読書レビュー:『賢い人がなぜ決断を誤るのか? 』(オリヴィエ・シボニー)

読書

読みたいと思ったきっかけ

本屋で平積みされていたのを見つけたのがきっかけ。

ミーハーながらダニエル・カーネマンが絶賛と帯に書いてあったことも購入を後押しした。

内容

目次

目次は以下のとおりとなっている。

 

イントロダクション あなたはとんでもないミスを犯そうとしている
第1部 九つのトラップ
第1章 できすぎた話→ストーリーテリング・トラップ
第2章 スティーブ・ジョブズはかくも天才だった→模倣トラップ
第3章 どこかで見た覚えがある→直観トラップ
第4章 とにかく突き進め→自信過剰トラップ
第5章 なぜ、波風を立てるのか?→惰性トラップ
第6章 君にはリスクを取ってほしい→リスク認知トラップ
第7章 : 長期的に考えるのはずっと先にしよう→時間軸トラップ
第8章 誰もがそうしている→集団思考トラップ
第9章 私利私欲のためではない→利益相反トラップ
第2部 意思決定の方法を決める
第10章 あまりに人間らしい→認知バイアスは諸悪の根源か?
第11章 戦闘に負け、戦争に勝つ→自らのバイアスを克服できるか?
第12章 失敗が許されない時→協同とプロセス
第13章 よい判断とは、正しい方法で下された判断→「予言ダコ」のパウルは優れた意思決定者か?
第3部 意思決定アーキテクト
第14章 対話→多様な視点を持つ
第15章 意見の相違→異なる角度から物事を見る
第16章 組織の力学→意思決定のプロセスと文化を変える
おわりに あなたは素晴らしい意思決定を下そうとしている

前半でいわゆる認知バイアスの事例を紹介して、それを踏まえてどうやって対策するか、特にチームでの対策方法について後半で記載されている。

内容

わたしの気になった箇所について記載する。

イントロダクション

・戦略的差別化の研究者がずいぶん昔に理論化したように、成功した戦略はそれぞれ独自の方法で成功に行き着くが、戦略が失敗するパターンは、すべて似ている。

・優れた偉大なリーダーが、失敗に終わることが予測できたはずの悪い意思決定を下しているのだ。

第1章(できすぎた話)

・事実から誤った結論を引き出すこともある。ファクトチェックとストーリーの検証は別物だ。

・私たちは、自分の意見の裏づけになる情報は無批判に受け入れるが、持論と対立する情報に対しては無視しようとする。

・知性では確証バイアスを防げないのだ。

・あらゆる大惨事を個人のミスのせいにすれば、大いに気が休まる。なぜなら、仮に自分がその立場になっても、同じ失敗はしないと考えることができるからだ。

・私たちは、どんなに「客観的」になろうとしても、事実と数字の解釈はバイアスの影響を受ける。無意識のうちに確認しようとしているストーリーのプリズムを通してしか、それらを見ることができない。

第2章(スティーブ・ジョブズはかくも天才だった)

・結局のところ、私たちはすぐ利用できる情報(身長や外見)を使うことで、はるかに難しい評価(リーダーシップの能力やスキルなどの評価)を省略しようとする。

・英雄と自分を重ね合わせたい欲望を抑え、世界中の人が憧れる数少ない偉人ではなく、華々しい成功を収めてはいないが自分によく似た意思決定者から学ぶほうが、恩恵を得られるだろう。

第3章(どこかで見た覚えがある)

・直観は、すでに経験済みの状況の中から現状に合うようにすばやく選び出された状況がベースになっている(その経験から教訓を得ているとは限らない)。

第4章(とにかく突き進め)

・私たちは、他者より自分を高く評価しがちだ。つまり、自信過剰なのである。簡単に言えば、様々な種類の重要な能力に関して、自分は大部分の人より優れていると誰もが思っている。

・「戦略の実習で経営者が学ばなくてはならないことの半分は、突き詰めれば、人に言われなくても競合企業のことを考えなさい、ということだ」。

第5章(なぜ、波風を立てるのか?)

・私たちは、アンカーの数字を懸命に無視しようとしても、その影響を受け続ける。

・新しい資源を投入するかどうかを決める際には、取り戻せない過去の損失や出費、人名を考慮すべきではない。

・サンクコストを惜しむ気持ちと将来の計画に対する自信過剰という奇妙な組み合わせが、戦いを非常に難しくしているのだ。

第6章(君にはリスクを取ってほしい)

・過剰なリスク回避は、不合理な楽観主義と同じくらい有害であり、実際に問題を引き起こす。

・私たちは事故や失敗について説明しようとする時、後知恵バイアスの影響を受けやすい。

・不可能なことにチャレンジするのは間違っている。成功することはまれだ。しかし、自分のリスク回避傾向を克服し、困難でリスクのある課題に繰り返し挑戦するのは、自分がそれを自覚している限り賢明なことと言える。

第7章(長期的に考えるのはずっと先にしよう)

・私たちは我慢強い……ただし、今すぐその我慢を求められるのでなければ!

第9章(私利私欲のためではない)

・すべての経営者や経営幹部が、どんな状況でも常に自分の利益のために行動すると考えるのは、あまりにも単純すぎるといえる。

・金銭的動機があってもなくても、感情的な愛着(仲間、ブランド、職場など)もまた、意思決定に影響を与えることがある。

・自分の利益を排除できない場合は、どんなに努力しても、その利益が判断を偏らせることから逃れられない。

第10章(あまりに人間らしい)

・意思決定の失敗の多くは、性急さと不注意の産物だ。…要するに、バイアスの数は非常に多いが、間違う要因は、バイアスのほかにいくらでもある。

・過去の意思決定についてバイアスを探す時には、それが単独のエピソードなのか、それとも典型例なのかを見極める必要がある。

・他人のバイアスを利用するのと、自分のバイアスにうまく対処して自らの意思決定を改善するのは、まったく別の話だ。

第11章(戦闘に負け、戦争に勝つ)

・バイアスの自覚が難しいことは、個人の意思決定からバイアスを取り除こうとする介入策がほとんど成功しない理由の説明にもなる。

・最初にチームとプロセスにフォーカスすることが、よりよい意思決定につながる。

第12章(失敗が許されない時)

・事故が発生すると、宇宙飛行士は何よりも事前に決められたプロセスに頼る。自らの直観を過信しがちな私たちは、宇宙飛行士の謙虚さに学ぶべきだ。

・優れた意思決定の恩恵を受けている時の私たちは、協働とプロセスとそれらの原則を具現化するツールの価値を認めているが、自分が意思決定者の立場になると、その価値を認めようとせず、規律を押し付けられるのを嫌う。

・ほとんどの企業は、製品の品質を確保するための厳格なプロセスを持っているが、戦略的意思決定をする際に、同様の厳密な基準を用いる企業はほとんどない。

第13章(よい判断とは、正しい方法で下された判断)

・自分が評価されるのは、生存者バイアスの恩恵だと認める人は、めったにいない…結果のよし悪しで意思決定を評価しようとすると、偶然の影響を過小評価しがち

・意思決定が導いた結果は、最初の意思決定だけがもたらしたものではないということだ。それは、運・不運、リスクのとり方や実行のよし悪しの結果でもある。

・コントロールできない要素を除外して計算し直すと、「協働とプロセスの質」は「分析の質」の6倍も投資リターンに影響する。つまり、意思決定に関して、「How」は「What」より6倍も重要なのだ。

・決められた明確な基準がなければ、意思決定者の推論とデータの選択は、その人が出したいと思っている結論によって決まる。

・もし、意思決定の質を改善したいのなら、プロセスの改善から始めるべき、ということだ。

・バイアスは個人に起きるが、それへの対策は、ほとんどの場合、集団に向けたものだ。

第14章(対話)

・よい決断を下すには、多少の衝突や不快感が必要ということだ。しかし、多くの企業は、不快感を恐れて、対立を避けようとしている。

・簡単に言えば、メモを書くのは非常に難しいからだ!パワーポイントのスライドと優れたメモの違いは、単なる書式の問題ではない。優れたメモを書くには、時間と努力とかなりの技術が求められる。

・特に気をつけるべきは、「たとえ話」だ。それが始まると途端に、聞いている者はストーリーテリング・トラップに誘い込まれる。

・アインシュタインが語った有名な原則はこうだ。「物事はできるだけシンプルにすべきだが、シンプルすぎてもいけない」。

・人は将来起きそうなことを予想するより、過去に起きたことを説明するほうが、はるかにうまい。

第15章(意見の相違)

・現状に挑むことをデフォルトの選択肢にするには、それを当たり前のルーティンにしなければならない。

・情報量が少ないほど精度が上がるのは、確証バイアスや過度の楽観主義が抑制されるからだ。

・スーパー予測者の顕著な特徴は、新しい情報に反応して自分の考えを更新する姿勢と、ベイズ流のテクニックで自分の考えを修正し、過剰反応と過小反応の両方を回避する高い能力だ。

第16章(組織の力学)

・起業家と大企業の経営者を区別するのは、リスクの量ではなく、リスク管理の俊敏性だ。

・ここではっきりさせておきたいのは、失敗する権利はミスを犯す権利ではないことだ。

おわりに

・(「いったん決定されたら、(中略)全力でそれに取り組む」とは)丁寧に対話を重ね、意見の違いを歓迎し、成功を冷静に確率的に考える人が、いったん意思決定を下されたら、それが自分の考えと違っていても、意義や疑念を心から追い出して熱心な応援団になる、ということだ。

コメント

最近は心理学、特に認知バイアスに関する書籍が多く書店にも並んでいる印象がある。

この本もその流れに沿ったものだと思うが、内容としてはとても面白く感じた。

特に前半の第1部に記載されている9つのトラップについては、どういった認知バイアスがあるのかを具体的な事例を混じえながらわかりやすく書いている。

この本は翻訳本である。たまに翻訳本はとても読むづらく感じたりすることがある。

内容によるものか、翻訳の質か、はたまた本の紙面構成や体裁によるものなのかわからないが・・・。

その点、この本は非常に読みやすく、ぐいぐい読み進めることができた。

「知性では確証バイアスを防げない」とあるとおり、結局どれだけ認知バイアスについて詳しくなったとしても、その影響から完全に抜け出して思考したり、行動したりすることはできない。

そしてそういった認知バイアスへの対策としても個人では限界があるので、組織・チームとして対策を講じる、というのがこの本のスタンスとなっている。

自分が役職に就いていたり、起業して社長だったりしたら、こういった具体的な対策も実行できるかもしれないが、現状平社員である自分では組織的な協働やプロセスの改善を実行していくには限界がある、と読んでいて感じたのが正直なところ。

ただ、上述のとおり前半部分は個人としても参考になるし、後半についてもどういう組織であれば良い意思決定をできるかについて考察されていて、いずれは参考になる可能性も高いので、読んでいて損はないと思う。

何より読みやすいく感じたのは再度強調したいところ。

自分はもう一度読んで認知バイアスのトラップを復習したい。

一言学び

知性では確証バイアスを防げない。


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