読書レビュー:『戦略がすべて 』(瀧本哲史)

読書

読みたいと思ったきっかけ

瀧本哲史氏の著作は定期的に読み返したくなることが多く、今回もその一環で読み直してみた。

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戦略がすべて (新潮新書) [ 瀧本 哲史 ]
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内容

目次

目次は以下のとおりとなっている。

 

ヒットコンテンツには「仕掛け」がある
労働市場でバカは「評価」されない
「革新」なきプロジェクトは報われない
情報に潜む「企み」を見抜け
人間の「価値」は教育で決まる
政治は社会を動かす「ゲーム」だ
: 「戦略」を持てない日本人のために

内容

わたしの気になった箇所について記載する。

Ⅰ:ヒットコンテンツには「仕掛け」がある

■もちろんこのやり方は、試される人材にとっては厳しい。だからあくまで、自らの能力を高め、優れた人材として評価を受け、高い報酬を得たいという者だけがこの競争に参加すればいい。こうした競争が嫌ならば、「コモディティ化」された人材として、大きな夢を見ず、賃金や条件の不満は飲み込んで、こつこつ働くしかない。

■さらに身近にひきつけて言えば、各個人も周りの人達や組織に対して、プラットフォームとして価値を提供するということが考えられるかも知れない。自分がなんらかの価値を提供して、周りに人を集める。彼らが協力と競争を通じて、お互いに学習、成長し、その成果が自分のところに少なからず戻ってくるようにすれば、そのとき、個人がプラットフォームになったことになるわけである。

■つまり、洋の東西の違いを超え、技術と伝統を融合させることこそ、他国と差別化可能な日本のポジショニングとなるのではないだろうか。今回の東京の勝利はこのことを象徴していると考えられる。

Ⅱ:労働市場でバカは「評価」されない

■これは不動産業だけではなく、多くの産業で同じ構造が存在する。従業員一人当たりに投入されている資源量を「資本装備率」と呼び、資本から生まれる付加価値額の比率を「資本生産性」と呼ぶが、多くの産業で、大企業と中小企業で資本生産性はそれほど変わらず、差がつくのは資本装備率なのだ。製造業においても、資本生産性は中小企業のほうがやや高かったりするが、資本装備率が倍以上違うので、従業員一人当たりの付加価値額に倍近くの差がつく。

■一つの方法は、資本装備率の高い企業に行くことである。これは中小企業よりも大企業ということでもあるが、鉄道、エネルギーといった公益企業、商社、大手不動産会社のような資源を大量に保有している会社が挙げられる。しかし、こうしたところはぶら下がり社員も多いので、結果的に資本装備率や資本生産性は落ちるリスクもあるし、従業員である以上は限界がある。

■「会社ではなく、市場に評価される人材を目指せ」といった考え方も最近多いようだが、そもそも、企業自身が市場から評価されようと懸命に努力しているのだ。ならば、「市場からの評価」というリスクは会社にとらせ、自分は社内という狭い世界で評価されることを目指し、イニシアティブをとって会社の変化を主導する。そのほうが、一般の労働市場に打って出ていくよりも、個人にとってのリスクははるかに小さいはずだ。先程、「新しい仕組みを考えた企業が古い大企業に置き換わる」ということを言ったが、既存の企業の中で新しい担い手が新しい仕組みを立ち上げてもよいのである。多数のホワイトカラーにとっては、この方策を狙うのが最もローリスクで、リアリティがあるのではないかと思う。

Ⅲ:「革新」なきプロジェクトは報われない

■それは、イノベーション、さらに言えば、資本主義というものは、少数意見が、既存の多数意見を打ち破り、新しい多数意見に変わっていくプロセスにおいて最も大きな価値が生じるからである。

■政権の中枢や企業の経営陣、スポーツチームのフロントなど、トップマネジメントが交代すると、そのチームの顔ぶれで今後の方針を予想することがよく行われる。しかし、こうした予想は少なくないケースで裏切られる。というのも、こうした人事は様々な勢力の均衡政策や人事の順番などで決まる要素も多く、トップマネジメントの方針を反映しているとは限らないからだ。むしろ、私がこういうときに注目するのは、トップが自ら外部から招聘するブレーン、顧問的人材である。どのような人材を選ぶのかは、トップマネジメントの思考様式を推測する有力な材料になる。

■トップマネジメントにとっての「教養(リベラルアーツ)」とは、どのような知識を持っているか以上に、どのような人材とどのような関係を構築しているか、その多様性、広がりと深さに置き換わることになる。

■つまり、教養として知識を学ぶことと同様の努力をもって、多様な人的ネットワークを構築することが個人の「教養」を深める方法として有益という結論になる。

Ⅳ:情報に潜む「企み」を見抜け

■主張が極端であるほど、ごく一部の人間を深く「ハマらせる」構造になっているネットの世界では、危険な思想を助長させやすい。こうした傾向にうすら寒いものを感じざるを得ないのは私だけではないはずだ。

■むしろ「逆をとる」、すなわち自分の仮説と逆の考え方や事実を探し、それがどの程度信頼できるかという、反証的な視点で確認していく。これは、ストーリー当てはめ型の取材とは真逆の方式だ。

■この文脈までくると、なぜ今、教養が問題になるかが分かるだろう。教養の一つの機能は、アラン・ブルームの言葉を借りれば「他の考え方が成り立ちうることを知ること」にある。つまり、情報の爆発とその防衛による蛸壺化を経て、失われた普遍性を取り戻そうとする動き、これがすなわち「教養」ブームなのだと私は考えている。

■それでは何が「教養」か。極端に言えば、それは「自分とは異なる思想」全てを指す。

■ブームが終われば、みんな「教養」なり「リベラルアーツ」のことなど忘れてしまうかも知れないが、これは情報の爆発と資本主義の高度化に対する処方箋として、繰り返し繰り返しキーワードになっていくであろうと、私は予想している。

Ⅴ:人間の「価値」は教育で決まる

■高校の部活ですらこれほど影響があるのだから、まして、社会人として所属した業界、会社、部門の文化や、業界内のポジショニング(トップ化、差別化か、特化か)に大きく影響を受けているのは間違いない。

Ⅵ:政治は社会を動かす「ゲーム」だ

■つまり、本来必要な地方創生は、全ての自治体をむりやり生き残らせようとして全体を沈ませるのではなく、自治体同士の競争を促し、住民の移動という「足による投票」によって、強い自治体への統合を目指したほうが良いということになるだろう。

■それは消費財においてブランドロイヤリティを獲得するためには、機能の合理性よりも、やや不合理なくらいのイメージ性や感情的なストーリー性を訴求したほうがより効果的であることと完全に一致している。

■南カリフォルニア大学の教育学者、ローレンス・J・ピーター教授が主張した組織労働の法則で、「ある職階の中で、成績の良い者が上位の職階に上がり、成績が悪い者はその職階にとどまる」というルールだ。端的に言えばある種の実力主義だし、当たり前のように思えるかもしれないが、これがどのような状況を生み出すかというと、「全ての人は、その人が無能と判断される職階まで昇進し、そこに長くとどまる」、すなわち「昇進を続けてやがて無能になる」という状況が生まれるのだ。たとえば、ベテラン課長は「係長としては有能だったが、課長としては無能で部長になれなかった人」ということになる。

Ⅶ:「戦略」を持てない日本人のために

■「戦略」という語は、英語で言えば「ストラテジー」であり、軍事用語から来ている。古典的な分類によれば、意思決定はそのレベルに応じて、上から「戦略」「作戦(オペレーション)」「戦術(タクティクス)」の三段階に分かれている。

■つまり、戦略を考えるというのは、今までの競争を全く違う視点で評価し、各人の強み・弱みを分析して、他の人とは全く違う努力の仕方やチップの張り方をすることなのだ。

■低迷の時代にアメリカが発見した事実、それは「日本には戦略がない」ということだった。事実、日本という国は、初期に成功を収めても、戦略がないために最終的に失敗してしまう。

■外国語のスキルにせよ、スポーツの技術にせよ、メソッドや理論を学んだだけでは身につかない。それを実際に用いて自分ができるかどうか試し、自己修正をくり返していくことで初めて能力が向上し、それを我が物にできる。そのためにも、多くの問題を解いたり、「実戦」の場に出たりして、その成否を検証するプロセスを何度も経験することが重要である。

コメント

2015年に発刊された書籍なので結構古い部類に入ってくる気もするが、内容自体は今でも十分に示唆に富むものだと思う。

時々事例や具体例として当時の時事ネタが入るので、その部分では若干の古さを感じなくもないが、導き出される主張に普遍性があるので、違和感なく読める。

個人的には「資本装備率」の部分が勉強になった。

ただ単に自分が不勉強なだけだが、大企業や業界によって給与水準が異なる理由を説明してくれるワードが「資本装備率」だと発見できた。

確かに普段業務の絡みでエネルギー関係の会社とのやり取りもあるが、金額の桁感が違い過ぎて驚くことも多い。

同じような商取引をするとしても投入できる金額が多ければ多いほど、同じ利益率ならば投入した金額に比例して利益も増すし、だからこそ給与も高くなる。

「資本装備率」というワードでそれが説明できるのは、自分自身のなかでスッキリした。

また「多様な人的ネットワークを構築すること」の有益さも印象に残った。

確かに周りをみていてもできる人は、何を聞かれても「誰に聞いたらいいか」を把握していることが多いし、実際にそれで聞いてみて実情を知り、問題を解決している気がする。

自分みたく人見知り気質だとこういう部分でも損をするのだと改めて反省・・・。もう少し積極的に人と出会い、話をしていかないといけない。

瀧本哲史氏は2019年に逝去されているので、新しい知見を読めず、聞けないのは惜しいが、その著書はどれも繰り返し読む価値のあるものだと思う。

一言学び

従業員一人当たりに投入されている資源量を「資本装備率」と呼び、資本から生まれる付加価値額の比率を「資本生産性」と呼ぶが、多くの産業で、大企業と中小企業で資本生産性はそれほど変わらず、差がつくのは資本装備率なのだ。

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