読書レビュー:『スピリチュアルズ』(橘玲)

読書

読みたいと思ったきっかけ

『幸福の「資本」論』を読んで以来、橘玲氏の著作はチェックするようにしている。

特に雑誌などの連載をまとめたものでなく、書き下ろしの作品は買って読むことが多く、今回も書き下ろし作品だったので迷わず購入した。

内容

目次

目次は以下のとおりとなっている。

PART1 無意識と「ビッグファイブ」理論を最速で説明する
PART2 心理プロファイルを使った史上最大の「陰謀」
PART3 外向的/内向的
PART4 楽観的/悲観的
PART5 同調性
PART6 共感力
PART7 堅実性
PART8 経験への開放性
PART9 成功するパーソナリティ/失敗するパーソナリティ

未知語

・スピリチュアル:心理学でいう「無意識」に「魂」を重ね合わせた言葉

・ビッグファイブ理論:①外向的/内向的、②神経症傾向(楽観的/悲観的)、③協調性(同調性+共感力)、④堅実性(自制力)、経験への開放性(新奇性)というパーソナリティの5因子のこと。この本では③協調性を「同調性」と「共感力」に分け、また「外見」と「知能」を加えてビッグエイトとしている。

・ケンブリッジ・アナリティカ:イギリスのコンサルティングファームであるSCL(戦略的コミュニケーション研究所)の関連会社

・アイデンティティ:「集団の帰属意識」などと説明されるが、それは「正しい共同体」に所属している(場違いでない)」という感覚

・ステレオタイプ脅威:人々が自分の社会集団についてのステレオタイプに適合する危険性がある、もしくは自分自身がその危険性を感じている状況の苦境

・共感力:相手と感情を一致させる能力

・メンタライジング:相手のこころを理解すること。「こころの理論」と呼ばれる

・堅実性:行動を抑制できる度合、自己コントロール力

・経験への開放性:意識というモニタの解像度のばらつき。経験への開放性が低い・意識というモニタの解像度が高いというのは、行政文書や裁判所の判決のように、いっさいの比喩を使わず、誰が読んでも同じように理解できるよう明晰に書かれた文章のイメージ

・サリエンシー:目立ちやすさ、重要性、顕著性などの意味

・社会主義的パーソナリティ:所属集団の権威・規範等に服従する特徴

・社会的支配志向性(SDO):社会のなかの階層に強い関心を持つ特徴

内容

・パーソナリティとは、「スピリチュアル=無意識」が創造する「人生という物語」のヒーロー/ヒロインの「キャラ」のこと

・生き物を駆動させるプログラムの基本は、報酬を好み、損失を避けること。原則的に最小限のコストで目的の達成を目指す。感情はそのコスト=エネルギーを効率的に管理するために進化した

・様々な刺激を「よい感じ」と「いやな感じ」とざっくり分類することで、認知的な負荷を大幅に軽減→よいものに近づき、いやなものから離れるというシンプルな行動原理で複雑な環境に適応している

・誰もが同じ「感じ」を共有していても、その「感じ方」は一人ひとり違う→この違いが社会のなかでの行動や選択に反映されて「個性」「性格」「キャラ」などと認識される

「こころ」の3原則→①こころは脳の活動である、②こころは遺伝の影響を受けている、③こころは進化の適応である

・ケンブリッジ・アナリティカは、AIに機械学習させ、SNSのデータだけでほぼ完璧にパーソナリティを判定できるアルゴリズムを開発し、その性格タイプに合わせて特定のメッセージを送って2016年のアメリカ大統領選挙やイギリスのEU離脱の国民投票に影響を与えた(この手法は行動マイクロマーケティングと呼ばれる)

・極端に外向的だと依存症になる。一方で内向的なパーソナリティは依存症になりにくいが、極端に内向的だと無快感症と診断される

・人は多かれ少なかれ神経症傾向にあるものの、それでもやっていけてるのは脳の仕様が「楽観主義」に傾いているから

・ステレオタイプ脅威が明らかにしたのは、同調性の本質はアイデンティティ(正しい場所に所属している)だということ→共同体から孤立する潜在的な危険を避けるための適当として人は進化してきた

・脳にとっては、自分より劣った者は「報酬」、優れたものは「損失」で、他人の失敗を喜び、成功を妬むように進化の過程で設計されている→長い進化のなかで「支配と服従」のパーソナリティを脳に埋め込まれてきた

・共感に喚起された利他主義は道徳的なものでも、反道徳的なものでもなく、没道徳的なもの→世界を「俺たち」「奴ら」に分割し、「俺たち」に感情移入するから、共感が社会的な問題を起こす

・意志力は消耗品である→依存症の治療が難しいのは、依存対象をやめるために意志力を消耗してしまい、その結果欲望のコントロールが困難になってしまうため。意志力をふりしぼることで脳のリソースを使い果たしてしまう

・言語運用能力が低いと世界を脅威に感じやすく、「移民排斥」など内集団バイアスを持ちがち。一方で言語運用能力が高いと、ほとんどのことは適当に言い抜けられるので脅威にならず、外国人や性的少数者などと交遊を楽しむ→ここから「保守派は伝統にこだわり知能が低い」「リベラルは好奇心旺盛で知能が高い」という政治イデオロギーが生まれる

・経験への開放性は、芸術家やアスリートなどに共通しており、スキゾ度(統合失調)傾向が強い→躁状態や適度な思考の逸脱は芸術のような創造的行為やイノベーションを加速し、女性たちに好かれるが、戦争や動乱期には芸術的な才能は役に立たないので、一部の人だけ高い経験への開放性を持つようになっている(安定と動乱のどちらの状態でも適応できるように基本は正規分布するように)

・「生存(生き延びるために特定の集団に一体化すること」「生殖(異性を獲得するために集団のなかで目立つこと」のためには、「社会的アイデンティティ」と「個人的アイデンティティ」を巧みに操らないといけない

・成功する3つのパーソナリティは、①高い知能、②高い堅実性、③低い神経症傾向(精神的安定性)。それに加えて「高い外向性」と「魅力的な外見」があれば、政治家でリーダーになったり、グローバル企業のCEOになれるかもしれない

・自分のパーソナリティを前提として、それがアドバンテージとなる場所(ニッチ)を探す→自分のパーソナリティに合った人生設計をすること

印象

ビッグファイブ理論は心理学の関連で聞いたことはあったし、ケンブリッジ・アナリティカの事件もニュースとして聞いてはいたが、その2つがリンクしていたとは思わなかった。

心理学といってもほとんどは脳科学の実験に近いような印象を受ける。やはり人文科学・社会科学系の学問は脳科学などサイエンス関連に統合されていく運命なのかもしれない

知能や外見が現代資本主義社会において極めて大きな影響力があるのに実証研究がなされていないのは、やはりそこにメスを入れて実証することが、多くの人にとって好ましい結果とならないからだろう。

経験への開放性のパートについては知能と言語運用能力の話もあったりして、少し要旨がつかみにくかった。経験への開放性というと外向的にどんどん色々な経験を進んでする、という印象を持っていたが、そういったものではなく、躁状態や思考の逸脱状態で創造的行為を行える気質ということだろうか。

コメント

相変わらず様々な実験結果や論文の情報をもとにして論を展開している。

特に脳科学系の実験が多く、ドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質やオキシトシンのようなホルモンなど、基本的な特徴や作用などは頭に入れておかないといけない。

それにしても、基本的にパーソナリティは変えられないので、持ったもので勝負していくしかないという残酷な現実が突きつけられる。生まれながらにしてだいたいの運命は決まっているというのも悲しいような。

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