読書レビュー:『21 Lessons』(ユヴァル・ノア・ハラリ)

読書

読みたいと思ったきっかけ

『サピエンス全史』、『ホモ・デウス』で有名なユヴァル・ノア・ハラリ氏。

話題になっていたのでずっとどれかは読もうと思っていたのだが、機会を逸していた。

先日読んだ佐藤優氏の『哲学入門』のなかで「ユヴァル・ノア・ハラリの著作の中であれば『21 Lessons』がおすすめ」とあったので、購入した。

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21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考 (河出文庫)
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内容

目次

目次は以下のとおりとなっている。

はじめに    
Ⅰ. テクノロジー面の難題
1 幻滅 先送りにされた「歴史の終わり」
2 雇用 あなたが大人になったときには、仕事がないかもしれない
3 自由 ビッグデータがあなたを見守っている
4 平等 データを制する者が未来を制する
Ⅱ. 政治面の難題
5 コミュニティ 人間には身体がある
6 文明 世界にはたった一つの文明しかない
7 ナショナリズム グローバルな問題はグローバルな答えを必要とする
8 宗教 今や神は国家に仕える
9 移民 文化にも良し悪しがあるかもしれない
Ⅲ. 絶望と希望
10 テロ パニックを起こすな
11 戦争 人間の愚かさをけっして過小評価してはならない
12 謙虚さ あなたは世界の中心ではない
13 神 神の名をみだりに唱えてはならない
14 世俗主義 自らの陰の面を認めよ
Ⅳ. 真実
15 無知 あなたは自分で思っているほど多くを知らない
16 正義 私たちの正義感は時代遅れかもしれない
17 ポスト・トゥルース いつまでも消えないフェイクニュースもある
18 SF 未来は映画で目にするものとは違う
Ⅴ. レジリエンス
19 教育 変化だけが唯一不変
20 意味 人生は物語ではない
21 瞑想 ひたすら観察せよ
     

内容

わたしの気になった箇所について記載する。

はじめに

・本書の大半では、自由主義の世界観と民主主義制度の欠点について論じる。それは私が、自由民主主義は比類のないほど多くの問題を抱えていると信じているからではなく、むしろ、現代社会の課題に取り組むためにこれまでに人間が開発した政治モデルのうちで最も出来が良く、融通が利くと考えているからだ。

1(幻滅)

・人間は、事実や数値や方程式ではなく物語の形で物事を考える。そして、その物語は単純であればあるほど良い。

・20紀には、一般大衆は搾取に反抗し、自らが経済で果たしている重要な役割を頼りにして政治的な力を獲得しようとした。今では一般大衆は存在意義の喪失を恐れ、手遅れになる前に、残っている政治的な力を使おうと必死になっている。

・自由主義の崩壊によって残された空白が、過去の局地的な黄金時代にまつわるノスタルジックな夢想によって、とりあえず埋め合わされている結果だ。

2(雇用)

・人間には二種類の能力がある。身体的な能力と認知的な能力だ。…人間がいつまでもしっかりと優位を保ち続けられるような、(身体的な分野と認知的な分野以外の)第三の分野を、私たちは知らない。

・ところで、アルファゼロが一からチェスを学んで、ストックフィッシュとの対戦に備え、天才的な勝負感を発達させるのに、どれだけ時間がかかったか、想像がつくだろうか?答えは、4時間だ。

・新しい仕事が十分な数だけ現れて、失われた仕事を埋め合わせてくれると決め込むのは危険だ。過去に自動化の波が押し寄せるたびに、そうした埋め合わせが起こったからといって、21世紀の非常に異なる状況下でも同じことが起こる保証はまったくないのだ。

・ホモ・サピエンスは満足するようには断じてできていない。人間の幸せは客観的な境遇よりも期待にかかっている。ところが、期待は境遇に適応しがちで、境遇には他の人々の境遇も含まれる。物事が良くなるにつれて期待も膨らみ、その結果、境遇が劇的に改善しても、私たちは前と同じぐらい不満足のままであり得る。

3(自由)

・一つ吉報がある。少なくとも今後数十年間は、AIが意識を獲得して人類を奴隷にしたり一掃したりすることに決めるという、SFのような本格的な悪夢には対処しなくて済みそうだ。私たちはしだいにAIに頼り、自分のために決定を下してもらうようになるだろうが、アルゴリズムが意識的に私たちを操作し始めることはありそうにない。アルゴリズムが意識を持つことはない。

4(平等)

・もし、一握りのエリート層の手に富と権力が集中するのを防ぎたいのなら、データの所有権を統制することが肝心だ。…21世紀の最も重要な資産はデータで、土地と機械はともにすっかり影が薄くなり、政治はデータの流れを支配するための戦いと化すだろう。もしデータがあまりに少数の手に集中すると、人類は異なる種に分かれることになる。

・だから私たちは弁護士や政治家、哲学者、さらには詩人にさえも、この難問、すなわちデータの所有をどう規制するかという問題に注意を向けるよう求めたほうがいい。これこそおそらく、私たちの時代の最も重要な政治的疑問だろう。早々にこの疑問に答えられなければ、私たちの社会政治制度は崩壊しかねない。

5(コミュニティ)

・自分の体や感覚や身体的環境と疎遠になった人々は、疎外感を抱いたり混乱を覚えたりしている可能性が高い。有識者はそのような疎外感を、宗教的な絆や国民の絆の衰退のせいにすることが多いが、自分の体とのかかわりを失うことのほうが、おそらく重大だろう。人類は何百万年にもわたって、教会や国民国家なしで生きてきた。

6(文明)

・イスラム教の真の本質について激しい議論を戦わせても、無意味としか言いようがない。イスラム教には不変のDNAなどない。イスラム教とは、イスラム教徒がどのように考えるか次第なのだ。

7(ナショナリズム)

・世界を国民国家ごとに明確に分割しようとする試みは、これまですべて、戦争と大量虐殺につながった。

・そのようなグローバリズムと愛国心との間には、何の矛盾もない。なぜなら愛国心とは、外国人を憎むことではないからだ。愛国心は同国人の面倒を見ることを意味する。そして21世紀には、同国人の安全と繁栄を守るためには、外国人と協力しなければならない。だから、良きナショナリストは今や、グローバリストであるべきなのだ。

8(宗教)

・宗教は、政治的な力を依然としてたっぷり持っているので、国家としてのアイデンティティを強固なものにできるし、第三次世界大戦を引き起こすことさえ可能だ。だが、21世紀のグローバルな問題を煽り立てるのではなく解決するとなると、宗教が提供するものはほとんどないように見える。

11(戦争)

・悲しいかな、21世紀には戦争が損な企てであり続けたとしても、平和の絶対的な保証にはならない。人間の愚かさは、けっして過小評価するべきではない。人間は個人のレベルでも集団のレベルでも、自滅的なことをやりがちだから。

12(謙虚さ)

・それに対して一神教の信者は、自分の神こそ唯一の神であり、その神が万人に服従を求めていると信じていた。その結果、キリスト教とイスラム教が世界中に広まると、聖戦や宗教裁判や宗教的差別もそれに追随した。

・ユダヤ文化では教育が非常に大切にされていることが、ユダヤ人科学者の並外れた成功の大きな理由だ。他の要因には、少数派として迫害されていたので、自らの価値を証明したいという願望を抱いていたことや、軍隊や国家の行政機関といった、もっと反ユダヤ的な機関では、才能あるユダヤ人の昇進が妨げられていたことなどがある。

13(神)

・科学によってわかっているかぎりでは、こうした神聖な文書はすべて、想像力に富んだホモ・サピエンスによって書かれた。それらは、社会規範や政治構造を正当化するために、私たちの祖先によって創作された物語にすぎない。

・道徳とは、「神の命令に従うこと」ではない。「苦しみを減らすこと」だ。したがって、道徳的に行動するためには、どんな神話も物語も信じる必要はない。苦しみに対する理解を深めさえすればいい。ある行動が自分あるいは他者に無用の苦しみを引き起こすことが理解できれば、その行動を自然と慎むようになる。

14(世俗主義)

・世俗主義の科学には、大半の伝統的宗教よりもずっと有利な点が少なくとも一つある。すなわち、自分の陰の面に恐れをなしておらず、進んで自分の誤りや盲点を認める建前になっていることだ。

15(無知)

・合理性だけではなく個人性というのも神話だ。人間はめったに単独では考えない。

・ホモ・サピエンスが他のあらゆる動物を凌ぎ、地球の主人になれたのは、個人の合理性ではなく、大きな集団でいっしょに考えるという、比類のない能力のおかげだった。

・私たちは、個人として知っていることはごくわずかであるにもかかわらず、多くを知っているつもりでいる。なぜなら私たちは、他者の頭の中にある知識を、まるで自分のもののように扱うからだ。

・巨大な権力は必ず真実を歪めてしまうから、なお悪い。権力とは、現実をありのままに見ることではなく、それを変えることだ。

・もし本当に真実を知りたかったら、権力のブラックホールから脱出して、たっぷり時間を浪費しながら周辺をあちこちうろつき回ってみる必要がある。革命的な知識はめったに中心まで行き着かない。なぜなら、中心は既存の知識の上に築かれているからだ。

16(正義)

・宗教的な信条やイデオロギー上のドグマが、今の科学時代にあっても依然としてとても魅力的なのは、苛立たしいほど複雑な現実からの避難場所を提供してくれるからにほかならない。

17(ポスト・トゥルース)

・したがってニュース市場のモデルとしては、「お金はかかるが、あなたの注意を濫用しない高品質のニュース」のほうが、はるかに優れている。今日の世界では、情報と注意は決定的に重要な資産だ。

・もし何らかの問題が自分にとって格別に重要に思えるのなら、関連した科学文献を読む努力をすることだ。ただし、科学文献といっても、専門家の査読を受けた論文や、名のしれた学術出版社が刊行した書籍や、定評のある大学や機関の教授の著作に限る。科学に限界があることは言うまでもないし、科学は過去に多くのことを取り違えてきた。

18(SF)

・実際、ハクスリーの非凡さは、恐れと暴力ではなく愛と快感を通してのほうが、人をはるかに確実に制御できることを示した点にある。

・脳も「自己」もマトリックスの一部なので、マトリックスから逃げ出すには、自分自身から逃げ出さなければならない。とはいえ、その可能性が本当にあるかどうかは探求に値する。自己の狭い定義を脱することが、21世紀における必須のサバイバルスキルとなってもおかしくない。

19(教育)

・そのような世界では、教師が生徒にさらに情報を与えることほど無用な行為はない。生徒はすでに、とんでもないほどの情報を持っているからだ。人々が必要としているのは、情報ではなく、情報の意味を理解したり、重要なものとそうでないものを見分けたりする能力、そして何より、大量の情報の断片を結びつけて、世の中の状況を幅広く捉える能力だ。

・自分が最もよく知っているものの一部を捨て去ることを繰り返さざるをえず、未知のものにも平然と対応できなくてはならないだろう。

20(意味)

・個人のアイデンティティや社会制度全体がいったん物語の上に築かれると、その物語を疑う行為は想像を絶するものになる。それは、その物語を裏づける証拠があるからではなく、物語が崩れたら、個人と社会の激動が引き起こされるからだ。歴史においては、土台よりも屋根のほうが重要な場合もあるのだ。

・私たちに意味とアイデンティティを提供してくれる物語はすべて虚構だが、人間はそれを信じる必要がある。それでは、どうすれば物語を現実として感じられるようにできるのか?…すでに何千年も前に聖職者やシャーマンがその答えを見つけている。すなわち、儀式だ。

・もし人生の究極の真実を知りたければ、さまざまな儀式は巨大な障害となる。だが孔子のように、もし社会の安定と調和に関心があるのなら、真実は不都合なことが多いのに対して、さまざまな儀式はおおいに役立つ。

・あらゆる儀式のうち、犠牲を払う行為が最も強力だ。なぜなら、この世界のいっさいのもののうちでも、苦しみこそが最も現実味があるからだ。

・私たちは何時間も目を閉じたままじっと座っていられるが、頭の中ではひっきりなしに物語やアイデンティティを生み出し、戦い、勝利を収めている。本当に何もしないというのは、心も何もせず、何も生み出さないことを意味する。

・というわけで、もしこの世界や人生の意味や自分自身のアイデンティティについての真実を知りたければ、まず苦しみに注意を向け、それが何かを調べるにかぎる。その答えは物語ではない。

21(瞑想)

・私が気づいたうちで最も重要なのは、自分の苦しみの最も深い源泉は自分自身の心のパターンにあるということだった。何かを望み、それが実現しなかったとき、私の心は苦しみを生み出すことで反応する。苦しみは外の世界の客観的な状況ではない。それは、私自身の心によって生み出された精神的な反応だ。これを学ぶことが、さらなる苦しみを生み出すのをやめるための最初のステップとなる。

コメント

ページ数多くて、内容も所々で難解に思えるところもあるが、やはり内容は面白いし、知的好奇心をくすぐられる。

「激動の時代だ」と言われるのはどの時代でもそうなのだろうが、コロナやウクライナ戦争を目の当たりにすると、今の時代こそ「激動の時代」とついつい思ってしまう。(リーマンショックのときやクリミヤ侵攻のときも同じように思われていたのだろうけど)

自分としては特に「宗教的な信条やイデオロギー上のドグマが、今の科学時代にあっても依然としてとても魅力的なのは、苛立たしいほど複雑な現実からの避難場所を提供してくれるからにほかならない」という文言に膝を打った。

オウム真理教事件において、何故あれだけ優秀な人々が信者となったのか。その理由として「わかりやすい世界観」が挙げられていた。

現実世界ではわかりやすく数字を出した人が勝つわけでもないし、人間関係など数値化のしようもない。

さらにはテクノロジーの進歩で情報だけは膨大に増え続け、それによって現実の事象の変動要因は幾何級数的に増えていく。

そんな複雑な世界にあって、すべての要因を吟味することも到底無理な話であり、そうした状況はストレスが溜まる。

そんなときに「わかりやすい世界観」を提示されれば、それが魅力的に見えてしまうのは当然ともいえる。

これは自分のこととして置き換えてみても納得してしまう。

何かわかりやすい基準や数値、そういった客観的な指標によって構成されている世界に魅力を感じることがある。

もちろんそんな「わかりやすい世界観」に入っていけば、それは現実から乖離している可能性が極めて高いため、その世界に入り浸ることで何かしらの問題が顕在化してくることが予想されるので、自分としては回避せねばとは思っている。

それでもこの不安感が付きまとう世の中で、そういった藁にもすがりたくなるのも妙に納得してしまう。

この書籍に中ではそういった虚構としての物語ではなく、真実を追うために必要な行為態度も語られているので、自分はそれを参照点として日々動いていくしかない。

なかなか一回で内容すべてを理解できないかもしれないが、まだ読まれていない方は読んでみると、何かしら刺さる部分はあるはず。

一言学び

宗教的な信条やイデオロギー上のドグマが、今の科学時代にあっても依然としてとても魅力的なのは、苛立たしいほど複雑な現実からの避難場所を提供してくれるからにほかならない。

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