読みたいと思ったきっかけ
近藤康太郎氏の著作ということで著者買い。
内容
目次
目次は以下のとおりとなっている。
はじめに | : | 幸せの大三角をめぐる旅 |
第一夜話 | : | <仕事 work> |
第二夜話 | : | <勉強 study> |
第三夜話 | : | <遊び play> |
第四夜話 | : | <事故 accident> |
第五夜話 | : | <異常 anomaly> |
内容
わたしの気になった箇所について記載する。
はじめに
■なぜ生きているか?なぜもなにもない。朝、起きちゃったからだよ。起きちゃったから、今日も惰性で生きてるんだ。起きなかったら、死んでるわ。その程度なんじゃないでしょうか、ふつう。
■人間の欲望は、きりがないものです。とくに、人と比較するのは不治の病。幸せを欲望と取り違えると、人生、えらいめにあいます。不幸への一本道。だから、「幸せ」という言葉を、少し変えましょう。「ご機嫌」はどうでしょうか。あるいは「ナイス」。ご機嫌になるため、生きる。ナイスになるため、生きている。
第一夜話
■人はなぜ、働くのか?食うためだよ。生きていくためだよ。幼い子が、老いた父母が、病気の家族がいるからだ。養うべき人がいるからだ。あたりまえだろ。甘ったれたことを言うな。ひっぱたくぞ!
■つまり、世界におもしろい<仕事>なんか、ないって話なんです。だから、工夫する。少しでいいから、快適にする。自分で、ちょっとはおもしろいと思えるように、変えていく。Life is adjustment.生きるとは、創意工夫のこと。気のもちようです。
■自発こそ、おもしろさの内実です。だからこそ、ナチズムもファシズムもスターリニズムも、全体主義者は自発を嫌うんです。自発には、自由があるから。創造性があるから。いつなんどき、体制を覆すかもしれないから。権力は、おもしろく生きている人間を恐れます。
■<仕事>って、そういうもんじゃないですか。NOの発音を忘れろ。全部YESって言え。
■書くやつが、書けるようになるんです。<仕事>するやつが、<仕事>できるようになるんです。トートロジーです。量が質を凌駕する。
■人間は、他者の欲望を欲望する。ラカンの言うとおりです。大文字の他者、つまり近代社会や資本主義という経済システムが欲望するものを、人は欲してしまう。大文字の他者とは、言語でもあります。人間を人間たらしめるもっとも基本的なシステム=言語。言語が表象するモノやコトを、人は欲してしまうんです。成功したい。セレブになりたい。他者に、うらやましがられたい。
第二夜話
■二、三年間、なにも考えられないくらい、仕事漬けになる。一生に一回ぐらいは、それもいいんじゃないかと思います。なんでも経験ですよ。一生続きやしない。まあでも、そこは個人差があるかな。体力も差があるし。無理強いはしないです。
■サービス業に勤めるほとんどの人にとって、勉強とは、本を読むことになる。なんとなれば、サービス業というのはコミュニケートが武器だから。言葉によって人を、人の感情を、人の態度を、動かすことだから。「サービス」というのは、究極的には、言葉を鍛えることです。
■言葉を磨かなきゃいけない。ロジックを堅牢に、独創的にしなければならない。ライターだけでなく、サービス業に就く多くの人は、言葉によって働いている。だからこそ、「表現者としての職業人」とわたしは言っているんです。
■なにしろ、ふつうの生活では、ナラティブを聞いたことがないし、ボキャブラリー(語彙)を持っている人に会ったことさえないんですから。コミュニケーションをとる。人間の場合、それは言語によってです。だから、人間の勉強とは、言葉を磨くことである。叙述のフローを鍛える。語彙のストックを蓄積する。したがって、<勉強>とは、本を読むことになる。
■私塾に学びに来る若者たちにも、リスト読書は課しています。でも、いろんな個性の人がいるから、勉強をやめちゃうのもいるんです。「一年間だけでいいから、試しにリストを使って勉強してみな」と教えても、やめてしまう。やはり、難しいんですね。<仕事>との両立が。
■身もふたもないことですが、<勉強>をすれば「得」をしますよということです。社会人になっても自らに<勉強>を課している人は、極端に少ないです。少ないということは、市場経済においては価値を生むことです。「得」をするためには、人がしていないことをしなければならない。
第三夜話
■つまり決定的に大事なのは、<遊び>は、直接的に仕事に役立たない。役立ってはいけないということなんです。むしろ周りに「なんでそんなことやってんの?」と不思議がられる、場合によっては心配されることでなければいけない。酒色にふける、ということも意味するんですから、常識的にはあまりよろしくないもの、芳しくないものであってもいい。それを<遊び>と呼ぶんです。
■「正しいことを言うときは相手を傷つけやすいものだと気付いているほうがいい(吉野弘「祝婚歌」)」これだと思うんです。あらゆる表現者にとってのコーナーストーンです。新聞記者、テレビ記者も、銘肝牢記しろ。
■われわれ表現者としての職業人も、スキゾフレニアにならなければいけない。<勉強>によってパラノイアになる。同時に、<遊び>によってスキゾフレニアになるんです。注意散漫に。精神分裂的に。焦点がひとつのものに合っていない。移り気になる。浮気性になる。寄り目にならない。興味が、どんどん移っていく。移るというか、増えていく。
第四夜話
■「言い訳は、どんなことにだってできるんだ。言い訳を考えていると、一生なんか、すぐ終わる」周囲に配慮した小声の叱責を聞いて、わたしも、身を縮めた。仕事が忙しくて、勉強をする時間がない。遊びなんて、いまはとんでもない。二日酔いで今朝は原稿が書けない。大事な接待相手だから仕方がなかったんだ。親の介護で、仕事が手につかない。彼氏/彼女と別れて、文章なんて書く気になれない。子供が熱を出した。カネがない。時間がない。やる気が出ない……。言い訳すんな。どんなことにも、言い訳はできるんだ。言い訳を考えると、短い人生なんて、あっという間に終わっちまう。書け。書いて、言い訳しろ。あらゆる芸術は、自己弁護である。
■だからこそ、アメリカ大陸の隅々まで、遊んで回れた。音楽や映画や文学で知っていたから、もっと知りたくなった。舞台に行きたくなった。知らなかったら、知りたくならないものなんです。帰国後、アメリカに関する著作を三冊、立て続けに出しました。海外特派員なんて、掃いて捨てるほどいる。でも、著作を残すほどの大事故にあった人は、わずかです。
■なにもライダーだけではない。表現者としての職業人は、何度も事故らなければだめです。そして、事故は、計画的にあうようになれる。事故りやすい体質を作る。本気で言ってます。
■ただ、いまの自分が、かつての若い自分にアドバイスできるとしたら、「それは言い訳だ」ってことになるでしょう。どんなに<仕事>が忙しくても、工夫次第で<勉強>はできる。そして、<遊び>は、歯を食いしばってするもんだ。寝ないでするもんだ。
■どれだけ遊んだか。誇るとしたら、そっちです。わたしより若いのが、わたしより濃密な書き込みのアスリートノートを見せて、どれだけ遊んでいるか自慢してきたら、「こいつ、すげえな」って尊敬しちゃいます。
■若かったからできたし、子育てしながら働いているライターとかには、たしかに厳しいことだとは思う。でも、子育て家庭だけじゃないですよ。人生なんてみんなそれぞれ個別に厳しいんです。老親の介護にしても、家族の病気にしても、自分の貧しさにしても、みんな、なにかを抱えている。言い訳すんな。自分に言ってます。
■酩酊している。正気を失っている。自分のしていることには、たしかに意味がある。そう、信じ込む。たった一人で、思い込むんです。好きになるとは、孤独になることです。孤立を求めない。しかし、孤独を恐れない。
■ただし、注意が必要で、<遊び>と<勉強>を経由せず、<仕事>に酔っている人は、少し危ないです。自分の仕事に「最初から」使命感を持っている人なんて、信用できない。
■大事なこと、正しいことこそ、軽く書く。ライターだけではない。どんな職種でも、おもしろい<仕事>をしている人とは、例外なく遊んでいる人です。
■みんな誤解してるんですが、<遊び>に努力はつきものです。気晴らしだとか、そんなの違う。嘘です。
■人生を、予測可能なものにしてはいけない。その人生は、収束する。発散させてこそ、新たなことを生み出せる。生きるとは、「予測不可能である」ということです。
第五夜話
■わたしは幸運にも、自分の「骨」を見つけました。三十代の、わりあい早い段階でした。そうして、みなさんの「骨」は、わたしには分かりません。自分にしか分かりません。だれかが見つけてくれるものではない。自分で、見つけてください。自分で、食らいついてください。
■「推し活」なんて、世間が作った浮薄な流行語に回収されない。他者の欲望に収束していかない。アイドルやホストにカネを使うのがほんとうに自分の「骨」なのか。他人が作った「欲望」に踊らされているだけじゃないか?考える。自分を疑う。自分だけの酔い方があるはずだ。好きになるなら、徹底して、好きになる。信じ、楽しみ、愛す。
コメント
やっぱり読んでいて引き込まれるし、飽きがこない。
単純に好き嫌いの問題であって、自分が著者を好きなだけなのかもしれないが、「読ませる」文章だと思う。
最初はこちらが能動的に読んでスタートするのだが、気がつくと受動的に「読まさされている」ような感覚。
小説やノンフィクションなどのストーリーが面白くてそういう経験をすることはあるのだろうが、語り口、ナラティブの豊穣さというか、巧みさに魅力を感じているのだと思う。
肝心の内容についていうと、仕事・勉強・遊びという大三角から成り立つのが幸せであり、それぞれについて著者の経験や考えが述べられている。
仕事と勉強はまだしも、遊びがどう関係してくるかと一瞬思ってしまうが、「遊びがいつしか勉強になり、勉強していると仕事に結びつく」という。
このサイクルが回り出すと幸せであり、このサイクルを円滑に回していくためのヒントが掲載されている。
個人的には著者の過去や経歴を少し垣間見えたのが興味深かった。
その人の過去や経歴が今と必ずしも結びついているわけではないが、それでも少なからず影響を与えていると考えられるからこそ、それを知りたくなってしまう。
本書のなかでいうと「はじめに」の冒頭に書かれている「なぜ生きているか?なぜもなにもない。朝、起きちゃったからだよ」というフレーズが印象深い。
一生命体である自分がなぜ生きているのか。そこに特に深い意味などない。
中学生くらいから幾度となく考え始めてきた(いる)この疑問への回答をシンプルにまとめているように思う。
ぶっきらぼうなこの言い回しも、疑問の深遠さと対比的で良い。
とりあえず自分も朝起き続ける限りは精一杯生きていこう。(こう字面にすると少し重たいか・・・)
一言学び
なぜ生きているか?なぜもなにもない。朝、起きちゃったからだよ。
コメント