読みたいと思ったきっかけ
たまたま本屋で見かけたのがきっかけで購入した。
当然ながら山口周氏の対談本なので、著者買いに近い部分はある。
内容
目次
目次は以下のとおりとなっている。
はじめに | : | アフターコロナの世界を生きるためのコンパス |
第1章 | : | 夢中になれる仕事を見つけられない日本の社会システムとは?(北野唯我) |
第2章 | : | 「資本主義はもうダメだ」では社会は変わらない。「すきま」を埋める言葉を(近内悠太) |
第3章 | : | 五感から情報化するために人間は「ノイズ」を求める(養老孟司) |
第4章 | : | タンザニア商人に学ぶ制度や組織に頼らない生き方(小川さやか) |
第5章 | : | 生物的な仕組みの理解なしに資本主義は成り立たない(高橋祥子) |
第6章 | : | 毎月7万円のベーシックインカムが日本の閉塞感を打ち破る(井上智洋) |
第7章 | : | ゆるやかに今を楽しむライフスタイルが徐々に広がっていく(広井良典) |
この本はいわゆる対談本で、各分野で著名な方と山口周氏が対談した内容がまとめられている。
内容
わたしの気になった箇所について記載する。
はじめに(アフターコロナの世界を生きるためのコンパス)
・「どこに住むか?」というのは人生の風景を決めるもっとも重大な意思決定ですが、この意思決定は、その前に置かれる「どの会社で働くか?」によってほぼ規定されてしまっていたわけです。
・人間の幸福感には人それぞれの個性が思いっきり反映されますので、この「幸福感受性」を回復させた社会では、必然的に「ライフスタイルの多様化」が発生することになります。それは、いろんな「生き方」が認められ、誰もがそれをお互いに尊重しながら生きている社会です。
第1章(北野唯我)
・アイコン化しているビジネスリーダー自身は彼らの個性で戦っているわけだから、別に悪いことをしている訳じゃない。「グルを見つけないと前に進めない」という人が多いことが、今の時代の難しさということになるのかな。(山口)
・消費には①メガ消費、②インフラ消費、③コミュニティ型消費があるけど、コミュニティ型というのは、いわばエモーショナルで互助的につながっているから強い。地方のバーみたいなビジネスのことです。HRはコミュニティ型ビジネスにすごく近い。GAFAより収益率は低いけど、この領域を押さえるのは、生存戦略としてはありだなと思っています。(北野)
・例えば、賃貸に対して国が補助を出すなどして持ち家の比率を下げるのも一つの策。…ともかく住宅ローンでロックインされる仕組みは何とかすべき。(山口)
・人間が作ったものは情報量が少ない。そもそも自然が持つ情報量の多さを人間が作ったものの中にどう入れ込めるかという営みそのものが、アートの本質ですしね。(山口)
第2章(近内悠太)
・近内さんが言っている「もうお礼はできない」という時制のズレ、気づきの遅れのある贈与。こういう贈与はものすごくエモーショナルで、こうした贈与に人は強く突き動かされる。(山口)
・大事なのは、受け取っていたこと、贈与に気づくという能力は万人に等しく与えられているということ。今、自分は与えられていないと思っている人が多くて、それがいろいろな分断を生んでいる。「私は受け取っていない」と思ったり、言ったりしがちですが、「でも何かは受け取った経験があるんじゃないか」と。そこに気づくことだけは誰にでもできるはずです。その気づきで社会が良くなっていくんじゃないかと思うんです。(近内)
・「助けてください」と、いかに言えるようになるかですね。これ、リーダーシップ論でもよく言われるんですけど、実はリーダーであればあるほど適切な時に「助けてください」と言えるんですよ。(山口)
第3章(養老孟司)
・若い社員も仕事の報告をメールするでしょう。上司の顔を見たくないんです。これはとうの昔に医学で起こったことです。患者さんの顔を見ずにカルテを見る。ノイズを削ぎ落とすんですね。田舎に行くとノイズが中心になる。AI化されていない、データ化されていない情報が入るようになります。(養老)
・本屋に行くと「どうやったら頭が良くなるか」「上手に伝えられるか」という本がたくさんあります。「入力・情報処理・出力」というプロセスの中で、情報処理や出力についてはたくさんのハウツー本がありますが、入力についての本はほとんどない。あっても速読術の本ですが、本は二次情報です。本来は、身体や五感を使って世界と向き合って、何かを読み取ることが入力ですが、その部分がごっそり抜け落ちています。(山口)
・五感から入ってくる感覚の大切さを親自身が知らなければ、役に立つと思うものだけ子どもにやらせる。教育は本来、事後的なものだと覆います。何の役に立つかよくわからないけれども、子どものセンス・オブ・ワンダーが刺激されることをやって、50年経って、あれが良かったのかもしれないなという。(山口)
・この間、タクシーに載ったら、運転手さんが「私なんか団塊の世代の後始末して生きてきたようなもんですよ」と言っていました。明治維新もそうでしたが、時代が大きく動くと、後始末が非常に大変です。誰かが後始末をして、まともに戻していかなければいけない。だから後始末の世代というのがあるんじゃないですか。(養老)
・いきなり放り出されて「どういう風に生きたいのか考えなさい」って。考える力のあるなしで人生のクオリティが変わってしまうわけですよね。(山口)
・(先生にとっては、虫の世界、虫との時間が非常に大事だと)正気を保つのに最も重要ですね。最近、猫が死んだんでね。猫も大事だったんですけど。役に立つわけでもないのに、あれでも生きている。いま猫を飼っている人が多いでしょう。みなさん、どっかで人間の世の中が嫌なんじゃないですか。(養老)
第4章(小川さやか)
・コネの語源であるコネクションという言葉は、紐帯、人のつながりという意味です。そもそもそれは否定すべきものなのか。コネを用いた利権の私物化はネガティブに受け止められますが、そうしたものが完全に排除されたクリーンでフェアな社会が本当に生きやすい社会なのか、という問いもあります。(山口)
・社会から偶有性があまりにも失われた結果、不確実性が商売になる時代です。パチンコ産業は20兆円市場ですが、20兆円でみんなが買っているのは不確実性です。生物がこれだけ広いエリアに拡散したのは、不確実性に適応したからですし、人間はある種の不確実性を食べて暮らしていて、偶有性がなければ生きていけない。(山口)
・ジェームズ・スコットは『実践 日々のアナキズムー世界に抗う土着の秩序の作り方』の中で遵法ストライキについて書いています。パリのタクシー運転手たちが交通ルールを完璧に守るというストライキで、それをした途端、交通麻痺が起こる(笑)。(小川)
・人生とは不確実なもので、努力が必ずしも報われるとは限らないし、予測できないこともたくさんある。だからこそ面白いし、他人を受け入れ、自分が受け入れられる余地もある。そんな価値観に見を投じることができたら生きやすい世界になるのではないでしょうか。(小川)
第5章(高橋祥子)
・大災害や大病は滅多にあることではないですが、留学や転職でもいい、カオスな環境、言い換えるなら、なるべく想像可能性が低いところに身を置いた方が自分の課題は見つかりやすい。(高橋)
・世間一般の常識から外れると、「自分にはそんな勇気はありません」と言う人が少なからずいますが、それを勇気の問題にするのは、逃げずに偉業を成し遂げた人の努力や才能を軽んじることだと思います。(山口)
・何かの本を読んで、いきなり情熱が芽生えたということはあり得ない。情熱が湧くとは、生物学的にはドーパミンが放出されている状態だと思いますが、身体を動かすことでドーパミンは放出されます。情熱があって動くのではなく、まず体を動かして、行動してみて、初めて情熱が芽生えるのだと思います。(高橋)
・やりたいことが見つからない人は、移動距離が短いのだと思います。物理的な移動距離と精神的な移動距離の両方がありますが、喜怒哀楽の感情が駆動して、初めてセレンディピティが生まれる。…移動距離の総和が短いと、きっかけに出会うことも少なくなってしまう。慣れ親しんだ環境から飛び出して、馴染みのない存在に出会う機会をつくり続けることで、結果的にやりたいことに巡り会えるのだと思います。(山口)
第6章(井上智洋)
・経済学という学問は、基本的に工業モデルを前提としています。情報化がもたらすさまざまな問題に、経済学者は工業化時代に発展したこのモデルを当てはめようとしますが、アップデートも必要です。(井上)
・どんな領域でも、新規性はやがて取り尽くされます。私は経済学の用語を借りて「取り尽くし効果」と呼んでいます。ゴダール以降、新しい映画は生まれていないという人もいるように、さまざまな芸術のジャンルで同じことが起きている。(井上)
・今の日本を見ていて暗い気持ちになるのは、会社を辞めたいと言いながら、仕方なくしがみついて生きている人があまりに多いことです。私の知り合いにもいます。人生の長い時間を費やす仕事がつまらなければ、人生そのものがつまらなくなってしまいます。(井上)
第7章(広井良典)
・労働時間が減り、自由と閑暇を有意義に使うには、社会に蓄積された文化資本の多寡が問われます。かつてイギリスの裕福な貴族の子弟は、学業を修めるとグランドツアーという長い旅に出ました。アダム・スミスやトマス・ホッブズのような知識人が家庭教師として同行し、各国を周遊して見聞を深める。圧倒的な文化資本の蓄積があってこそ、閑暇を味わうことが快楽になります。(山口)
コメント
この本の分量自体がそこまで多くないこともあるが、対談本はすらすらと読み進めることができる。
やはり山口周氏の本はとても面白く、示唆に富む。
今回は対談相手の方も色々なバックグラウンドを持つ人が選ばれており、それぞれの独自視点や考えが述べられていて様々な角度からの意見・考えを知ることができる。
基本的にはアフターコロナの世界をどうしていくべきか、どう考え、どのように行動し、どう生き抜いていくべきかというのがこの本の大きなテーマとなっている。
コロナで世界が大きく変わったというのは皆が思っていることであるし、多くの識者も述べている。
そうしたなかで田舎の話や、贈与の話など、コネ社会など、かつては前近代的だと否定的に考えられていたことが、実はアフターコロナの社会には有益なのではという視点は、今まさに再度考えるべきことであるように感じる。
もっともこういった揺り戻し的な考えはどの時代でも主張される話でもあるので、そこは割り引いて考えないといけないとは思うが。
個人的には第5章の高橋祥子氏との対談で「体を動かして行動してこそ情熱が生まれる」と述べられていることが強く印象に残った。
行動しないと何も起きないのは当然わかってはいるが、わたしのように消極的な人物はついつい「情熱が欠けているから行動できない」と考えがちなので、この文言は胸に刻まねばならない。
とりあえずやってみないと始まらないので、何でもいいのですぐに行動に移さねば。
少し脇道に逸れてしまったが、どの対談も得るところがあるし、そこまで分量もなく気軽に読めるので是非読むことを薦めたい。
一言学び
行動してみて、初めて情熱が芽生える。
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