読書レビュー:『平等について、いま話したいこと』(トマ・ピケティ/マイケル・サンデル)

読書

読みたいと思ったきっかけ

マイケル・サンデルとトマ・ピケティの対談。この文言だけで購入。

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平等について、いま話したいこと [ トマ・ピケティ ]
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内容

目次

目次は以下のとおりとなっている。

 

第1章 なぜ不平等を懸念するのか
第2章 お金はもっと重要でなくなるべきか
第3章 市場の道徳的限界
第4章 グローバリゼーションとポピュリズム
第5章 能力主義
第6章 大学入試や議員選挙にくじ引きを取り入れるべきか
第7章 課税、連帯、コミュニティ
第8章 国境、移民、気候変動
第9章 左派の未来ーー経済とアイデンティティ
解説 吉田徹

内容

わたしの気になった箇所について記載する。

第1章(なぜ不平等を懸念するのか)

■金銭的な距離というのは、ただ単に金銭的な開きがあるだけではありません。社会的な距離が伴います。(ピケティ)

第2章(お金はもっと重要でなくなるべきか)

■最後に言うと、この累進課税がきわめて重要なのは、民間セクターで非常に高い給与を受け取っている人たちと行政機関で働く人たちの給与格差や所得格差が大きい場合に、そこで生じる経済力を規制できるようにする働きもあるからです。(ピケティ)

第3章(市場の道徳的限界)

■なんでもかんでも商品化して、高い金銭的インセンティブや高い給与を払うのは、人々が仕事や生活のなかでほんとうに大切にしているさまざまなものを壊すことになると思います。(ピケティ)

■つまり、北側諸国は国際分業と天然資源・労働力の国際搾取によって豊かになってきた。これが、20世紀に北側で発達したタイプの社会民主主義と福祉型資本主義における何より重要な限界です。(ピケティ)

第4章(グローバリゼーションとポピュリズム)

■もともと民主党はヨーロッパの社会民主主義政党や労働者政党と同じように、労働者階級と下位中流階級のための政党であり、所得と富の分配で上位の人たちからの支持はないに等しかった。それがいまは逆転しています。(ピケティ)

■われわれは多元的な社会に生きていて、財の価値をどう評価するかは意見が一致しない、善き生の本質についても意見は一致しない、だから願わくは自分たちでそういう判断をはっきり下さずにすむ中立的な装置に頼りたい、なぜなら、われわれの意見は一致しないから、という発想です。(サンデル)

■要するに、民主主義にたいする怖れだと思います。民主的熟議にたいする怖れですね。(ピケティ)

第5章(能力主義)

■あいにくですが、ちがいます。それは自分のお金ではありません。そのお金は何百万という人たちの労働が集まって生み出されたものです。公共インフラや法制度がなければけっして生み出せなかったものです。わたしたちは自分だけでこの世界に生きているのではありません。「自分のお金だ」と言ってすませることはできないのです。(ピケティ)

■アメリカでは民主党、イギリスでは労働党、フランスでは社会党ーーかつては労働者階級の有権者がおもな支持基盤でしたが、いまは高学歴・高経歴の専門職階級と価値観、利益、見解を同じくするようになった政党です。(サンデル)

第6章(大学入試や議員選挙にくじ引きを取り入れるべきか)

※特になし

第7章(課税、連帯、コミュニティ)

■先ほど話していたように、正義や分配の問題を善き生や価値評価の問題と切り離すのは可能でもなければ望ましくもない、というのがわたしのおもな主張でした。(サンデル)

第8章(国境、移民、気候変動)

※特になし

第9章(左派の未来ーー経済とアイデンティティ)

■社会民主主義政党が抱えるきわめて大きな政治的弱みとして、最も効果のある政治的感情、すなわち愛国心、共同体意識、帰属意識の独占を右派に許してしまったことがあるように思います。(サンデル)

■いまのお話で、この冬に経験したことを思い出しました。家族といっしょにフロリダで休暇を過ごしていて、ホテルのエレベーターに乗ったときのことです。エレベーターにいた年配の女性に「どちらから?」と訊かれたので、「ボストン」と答えました。わたしが言ったのはそれだけです。その女性は「わたしはアイオワ」(アメリカ本土のほぼ中央、中西部の農業地帯にある州)と言ったあと、「アイオワでもみんな字は読めるのよ」と言い足したのです。わたしは何と言えばよいかわかりませんでした。ハーバードからとは言っていません。ただボストンと言っただけなのです。そのあと女性は、「東海岸や西海岸の人たちのことはあまり好きじゃないわ」と言いながらエレベーターを降りていきました。これはアイデンティティ政治と言えるものだと思います。移民どうこうではなく、見下されているという感覚に関わることです。承認、そして尊厳に関わることです。(サンデル)

■ですがひとつ、ルソーがはっきり示していると思うのは、最初に土地を囲いこんだことや最初にそれを私有財産にしたことはたいした問題ではなく、私有財産を際限なく蓄積することこそが問題だという点です。(ピケティ)

解説(吉田徹)

■つまり、サンデルの関心は多かれ少なかれ「(現象や言葉が)人にとって何を意味するのか」という点に向けられているのに対し、ピケティは「現実社会がどのような趨勢にあるのか」ということに関心を寄せるのだ。

■もし不平等を忌み嫌うのならばーー不平等がいかに個人を卑屈にし、経済を非効率にし、社会を荒廃させるのかは本書を読めばわかるだろうーーこれと戦うための最大の武器は社会を通じて個人に尊厳と承認を保障することだということに、両者ともに意見の一致をみていることが重要だ。

コメント

「本書はトマ・ピケティとマイケル・サンデルが2024年5月20日にパリ経済学校で対談した内容を編集したもの」と書籍のある。

実際の対談動画も観ることができるので、それを観れば本書を読む必要もないと思ったが、日本語のほうが理解が早いということで購入した。

対談本なので、そこまで難しい話が続く訳ではないものの、それでも結構込み入った内容が話されている印象。

若干、日本語の翻訳がぎこちなく感じるところもある気もするが、そこまで影響はなさそう。

本書の中で一番印象的なのは、「われわれは多元的な社会に生きていて、財の価値をどう評価するかは意見が一致しない、善き生の本質についても意見は一致しない、だから願わくは自分たちでそういう判断をはっきり下さずにすむ中立的な装置に頼りたい、なぜなら、われわれの意見は一致しないから、という発想」の部分。

意見が一致せず、その合意形成コストが高すぎるがゆえに、その調整を市場に任せる。

市場調整の結果であれば、対立するAもBも文句は言いづらいし、価値中立的な結果であるという説明もつきやすい。

わたしは、市場に任せるというのはそういった機能があるという事実を明示的に理解していなかったので、この部分が一番学びになった。

そうやって調整を市場に任せ続けたツケが世界各地で問題になっているということか。

本書のなかでマイケル・サンデルが経験したエレベーターで出会った女性の話。

これなどはマイケル・サンデル自身は何も嫌がらせめいたことを発言していないのに、女性は「見下されているという感覚」を持っている。

個人のコミュニケーションを取る前から前提としてこういったフレームワークが形成されてしまっているという事実。

もちろん自分もそういった「見下されているという」感覚を持つことはあるし、それは人間である以上、何かしらの場面、分野で経験することではあると思う。

しかし、その感覚が特定分野や場面ではなく、日常的に常時そのように感じてしまうというのは確かに「アイデンティティの危機」と呼べるように感じる。

このままそれぞれ属している(属していると思われる)コミュニティは、互いに交流なく、各々独自の生態系を有しながら閉じていくのだろうか。

久しぶりにこういったやや抽象度高めの内容を読んだ気がする。自分の住む世界が大きくどういった方向に向かうのか。その方向性を何となく掴むのにも定期的にこういった書籍に目を通すことは意義がある。

一言学び

要するに、民主主義にたいする怖れだと思います。民主的熟議にたいする怖れですね。

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