インフラを上手く使っていく以外の選択肢はほとんどない。そして、この知的競技はじつに日本の子どもの半数近く(約50万人/年)がガチで参加しており、eスポーツの競技人口として見れば世界最大規模である。そこで身につけられる知識や技能もまったく悪いものではない。むしろこのような広大で豊かな教育インフラが日本にあったことに最初から感謝するべきだったのだ。

・日本経済の衰退とともに研究費が削られるなどした結果、研究論文の数や被引用回数などが年々低下し、種々のランキングで東大は順位を落としてしまったが、入試問題の作問技術や膨大な受験生が受ける入試を厳正に実施し採点する入試運営能力では間違いなく世界トップである。世界の一流大学ではこうした雑務に第一線の研究者が関わることはないが、東大では世界的な研究者までもが試験監督に従事するなど、入試にかける意気込みは他の追随を許さない。

・競争がないところは淀んでいく。日本高校までの教育は、教育サービスを提供する学校にもそうした教育サービスを受ける生徒にも厳しい競争があり、それゆえに高いレベルが保たれているが、残念ながら大学間にはあまり競争がなく、それゆえに日本の大学教育は停滞していると言わざるをえない。

・特に理系に関しては、…世界中のどこの大学でも勉強する教科書はほとんど同じで、修得すべき専門知識も世界共通なので、学費が非常に安い日本の大学はとてもコストパフォーマンスが良い。経済学などのしっかりと体系が確立されている社会科学も同様だ。国公立なら医学部でも学費は年間たったの50万円程度である。

・将来は研究者になったり多国籍企業でグローバルに活躍したいなら、こうした専門分野の基礎を学費の安い日本でしっかりと学び、欧米やアジアなどの海外の大学院に奨学金をもらって留学するというのが、圧倒的なコストパフォマンスである。

・アカデミックな世界に行きたかったら日本の大学を卒業してから海外の大学院のPhD課程に進めばいいし、ビジネスの世界で成功したかったら日本が低学歴社会であることを逆手に取って新卒でグローバル企業に就職してしまえばショートカットできてしまうのだ。このように日本の大学は使いようによってはじつにコストパフォマンスが良いのである。

第3章(学校のカリキュラムは何を目的に作られているのか)

・このように学校で勉強する内容は、なぜどこの国でも似たようなものなのだろうか。それはカリキュラムがどこの国でもすべて同じ目的で作られているからである。それはアカデミックな研究者の養成なのである。

・電子工学でも経済学でも他の分野でも、多くの体系が確立されたまともな学問分野には、それぞれに大学院レベルの標準的な教科書があり、そのレベルの知識を身につけることが、小学校から高校、大学卒業までひたすら学び続けてきたことのひとつのゴールとなる。

・大学入試のための受験勉強を通して学ぶ知識や論理的思考力といったものは決して無駄ではないのだが、こうした与えられた知識を盲目的に覚えていけば勝てる受験勉強で培ってしまった学問への姿勢、ある種の知性観といったものは、大学に入学したらすこしずつアンラーンしていく必要がある。日本の受験勉強に有利なマインドセットは、何か新しいことをやらないといけない研究者としてはもちろん、ビジネスでも成功を阻むことがよくある。

第4章(中学受験はダービースタリオンだ)

・中学受験の勉強は、将来を見据えた場合、文系科目の方が役に立つ。理系科目だと何が問題かというと、これらは中学・高校でどんどん新しい概念が積み上げられていくということだ。

・日本は、難関中学も東大、京大、国公立大学医学部などの難関大学の入試も、受験生間で差がつく算数や数学で決まってしまうところがある。

・方程式は、大人が思っているより子供にとっては難しく、大人にとっては難しい算数の解き方のほうが子供にははるかに理解しやすい、ということはぜひ覚えておいてほしい。

・筆者は中学受験の最大の果実は志望校に合格することではなく、毎週順位が出るテストを受けながら塾で授業を受け家庭で猛勉強し続けるそのプロセスにこそあると思う。しかし、経済的事情などで、こうした中学受験は無理だと思うなら、迷うことなく高校受験を選んでほしい。わざわざ親子で金と時間と多大な労力をかけて負け戦に臨むことはない。

第5章(格安の公立中学からの高校受験ルートで学歴獲得競争に勝つ)

・無理をして中学受験して、SAPIXや浜学園などの塾に約300万円も支払い、その上で私立の学校に6年間で約600万円も払う必要はないのだ。子供を公立中高に通わせ、中学受験をしないことで余った教育資金を高校受験のための塾1年、大学受験のための予備校1年、あとは短期留学ぐらいに回したほうが、ほとんどの家庭にとってはコストパフォーマンスがいいだろう。

・良くも悪くも、東京ではこのように教育熱心で比較的裕福な家庭の子供たちが小学校を卒業するとごっそりと私立中高一貫校に抜けていく。そうなると、公立中学に入ってくる生徒は、勉強という観点からは上位1、2割が抜けてしまっていることになり、これこそが受験産業が中学受験を煽る殺し文句のひとつであるのだが、逆に考えれば、こうした上が抜けた母集団の中で競争すればいい高校受験の方が勝ちやすい、とも言える。

・それでは公立中学を選択し、中学受験ではなく高校受験に照準を合わせる家庭の子供たちが、どうやって私立中高一貫校の連中と戦うかだが、それにはまずは相手の弱点をよく知る必要がある。中学受験には非常に大きな欠陥があるのだ。それは大学入試においてこれほど重要な英語も数学も中学受験の入試科目にないということだ。

第6章(日本の教育に足りないものを家庭で補う)

・日本人の子供が英語をできるようにするにはどうしたらいいのだろうか。小学生高学年から中学生ぐらいのときに英語が母国語の国の学校に留学させて帰国子女にすればいい。以上である。

・日本語という言語や日本独特の商習慣などの参入障壁が日本のホワイトカラーの労働者たちを良くも悪くも守っているため、日本の大企業や官庁での仕事はいい大学を卒業した日本人に独占されており、国内のホワイトカラーの競争はとても緩いのだ(筆者の意見ではこのように経済のグローバル化を阻み、言語と文化の障壁を使った労働市場の鎖国を行ってきたことが、世界経済の成長に乗れずに孤立した日本の失われた30年の原因である)。

・しかし、ここまで読めばわかるが、どれも数年単位の継続的な学習が必要なことばかりである。ある程度の正しい方向性で3000時間程度は勉強しないと最低限の英語は習得できないのだから、地道な努力を続ける他ない。ここまで書いてみて思ったのだが、英語ができるようになるには、これほどの時間と労力が必要なのだから、そりゃあ、多くの日本人は英語ができないわけである。

・中学受験をやめてこの1000万円を浮かしてしまえば、英語を習得しやすい(そして忘れにくい)中学生ぐらいの時期に2年間ほど留学させても十分にお釣りが来る。日本の大学受験を公立中学→公立高校のルートで乗り切れるなら、小学校高学年〜中学生ぐらいのどこかの期間に子供を2年ほど留学させるのは、非常にコストパフォーマンスが高い教育投資のように思われる。

・結局、英語などの語学も本人のやる気次第だ。とはいえ、金持ちの親が子供の教育のために塾や家庭教師にどれだけ教育資金を投入したとしても、数学や物理や国語なら、本屋で買ってきた安い参考書で楽しくひとりで勉強していたり、本を読むのが好きな子供にはまったくもって勝てる見込みはないのだが、英語に関しては金持ちの親がちゃんと金をかければ、それなりに子供に身に着けさせやすい技能である。英語教育は親にとっては金の遣い甲斐がとてもあるのだ。

・さて、結論から言うと、プログラミングに関しては、子供の頃から何か熱心に習わせる必要はまったくない。これはやったことがある人でないとわからないが、外国語の修得と違い、プログラミング技能には幼少期にやるメリットは何もないと断言できる。

・日本の教育に足りないものは一にも二にも英語であって、IT教育ではない。プログラミング修得に重要な能力というのは、教科書を理解し必要事項を覚え論理的に考えを組み立てられることであり、これらは日本での伝統的な入試のための受験勉強を通して特によく鍛えることができるところである。プログラミングは大学に入ってから始めても、まったく遅いということはない。

・将来のことを考えると、日本人にとっては英語を習得できることは本当に重要なのだ。

・STEM+英語が、日本人がグローバルなキャリアを目指す際に一番成功しやすい。

・日本経済は世界の成長から取り残されてしまっており、その責任の一端は日本の教育にあるかのような言説があるが、悪いのは日本の産業界や政治の方だと思う。日本の子供たちは、1点刻みの点数で順位が出る厳しい実力主義の中で切磋琢磨しているにもかかわらず、大学を卒業して日本の大企業や官庁に就職すると、めったなことでは首にならず、がんばっても給料が増えないというぬるま湯にどっぷりと浸かっていく。

コメント

日本における受験システムの現状とそれへの解決法が具体的に載っており、これから子どもの教育方針を決定するうえで参考となる一冊であることは間違いない。

湯水のように教育費を使えるわけでない自分にとっては、自分も経験してきた公立中学→公立高校も悪い選択でないことを把握できたことは大きい。

教育自体は事後性が高くて、そもそも教育を受けた後、かなり時間を経てみないと、そのときに受けていた教育が有効だったかどうかの判断はつかない。

また、どれだけ良い環境を与えたとしても、本人にまったくやる気がなければ全て水の泡になる可能性もある。

さらに子ども自体の素質や適性もあるため、一概にベストな答えを提示しづらいのが教育の難しい部分でもある。

そんななかで日本人のホワイトカラーとして生きていくうえで、日本の受験システムの特徴を活かしつつ、どういった道筋で教育・キャリアを積めば良いかを示し、比較的費用対効果が現れやすい英語に費用を投下することを中学受験以外の選択肢として提示しているのは、親がコントロールできる範囲での日本における教育ルートの最適解を示しているように思う。

受験というシステムを活かしつつ、英語という日本人の弱点を補填する方策を再現性高く提示していることは多くの親にとって有益に感じる。

ただ、中学受験への費用を留学費用に充てることが提示されてはいるが、留学についてはここまで円安に振れてくると、留学の費用がだいぶかさ増しされてしまうので、比較の際には為替の点も少しチェックすることは必要だろうけど・・・。

自分自身が中学受験を経ていないので、中学受験の良い面も悪い面も肌感覚としてわからないのが正直なところであり、その状況で子どもに中学受験をさせることが良いのか悪いのかもまだ判断がついていない。

自分の子どもが圧倒的にできるならまだしも、その可能性は遺伝的にも極めて低いことを考えると、金銭的にも時間的にも精神的にも無理をして中学受験をさせることが得策かどうかは要検討といったところだ。

本書で提示されるもう一つの選択肢である留学にしても、わたし自身が留学をまったくしたことないので、そこも未知数な部分が多く、中学受験にしろ留学にしろ未知の領域となることに変わりはない。

こうなるといずれにしても未知への挑戦となるので何とも判断しづらいところはある。

一つハッキリしているのは中学受験にしろ、留学にしろ、いずれもそれなりにお金を要するということ。

教育資金の捻出のためにもそれなりにお金を貯めていかないといけないことは間違いない。ここは避けて通れない。

子どもを持つ親で、子の教育について少しでも関心があれば本書を読んでおいて損はない。

一言学び

日本の教育に足りないものは一にも二にも英語。


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