読書レビュー:『「好き嫌い」と才能』(楠木建)

読書

読みたいと思ったきっかけ

楠木建氏にハマっており、著者買い。

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「好き嫌い」と才能 [ 楠木建 ]
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内容

目次

目次は以下のとおりとなっている。

まえがき 努力の娯楽化
Profile #01 宮内義彦 オリックス シニア・チェアマン
Profile #02 玉塚元一 ローソン 代表取締役社長
Profile #03 為末大 元プロ陸上選手
Profile #04 磯崎憲一郎 小説家
Profile #05 高岡浩三 ネスレ日本 代表取締役社長兼CEO
Profile #06 鎌田和彦 オープンハウス 副社長
Profile #07 髙島宏平 オイシックス 代表取締役社長
Profile #08 中竹竜二 日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター
Profile #09 野口実 エービーシー・マート 代表取締役社長
Profile #10 篠田真貴子 東京糸井重里事務所 取締役CFO
Profile #11 仲暁子 ウォンテッドリー 代表取締役CEO
Profile #12 広木隆 マネックス証券 チーフ・ストラテジスト
Profile #13 大山健太郎 アイリスオーヤマ 代表取締役社長
Profile #14 常見陽平 千葉商科大学国際教養学部 専任講師/中川淳一郎 ネットニュース編集者
Profile #15 杉本哲哉 グライダーアソシエイツ 代表取締役社長CEO
Profile #16 丸山茂雄 音楽プロデューサー
Profile #17 木川眞 ヤマトホールディングス 代表取締役会長
Profile #18 米倉誠一郎 一橋大学イノベーション研究センター 教授
Profile #19 楠木建 一橋大学大学院国際企業戦略研究科 教授

内容

わたしの気になった箇所について記載する。

まえがき

■「ああ、この人はすごい」「この人なら何とかしてくれる」と思わせるところに才能の正体がある。それは特定の要素に分解したり還元できない総体である。

■良し悪しに軸足を置くインセンティブに対する、好き嫌いドライブの決定的な優位はネガティブな状況にやたらに強いということにある。

#01宮内

※特になし

#02玉塚

※特になし

#03為末

■ただ、自分の体で検証するといったことは、陸上競技だから可能だともいえます。ラグビーやサッカーなどの球技の団体競技は、チームが勝ったときでも、何がその直接的な勝因となったかがわかりにくいでしょう。陸上はタイムがあるから効果が測定しやすいと思います。特に、僕はその傾向が強かった。(為末)

■どうしても、教えてもらう側はすぐに効果が出る「型」や「ベストプラクティス」を求めてしまいますからね。でも、誰にでも通用するベストプラクティスなんて存在しない。そんなものがあれば誰も悩まないわけだから。ちょっと、せっかちな人が多すぎる気がします。自分のやり方というのは、時間をかけてやっていくうちに、徐々に型になっていくものでしょう。(為末)

■そうか、アスリート、特に陸上選手は、仕事として成立するプロセスが、一般の人とはかなり違うんですね。サラリーマンを含め、多くの人たちにとっての仕事とは、ある程度続けてみないと向き不向きがわからないものですよね。極端に言うと、営業の仕事を10年やってみて向いていることがわかった、みたいな感じ。一方で陸上選手は、やり始めたときから向いていることがわかる。というか、最初から向いているとよくわかった上でやり始める。この違いは大きいですね。(楠木)

#04磯崎

■これは、芸術というものはみんなそうかもしれませんが、あらかじめ考えられたものなんて、たいしたものじゃないんです。それを小説や音楽というフォーマットを借りて、その形式に乗せて、あらかじめ自分の持っていた力を超えるところまでいかないと、何事も面白くはないと思うのです。(磯崎)

■自分の内発的な好きなことを追求するというのは、人生において大きな意味がある。その好きなことが本業になるかどうかというのは別の問題。(楠木)

#05高岡

■でも、肝心なのは、それがきっかけで全国の支社が変わったことです。口ではみんな「環境の変化に対応した者だけが生き残る」ってダーウィンの進化論どおりの話をしますが、現実は、どれだけ環境が変化しても人はなかなか変われない。これは自社だけではないですが、そういうところをどう見て、どう変えるかが大切ですよね。(高岡)

#06鎌田

※特になし

#07髙島

■それから、僕の場合、一人で夢中になっている状態は「集中」と見なしています。「夢中」の状態とは、チームの仲間で熱中していることです。(高島)ああ、それは秀逸な区別ですね。僕は、チームワークというものが苦手でして、その良さがまったくわからなかったのですが、今のお話をうかがって、初めて、頭でわかったというか、言語的な理解が得られました。体ではわかっていないと思うけど(笑)。(楠木)

#08中竹

※特になし

#09野口

■御社では今、5000人超の販売員が動いていて、インセンティブは要らないという野口さんのような経営者の下で、日々商売ができている。これは日本の天然資源です。地下を掘っても石油は出てきませんが、そういう人材が普通にたくさんいる。他の国だと、どんなに掘ってもそういう人材は大量には出てきにくい。これこそ日本の強みだと思います。(楠木)

#10篠田

※特になし

#11仲

■それは大切なことですね。要するに、経営の本質は多様性よりも統合ですからね。仕事の組織として成果を出す以上、経営において一義的に大切なものは統合に決まっている。パッとしない会社は、共通の価値観で人々をしっかりグリップできない、すなわち統合能力のないところ。それができないのを正当化するために、ダイバーシティとかいう人がいますが、これもう最悪ですね。(楠木)

#12広木

■話を元へ戻すと、僕が嫌いなのは、「法則」をすぐに出せと言う人。法則というのは、われわれ学者に対して非常に強いニーズがあるのです。でも、僕は法則が出せない。先ほど言ったように、自然科学と違って「法則」はないから。でも、それだと、何をやったらよいのかわからないとか、役立たず、というふうに言われるのです(笑)。(楠木)

■僕は、自分の仕事がエンタテイメントかどうかは別にして、少なくとも嗜好品だと思っています。僕の考え方を好きで、取り入れていただける方が世の中の3割とか4割とかいれば、他の6割とか7割の人からは、どう思われてもいい。嗜好品ってそういうものではないか、と。(楠木)

#13大山

■口では「変革が大切だ!」と言っても、新しいことをやるのが心底好きな人は少ない。むしろ、「変わらざるをえない」という言い方をする人が多いですね。「『ざるをえない』って、別に誰も頼んでいないよ」と憎まれ口を叩いているのですが、嫌だったらやらなければいい(笑)。自分が好きでやっていないと、なかなかうまくいかないと思いますね。(楠木)

#14常見・中川

※特になし

#15杉本

※特になし

#16丸山

■全部ぶっ壊して自分のルールだけにしたら、みんなが同じルールになるから、また同じ土俵のなかでの競争になって大変じゃない。だから、今ある土俵は今ある土俵で取っておいて、そこは皆さんにお任せして、「私は私、別の土俵でやります」というほうがいいでしょう。規模の大きさや権威には、全然こだわらないし。(丸山)

■でも、オレが儲かってないというのは、あまねくみんなが知っている。そうすると、「丸山さんに何かのネタを持っていっても、自分の分まで取られてしまう心配はないな」と安心するから、いろんな話がたくさん来るわけですよ。だから楽しいの。(丸山)

■丸山さんの強みは、これから何が来るのかわかるといった先見性というより、そのこだわりのなさですね。これまでのことに執着しない。(楠木)また、すごくいいこと言ってくれた!オレ、先見性はないのよ(笑)。(丸山)

■やっぱりイイなぁ、この話(笑)。ここから「意味のない努力はしない」という丸山さんの名言が出てくるのですが、わりとご自身を客観的に見ていらっしゃるということですよね。香港にいる自分の視点ではなく、「売り上げ1%のセクションなんて、本社にとっては何でもない」という物の見方。客観的に見て駄目だと思ったらジタバタしない。意味がない努力はせず、次のチャンスが来るのを待つ。

#17木川

■ここが僕からすれば大変に興味深いところです。僕もそういう話をいろいろな会社で聞くのですが、会社や組織は物事を文脈から切り離して考えるバイアスが強いですね。小倉さんが「企業物流を切る」という戦略を作ったときの文脈と、今の文脈とはまったく違うはずです。それなのにいつの間にか戦略が文脈から引きはがされて、単に「企業間物流は駄目だ」みたいな話になってしまう。(楠木)

#18米倉

■それにしても、結局は好きじゃないからでしょう。本当に好きだったらやっているし、好きじゃないことは続かない。全部が全部、好きで得意なんて人はいませんよね。その人の最高の得意分野は苦手分野と隣り合わせ。だから、欠点を克服して長所を伸ばしましょう、なんてことはありえないと僕は思っています。米倉さんの「致命的欠陥」を克服したら、それはもう米倉誠一郎ではなくなってしまう。(楠木)

■ついでに言うと、スタンフォードでもハーバードでも、「米国のビジネススクールはすごい」とみんなは評価するけれど、本当にすごいのは、そこにある学問的蓄積や世界最高峰の資料ですよ。たとえば、ハーバードはコンピュータやビジネスだけではなく、チベット仏教やインド哲学の研究でも第一級。誰もやらないような学問でも最高というところに本当の価値がある。日本の文科省が「文系はいらない」とか、アホなことを言っているのは情けないね。いいところを見習ったほうがいいと思うけれど、一面だけに注目して差を埋めるという考え方は間違い。自分たち独自の方向を進んでいくのがいいと思う。(米倉)

■最近、「金儲けは嫌いだからソーシャルビジネスに行きます」と言う学生がよくいるけど、「何を言っているんだよ」と思う。金儲けがいちばん大事ですよ。だって、今は人を脅かして金儲けができない時代。「こんなに便利なものをつくってくれて、ありがとう。面白いものをつくってくれて、ありがとう」ということで、アップルもフェイスブックもグーグルも、金儲けをしている。僕たちの生活を良くするものをつくって大金持ちになる。全然問題なし。(米倉)

#19楠木

■ここから先がポイントなのですが、「努力の長期継続」といっても、実際のところフツーの人にとってはなかなか難しい。僕にしてもそうです。娯楽なら何の苦もなく続けられるのに、努力は続かない。で、ある時に脳内革命が起きた。「努力」しようと思うから続かない。「努力が努力じゃない状態」になればいい。すなわち「努力の娯楽化」が仕事のカギだという発想です。客観的には努力であることがその人にとっては娯楽に等しくなる。その理由は、要するに「好きだから」。以上の一連のロジックの最初と最後を取ると、「好きこそものの上手なれ」になる。

■ずいぶん怒られましたね。組織としての秩序を維持するためにローカルなルールや価値基準が発達するわけで、そういうことは今ならわかりますよ。でも当時は、1年だけ先に生まれてクラブにいるというだけで、絶対に従うように強いられることが理不尽に思えました。上下ができる基準が年齢というのも納得がいかなかった。それ以上に、組織のなかの上位者が評価を決めるというのが、自分はイヤなのだと気がつきました。

コメント

本書は2014年に発刊された『「好き嫌い」と経営』の続編であり、前書とほぼ同じ公正で「好き嫌い」を聞く対談記録となっている。

この本自体も2016年に初版が発行されているので、もう10年近く前の書籍で、前書同様に経営者の肩書やポジションなどに変化があるが、記載内容について参考にならないということはない。

前書が割と「大物経営者」が多めだったのに比べると、本書は小説家やスポーツ選手、音楽プロデューサーなどより幅広い人物との対談となっている。

その意味で前回よりもより幅広い分野の見方、好き嫌い、考えが述べられていてものの見方が広がる。

本書のなかでは為末大氏の「どうしても、教えてもらう側はすぐに効果が出る『型』や『ベストプラクティス』を求めてしまいますからね。でも、誰にでも通用するベストプラクティスなんて存在しない」というのが印象的だった。

これはスポーツだけではなく、広く勉強や仕事においても同様のことが言える。

ある程度、効果的な方法論ややり方は一般化できるのであろうが、それ自体がそのまま当てはまるかは人によって異なる。

それを自分にフィットするように少しずつ調整していくことの重要性を改めて認識する。これは自分も陥りがちな話なので気をつけないといけない。

もう一点、「経営の本質は多様性よりも統合」というのも示唆に富む。

これは経営だけではなくチームレベルのマネジメントにおいても重要であるように思う。

多様性やダイバーシティの名のもとに、統合することを怠っていてはチームとして機能不全になる確率は高くなる。

リベラル化していくなかで「静かなる退職」というスタンスもあるところ、統合のためのハードルは上がっている気もするが、一義的にまとめあげることが肝要であることに変わりはない。

そんななかでこの統合を如何に実施していくか。課題として認識しておく必要がありそう。

一言学び

誰にでも通用するベストプラクティスなんて存在しない。

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