読みたいと思ったきっかけ
著者買い。とはいえ佐藤優氏の著作でも時事問題系はたまに購入を控えることもあるのだが、今回は書店で立ち読みした感じ面白そうだったので購入した。
内容
目次
目次は以下のとおりとなっている。
まえがき | : | 手嶋龍一 |
第1章 | : | イスラエルvs.ハマス |
第2章 | : | ハマスの内在的論理とパレスチナ |
第3章 | : | ネタニヤフ首相とイスラエルの内在的論理 |
第4章 | : | パレスチナとイスラエル その悲痛な歴史 |
第5章 | : | 近づく第三次世界大戦の足音 |
第6章 | : | 日本には戦争を止める力がある |
あとがき | : | 佐藤優 |
内容
わたしの気になった箇所について記載する。
まえがき(手嶋龍一)
※特になし
第1章(イスラエルvs.ハマス)
■ただ、今回のイスラエル側の作戦は、ハマスを完全に中立化することを目的としていますから、簡単には戦闘を止められません。中立化とは殺害でも、帰順でも、あるいは国外逃亡でもいいので、ハマスをイスラエルに敵対できないような状態にすることです。(佐藤)
■そもそも論として、ガザ地区はイスラエル領内の自治区であり、国家ではありません。ハマスはその自治区を実効的に支配している1つの組織にすぎない。侵攻とは国家間において片方の国が軍事力を行使して他国の領域に攻め込むことを意味します。ですから、「侵攻」という言葉は不適切だと考えます。(佐藤)
■国家の承認には、領土、政府、そして国民の3つの要素が揃っていなければいけません。その点、パレスチナは、いまだ領土が確定していない。パレスチナ全体を実効支配している政府もない。4度に及ぶ中東戦争の後、1993年の「オスロ合意」でヨルダン川西岸とガザ地区の2つがパレスチナ自治区となりました。それはあくまで「自治区」であり「国家」にあらずというのが妥当な解釈だと考えます。(佐藤)
第2章(ハマスの内在的論理とパレスチナ)
■住民たちの怒りが自分たちに向かってくるのは何としても避けたい。自分たちはイスラエルと雄々しく戦っている。そんな姿を示さなければとハマスは思ったはずです。住民の怒りと不満の矛先をイスラエルに向けようと、捨て身の奇襲作戦に踏み切った。そうした背景があったと思います。(手嶋)
第3章(ネタニヤフ首相とイスラエルの内在的論理)
■長兄ヨナタンは、尊敬する肉親であり、共に命を賭けて戦った戦友でもある。そんな兄を憎きテロリストによって喪った。その痛みは、ネタニヤフという政治家のテロに対する強い姿勢を決定づけたのでしょう。(佐藤)
■年を取るにつれて周囲が頼りなく映ってしまう。そこから独善的に突っ走ってしまう。そんなリーダーは少なくありません。(手嶋)
第4章(パレスチナとイスラエル その悲痛な歴史)
■ハンナ・アーレントは、ユダヤ人問題を考えるうえで、私も多くの示唆を受けた独創的な思想家です。(佐藤)
■ただ、本来のジハードの意味は少し違っています。ジハードとは本来は「奮励努力する」という意味であり、自分の内面の悪と戦い、社会的な公正のために努めることを意味していました。これを「大ジハード」と呼びます。自分たちの宗教共同体に攻撃を加える者と戦う意味でのジハードは「小ジハード」と呼ばれます。(佐藤)
第5章(近づく第三次世界大戦の足音)
■いや、むしろ、宗派が異なるからこそ、互いに思う存分協力できる余地があるんです。ヒズボラがハマスに協力し、ハマスが大きな力を持っても、自分たちの社会にはほとんど影響を及ぼさないからです。(佐藤)
■「ミネルヴァの梟は夕暮れに飛び立つ」。ヘーゲルの『法の哲学』の序文末尾にある有名な言葉です。梟とは、ミネルヴァ、つまり学問、哲学の神様の化身だとされています。その梟は、1日が終わる夕暮れに巣から飛び立つということは、錯綜した現実の出来事は、終焉期になってから漸くしてその全体像がみえてくるということなのです。裏返して言うと、現在進行中の出来事については事柄の本質がなかなか摑めないということです。(佐藤)
第6章(日本には戦争を止める力がある)
■バラク・オバマ元大統領は、黒人系ではあるのですが、父親はケニアからやってきたエリート留学生です。黒人奴隷の血は引いていません。これに対してミシェル・オバマさんは、苦難の歴史を持つ黒人奴隷の系譜を引いており、多くのマイノリティから慕われています。(手嶋)
あとがき(佐藤優)
※特になし
コメント
まずはガザ地区が国際法に照らして国家ではないという話から始まり、現在のイスラエルとハマス問題の歴史的経緯が説明されている。
対談本であるので口語ベースで内容を理解しやすく、読みやすいのも有り難い。
手嶋龍一氏のまえがきに「本書での佐藤優氏の発言をどう受け取るか、それは読者の判断に委ねたい」と記載があるとおり、今回、佐藤優氏はイスラエル寄りのスタンスであるように見受けられる。
佐藤優氏のあとがきでも「イスラエル側の内在的論理を私は本書を通じて日本語を解する読者に伝えたいのである」とあるので、基本的にはイスラエルがどう考え、今回のアクションを起こしているのかを解くという構えである。
この点、イスラエルによる攻撃が一般市民の被害も出してしまっていることから、欧米などでは非難の声も多く聞かれる状況であり、日本国内でもそういった発言を目にすることがあることを考えると、佐藤優氏のスタンスに懐疑的になる人が出るのも当然なので、「まえがき」と「あとがき」においても、そういった「断り」が入っているのだろう。
ユダヤ人の苦難の歴史を考えると、イスラエルが「ユダヤ人をユダヤ人であるという属性のみを理由に地上から抹殺するという思想を持つ」ハマスを中立化(殺害だけでなく、イスラエルに帰順する、もしくは国外に逃亡することでも構わない)するという考えにも仕方なさがあるように思える。
イスラエル国民に共有されているという「全世界に同情されながら死に絶えるよりも、全世界を敵に回してでも戦い、生き残る」という認識があるというが、それを実践しているといえる。
2024年12月中旬においては「パレスチナ自治区ガザの停戦交渉で、イスラム組織ハマスが初めてイスラエル軍の一時的なガザ駐留に同意」という報道も出ている模様。
シリアでのアサド政権崩壊のニュースにより、より混沌としてきた中東地域において、そのキープレイヤーとなるイスラエルのロジックを知るためにも本書は有益であるように思う。
一言学び
その梟は、1日が終わる夕暮れに巣から飛び立つということは、錯綜した現実の出来事は、終焉期になってから漸くしてその全体像がみえてくるということなのです。裏返して言うと、現在進行中の出来事については事柄の本質がなかなか摑めないということです。
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