読書レビュー:『科学的根拠(エビデンス)で子育て 教育経済学の最前線』(中室牧子)

読書

読みたいと思ったきっかけ

子どもを持つ身としてはやはり気になるトピック。エビデンスベースというワードがまた関心を向けさせる。


内容

目次

目次は以下のとおりとなっている。

 

はじめに 子育てにかかるお金はどんどん高くなっている
第1章 将来の収入を上げるために、子どもの頃に何をすべきなのか?
第2章 学力テストでは測れない「非認知能力」とは何なのか?
第3章 非認知能力はどうしたら伸ばせるのか?
第4章 親は子育てに時間を割くべきなのか?
第5章 勉強できない子をできる子に変えられるのか?
第6章 「第1志望のビリ」と「第2志望の1位」、どちらが有利なのか?
第7章 別学と共学、どちらがいいのか?
第8章 男子と女子は何が違うのか?
第9章 日本の教育政策は間違っているのか?
第10章 エビデンスはいつも必ず正しいのか?

内容

わたしの気になった箇所について記載する。

はじめに(子育てにかかるお金はどんどん高くなっている)

■教育や子育てに関する情報に触れるときにも同じことが生じ得ます。多くのお金や時間をかけて子育てに成功した人の話に耳を傾けるだけでは、まったく同じことをしていたのに失敗した人や、あまりお金や時間をかけなかったのに成功した人の話を知ることはできないからです。

第1章(将来の収入を上げるために、子どもの頃に何をすべきなのか?)

※特になし

第2章(学力テストでは測れない「非認知能力」とは何なのか?)

■ヘックマン教授は、困難な状況にある子どもたちを救済しようと考えるのであれば、なるべく早期に、特に非認知能力を高めるような教育投資を行うべきであると主張しています。

第3章(非認知能力はどうしたら伸ばせるのか?)

■1つ目は、教員は、子どもの学力よりも、非認知能力に対して大きな影響を与えているということです。2つ目は、海外の研究と比較すると、日本の教員が子どもの学力に与える影響は小さいということです。

■成長マインドセットとは「努力することで自分の能力を向上させることができると信じること」です。スタンフォード大学の心理学者、キャロル・ドゥエック教授が提唱したことで知られます。成長マインドセットを持つ人は、仮に失敗したとしてもめげずに、粘り強く取り組む傾向があることがわかっています。

第4章(親は子育てに時間を割くべきなのか?)

■一連の研究を大雑把にまとめてみると、子どもの年齢が小さいときの親の時間投資は特に効果が大きいと言えそうですが、その重要性は、子どもの成長とともに低下していき、子ども自身の時間投資の重要性が増していくということになります。また、子どもの年齢が上がってくると、今度はお金による投資が意味を持つようになってくるというのも重要な点でしょう。

■このように、生まれ月の影響は広範にわたるため、多くの先進国では、早生まれの子どもが保育所や幼稚園、小学校の入学時期を1年遅らせることができるようになっています。アメリカでは約10%の子どもが入学年齢を1年遅らせており、特に経済的に恵まれた家庭の親がこうした選択をしていることが知られています。

第5章(勉強できない子をできる子に変えられるのか?)

■そして、やはり目標を立てることが成績や単位取得にプラスの効果があることが確認されました。加えて、現在バイアスによって日頃から何事も先延ばしにする傾向のある学生ほど、目標を立てることの効果が大きいこともわかったのです。

■2つの実験の結果を大雑把にまとめてみると、習慣化のためには、(1)何かを始めるときに感じる初期の抵抗感を和らげ、取り掛かるきっかけを作ること、(2)繰り返すこと、の2つを同時に行うことが重要だとわかります。

■このため、金銭的なインセンティブを習慣形成につなげるためには、「今はまだその習慣が身に付いていない人」を対象にするのがよいでしょう。

第6章(「第1志望のビリ」と「第2志望の1位」、どちらが有利なのか?)

■これらの発見はきわめて重要です。どのような学校に進学することになろうとも、結局、子どもたちは、自分で自分の友人を選びます。親がどんなに「優秀な友人と交流し、良い影響を受けてほしい」と願ったとしても、当の子どもたちは、共通点の多い友人、自分と能力の近い友人を選んでいるというわけです。まさに「類は友を呼ぶ」というわけです。

■このことから、入学後最初の学力テストで下位になった生徒が「深海魚」になってしまうのは、自分の順位が低いことで、自分に対する自を失い、努力することをやめてしまうからなのではないかと考えられます。

■コンリー教授らは、大学院に至っても「順位」が重要であることを発見しています。卒業生が卒業から6年以内に残した業績を見てみると、確かにハーバード大学など超名門大学の上位1%の学生はすばらしい業績を上げています。しかし、大学ランキングでは30位前後の中堅大学の上位1%の学生は、ハーバード大学など超名門大学の上位20%の学生よりもはるかに優れた業績を残しているのです。

■同じ部隊の中で、周囲の人が昇進しているのに、自分だけが昇進しない場合に「剥奪された」という感情が生じると解釈されています。

第7章(別学と共学、どちらがいいのか?)

■一連の研究を大雑把にまとめてみると、男子校が有利になる理由は同性の教員がロールモデルになることにあり、女子校が有利になる理由はステレオタイプの脅威が生じにくいからだと言えそうです。

第8章(男子と女子は何が違うのか?)

※特になし

第9章(日本の教育政策は間違っているのか?)

■子どもの教育は、優良な投資先なのでしょうか。たとえば、毎年5%の利回りが見込めるような投資なら、15年程度で元本は2倍になります。もし教育が毎年5%の利回りが見込めるような優良な投資であったならば、教育費が高かったとしても、「支払った甲斐があった」ということになるでしょう。

■小学校入学後の基礎学力を重視しなかったかつての幼児教育には学力を高める効果があったのに、基礎学力を重視した幼児教育が学力を高めなかったとは、なんという皮肉な結果でしょうか。

■専門家が開発したものであっても、善意で生み出された教育であっても、それが効果的であるという保証はどこにもありません。このため、政策の効果をきちんと検証することが重要です。しかし、日本では、教育政策の効果を科学的に検証する習慣はほとんど根付いておらず、私はこれこそが日本の教育政策の最大の問題だと考えています。

第10章(エビデンスはいつも必ず正しいのか?)

※特になし

コメント

「科学的根拠で」というタイトル通りで、論文やその実験結果を解説しながら子育てに関するトピックが論じられている。

本書の「はじめに」で触れられている通りだが、「多くのお金や時間をかけて子育てに成功した人の話に耳を傾けるだけでは、まったく同じことをしていたのに失敗した人や、あまりお金や時間をかけなかったのに成功した人の話を知ることはできない」という「生存者バイアス」問題が教育・子育て論には付いて回る。

成功者の声だけが拡散されるがために、同じ方法を取って失敗したという話があったとしても、それが公表される可能性は相対的に低く(失敗を公開したくない)、成功した人の方法論が正しいかのように見受けられてしまいがちだ。

そもそもまったく同条件(遺伝子レベルから同じ)状況を作ることはほぼ不可能なことを考えれば、一個人の成功を真似しても成功できるかは怪しい。

逆にいうと、まったく同じ条件にならないという不確定要素があるからこそ、一個人の成功を真似しようと思うのかもしれないが・・・。

そういう意味でいうとエビデンスベースで確率的に考えて教育のリターンが紹介されている本書は価値があるように思う。

個人的には、第6章(「第1志望のビリ」と「第2志望の1位」、どちらが有利なのか?)が面白かった。

昔からある議論なのだが、エビデンスベースでも2番手校で上位にいたほうが有利なようだ。このあたりは学校だけではなく、会社などの組織にも当てはまる話だろう。

個人の戦略として、2番手以下の会社で上位にいたほうが良いという解釈もできる。会社の選択だけではなく、所属部署などでもそういった考えは応用できそう。

自分自身の子育てに引きつけてみると、とりあえずは「成長マインドセット」を身に着けさせることが最優先に感じた。

「努力することで自分の能力を向上させることができると信じる」のは人生を通じて応用できるし、これができればある程度は勉強もできるようになる。

「信じる」という部分があるので、究極的には親であっても結局は「他人」である自分には何もできないのだが、そこをなるべくケアしていきたいところ。

一言学び

成長マインドセットとは「努力することで自分の能力を向上させることができると信じること」です。


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