読書レビュー:『ストーリーとしての競争戦略』(楠木建)

読書

読みたいと思ったきっかけ

経営学に関する特集などで紹介されることが多く、ずっと読みたいと思っていたのだが、その分厚さや値段、また出版されてから年数も経過していたこともあってずっと買うのを見送っていた。

しかしながら、たまたま出張先で入ったブックオフにこの本が210円で置かれていたのを発見し、購入したのがきっかけで読み始めた。

内容

目次

目次は以下のとおりとなっている。

まえがき    
第1章 戦略は「ストーリー」
第2章 競争戦略の基本論理
第3章 静止画から動画へ
第4章 始まりはコンセプト
第5章 「キラーパス」を組み込む
第6章 戦略ストーリーを読解する
第7章 戦略ストーリーの「骨法10ヵ条」

内容

わたしの気になった箇所について記載する。

まえがき

・この本のメッセージを一言でいえば、優れた戦略とは思わず人に話したくなるような面白いストーリーだ、ということです。

第1章(戦略は「ストーリー」)

・誰にとっても自明の話は聞いていて耳に心地よく響くのですが、意味がないことには変わりありません。

・「違いをつくって、つなげる」、一言でいうとこれが戦略の本質です。

・テンプレート戦略論やベストプラクティス戦略論の主たるユーザーは、実際のところ、経営者というよりも経営企画部門などの「戦略スタッフ」であることが多い。彼らの仕事は戦略構想そのものではなく、戦略を構想する人(経営者や事業部門長などのジェネラル・マネジャー)が必要とする情報の整理や分析です。

・戦略の実行にとって大切なのは、数字よりも筋の良いストーリーです。

・優れた戦略思考を身につけるために最も大切なこと、それは戦略をつくるという仕事を面白いと思うかどうかです。戦略づくりを面白いと思えれば、その時点で問題の半分は解決したも同然です。

第2章(競争戦略の基本論理)

・全社戦略と競争戦略は、もちろん相互に関係していますが、大きく性格が異なります。…戦略を考えるときは、この戦略のレベルの違いを意識し、両者を混同しないことが大切です。

・逆にいえば、第一の利益の源泉である業界の競争構造がそれほど魅力的でなくても、第二の利益の源泉である戦略で勝負できれば、持続的な利益を獲得しうるということです。

・逆説的な話ですが、業界の競争構造という考え方は、競争ではなく、むしろ「無競争」に注目しています。競争があるという前提で競争に勝つ、というよりも、正面から競争をしなくても済むような位置取りを見つけようという考え方です。平たくいえば「うまいこと儲かるところに身を置こう」という発想です。

・他社がそう簡単にはまねできない経営資源とは何でしょうか。組織に定着している「ルーティン」だというのが結論です。ルーティンとは、あっさりいえば「物事のやり方」(ways of doing things)です。さまざまな日常業務の背景にある、その会社に固有の「やり方」がOC(Organizational Capability)の正体であることが多いのです。

第3章(静止画から動画へ)

・戦略ストーリーの5C:①競争優位(Competitive Advantage)、②コンセプト(Concept)、③構成要素(Components)、④クリティカル・コア(Critical Core)、⑤一貫性(Consistency)

・繰り返し強調しますが、戦略ストーリーは終わりから組み立てていくべきものです。起承転結の「結」をまずはっきりイメージすることが先決です。

・他社が実践している立派な経営手法はたくさんある。しかし、それにしても自分で考え、独自の経営を編み出したから強くなったのであって、それをまねしても会社として成長しない。だから私たちも自分で考えることにした。(アルバック中村久三会長)

・競争優位の正体がストーリー全体の一貫性、筋の良さにある以上、時間をかけてでも独自のストーリーを追求する姿勢が大切です。

第4章(始まりはコンセプト)

・従来のビジネスの領域を超えたユニークなストーリーをつくるためには、その起点に普遍的で大きなコンセプトがあるかどうかが決定的に重要です。

・誰に嫌われるかを意図する。これが筋の良いコンセプトを描くための最も効果的な入口であるというのが私の考えです。

・コンセプトは人間の本姓を捉えるものでなくてはならない。

・人間の本姓を捉えた骨太のコンセプトをつくるためには、その製品やサービスを本当に必要とするのは誰か、どのように利用し、なぜ喜び、なぜ満足を感じるのか、こうした顧客価値の細部についてのリアリティを突き詰めることが何よりも大切です。

第5章(「キラーパス」を組み込む)

・「それだけでは一見して非合理だけれども、ストーリー全体の文脈に位置づけると強力な合理性を持っている」という二面性、ここにこそクリティカル・コアの本質があります。

第6章(戦略ストーリーを読解する)
第7章(戦略ストーリーの「骨法10ヵ条」)

・「言われたら確実にそそられるけれども、言われるまでは誰も気づいていない」、これが最高のコンセプトです。

・戦略ストーリーが意図する強みは、個別の打ち手の中にはありません。打ち手をつなげていく因果論理の一貫性こそが競争優位の源泉なのです。

・戦略ストーリーを考えるときは、いつも頭の中に時間軸がなければなりません。要するに、物事が起こる順序にこだわるということです。

・全面書き換えがきわめて難しい以上、ビジネスは一つのストーリーと心中する覚悟を持つべきだ。、というのが私の考えです。

・最新のベストプラクティスを知ったところで、しょせんはそのケースの文脈に埋め込まれた断片的要素にすぎません。ファクトのつながりにまで踏み込んだストーリー理解し、そこから戦略思考の支えとなる重要な論理をつかむ。これがケース・ディスカッションの本来の目的です。

・サッカーと同様に、ビジネスも総力戦です。「何を」「どのように」も大切ですが、それ以前に「なぜ」についての全員の深い理解がなくては実行にかかわる人びとのモチベーションは維持できませんし、総力戦にはなりえません。

・戦略ストーリーの伝達はリーダーにとって非常に手間のかかる仕事です。…ストーリーを丸ごと伝達するためには、リーダー自らがそのストーリーを直接語ってみせるしかないのです。

・戦略ストーリーにとって切実なものとは何か。煎じ詰めれば、それは「自分以外の誰かのためになる」ということだと思います。

コメント

わたし自身は経営学を体系的に学習したわけでもないので、そこまで経営学に詳しくないのだが、経営学の本は多くの実際の企業事例が載っていることもあって理解しやすく感じることが多い。

この本の中ではマブチモーターやサウスウエスト航空、ガリバーなどの事例が記載されており、それを読むだけでも「ストーリー」として純粋に面白い。

わたしは以下の2点で気付きがあった。

差別化の文脈依存性

差別化しろ、というのは会社でも個人でも良く言われることだが、結局だれもがトレースできる合理的で論理的な差別化は時間が経てばすぐに他社・他者に真似されることになる。

本書にある通りトップランナーのベストプラクティスを真似したところで、その方策はその会社の置かれた唯一無二の文脈のなかでこそ活きているという事実を、人は往々にして見逃しがちだと思う。

わたしは会社を経営する立場にもなく、会社の経営企画にも所属していないのだが、個人レベルでもそう感じる。

「有名なあの人がこの方法で成功した」という方法論や勉強法などが各方面で取り上げられ、それを多くの人が真似してみても同じように成功する事例が少なく見えるのは、それがその人独自の文脈があり、その文脈に埋め込まれて初めて他の歯車も回し始める、ということをついつい無視してしまうからだろう。

何かを他社・他者の方策を導入するにしても自分の背景・環境のなかでそれが活きるかをどうかを確認し、必要であればそれにマッチするように修正したうえで導入しなければならない。

この言われれば当たり前のことを案外見過ごしてしまう。何も考えずに他で成功しているからという理由だけで猿真似することを避けることが重要だと感じた。

「なぜ」を共有することの意味

もう一つこの本を読んでいて思ったのが、「なぜ」を共有することの重要性だ。

いくら立派な戦略や方法を思いついても、それを「なぜ」実行するのかが組織のメンバーで共有されていなければモチベーションは維持できない。

会社でいえば組織の経営者や管理職のトップ層がいくら方策を声高に叫んでも、そこに納得のいく理由がなければ、わたしのような組織の末端は付いていくモチベーションが湧くはずない。

だからこそ、この本では「リーダー自らがそのストーリーを直接語ってみせるしかない」と述べられている。

「なぜ」の伝達自体が価値判断を含む主観的な側面を含むからこそ、「直接に語ることによる動機付け」という必ずしも合理的でない方法を取らざるを得ないのだろう。(「なぜ」が完全に論理的で合理的であれば資料共有でも十分に中身は伝わるはず。「なぜ」に価値観が含まれるからこそ、そこに賛同するようなオルグが必要になる)

まとめ

500ページを超える著作なので、1回読んだだけで完全に理解できたわけではないが、上記含め示唆に富む内容が多くあった。やはり評判になるだけのことはある。

今後も何回か読むたびに新たな発見がありそうな本に感じるので、暇を見つけて読み返したい。

一言学び

一見して非合理だけれども、ストーリー全体の文脈に位置づけると強力な合理性を持っている


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