読書レビュー:『無敵の読解力』(池上彰/佐藤優)

読書

読みたいと思ったきっかけ

出張のときに駅の本屋で見かけてしまい、つい買ってしまった本。

池上彰氏と佐藤優氏の著作はハズレがなく、いつも面白いのですぐに読めると思ったのも購入をしたきっかけになった。

内容

目次

目次は以下のとおりとなっている。

はじめに 池上彰
第一章 人新世から見た仕事論
第二章 米中対立 新冷戦か帝国主義戦争か
第三章 オリンピックはなぜやめられなかったのか
第四章 愛読書から見るリーダー論
第五章 日本人論の名著を再読する
おわりに   佐藤優

内容

わたしの気になった箇所について記載する。

第一章

・本当に読む力をつけようと思ったら、やはり書籍なんです。一冊の書籍が成り立つまでには、いくつものふるいにかけられている。要らないものを省き、論旨を明確にしないと、そもそも売り物にならない。さらにいえば、古典にじっくり取り組むこと。これが「読解力」をつける一番の早道なんです。(佐藤)

・日本でマルクスを読む人は、講座派(日本共産党系)、労農派(非共産党系)、あるいは『資本論』を科学の書として論理整合的に再解釈する宇野(弘蔵)学派など、ある種の型にはまった読み方をします。ところが斎藤(幸平)さんは、そうした日本の因習的な桎梏から自由な地平でマルクスを読んだ。アメリカやヨーロッパの自由な読み方を持ってきたところに意義があるんですね。(佐藤)

・いずれにしても、消費を減らし、欲望を抑制できるということは、ある種、ヴィーガニズム(完全菜食主義)にもつながると思うんです。だからどちらかと言うと、知識人で富裕層の間に出てくる意識なんじゃないでしょうか。(佐藤)

・いや、トランプ政権の背後に転覆をたくらむ闇の政府があったということじゃないですよ。日本で言うと例えば、開成、麻布、筑波大付属駒場、そこにあるネットワークなんかは一種のディープステートですよ。政治的な立場が対立しているとか、あるいは労働運動の指導者ならば資本家と対立しているはずなんだけれども、公式なルートではなくて属人的なネットワークによって、いくつかの難しい問題が解決されるし、政策や意志の決定がなされる。こうした現象はどの国でも非常に増えてきていると思います。(佐藤)

・まあ、考えてみれば、どんな階層でどんな会社に属してみても、ある意味、ブルシット・ジョブの世界観はついて回る感じがしますね。(池上)

第二章

・ですから、スターリンに学ぶ人事の極意とか、スターリンに学ぶトップのなり方とか、凄く勉強になりそうです。そして、権力を維持していく方法も勉強になりそうですけどね。(佐藤)

・やっぱり中国の人口というものを無視したらダメですよ。アメリカとの人口差は四倍以上あるわけです。中国は世界の工場であると同時に、世界最大の消費者でもありますからね。(佐藤)

・ここでも人口は重要なポイントですね。数は力というか、中国十四億人でしょ。そうすると、当然のことながら、本当に一握りの優秀な人間が日本の10倍いるんですよ。(池上)

・つまり韓国も中国も、かつて日本が歩んだ道をまったくその通り歩んできている。中国人の観光客が日本でいろんな礼儀を知らない非常識なことをやっているけど、1970年代の初め、日本はヨーロッパでまったく同じことをやった。(池上)

第三章

・オリンピックに国を挙げて熱狂するのは、アジアの一部と社会主義諸国ぐらいなんですね。(池上)

・だから、余計な歴史に残るようなことは調べるな、余計なシミュレーションはするなというのは、皇軍の伝統にのっとっているわけです。重要なのは必勝の信念である。オリンピックをやり遂げる信念が重要なときに、そういうノイズを出すなってことです。(佐藤)

・今後もこの種のことが続いて起きてくる。少し考えればわかるのに、誰も止められない。それで誰も責任を問われない。2025年に予定されている大阪万博でも起きるし、まずい決定をわれわれはやり続けるということになるんじゃないでしょうか。(佐藤)

第四章

・彼女(=田中眞紀子)もともと演技性パーソナリティなんですね。…彼女はその性質のままで、政治家もずっとやってきた。それが当時のパフォーマンスを重視する世の中に合っていたのでしょうが、しかし、世の中が冷静になったら、相手にされなくなったということでしょう。(佐藤)

・大体、理念的哲学的な古典をやっていないのも、マルクスを読んでいないのも、世代じゃなくてこの人(=枝野幸男)の問題でしょう。一般的な世代の話ではなくて、きわめて属人的な話です。(佐藤)

・中曽根康弘氏は教養人っぽく見せることが巧みです。自分に教養が足りないことを知っているから、読売新聞の渡邉恒雄氏という教養人を家庭教師役として捕まえたんですね。(佐藤)

・大平の場合は、キリスト教プロテスタントのカルヴァン派で、石橋は日蓮宗で得度した僧侶です。二人は政治をやる背景のところに、つまりエトスのところで宗教的動機があって、それが本を読むことにつながっていたんじゃないか。超越的な使命を持っていたという意味では、二人はちょっと珍しいタイプかもしれません。(佐藤)

・官僚は基本書を何度か読んで暗記して、それを運用する能力を問われるから、それが読書の基本形になっちゃうんじゃないかな。娯楽として『坂の上の雲』を楽しむようなことはあっても、本から何かを得ていくスタイルは取らない。国家公務員試験に受かった人には、読書家が少ないような気がします。(佐藤)

・松岡正剛氏に聞いたことがあるんですが、ある政治家に本の読み方を教えてやってほしいと言われてそれを試したけれども、全然うまくいかなかったそうです。なんでうまくいかないのかもわからなかったと言うんですね。(佐藤)

・無理なんですんかね。さらに言えば、私のように1970年代前後の大学生だと、せめてこれぐらい読んでいなければ恥ずかしい、みたいなものがあったんですよ。ほとんどの政治家からはそれは感じ取れないし、今の大学生にもないですよね。(池上)

第五章

・やはり制度が社会をガラッと変える部分はあります。高度経済成長期とかバブル前の日本社会がどうだったのかを、日本人が書いたものではなくて、外部の視点から見ることで、事実を確認できるという皮肉な側面がありますね。日本人にとっては空気と同様なので、わざわざそれを書きませんから。そこが外国人が書く日本人論の最大の見どころではあります。(池上)

・2000年代に入って、いや、いや、日本というのは世界からこんなに尊敬されているんだぞという本が出るようになった。周りから褒めてもらえないから、自分たちでそれをやる。(池上)

・日本人論と、それから日本語とは何かという日本語論というものがある。なんか、定期的にその波が来ますね。繰り返しわれわれのアイデンティティの危機が来るということなんでしょう。だから、日本人論をいま扱う意味はそこにあるんですね。(佐藤)

おわりに

・日本の政治家や経済人はよく本を読んでいる。もっとも、小説、ビジネス書、エッセイ、自己啓発書が中心で、脚註がついた学術書はあまり読まない。有権者でこのような本を読んでいる人が少ないので、演説や日常会話での効用が低いからであろう。

・重要なのは、アカデミズムで行われているテキスト批判、解釈学の手法を入口だけでもよいので政治家やビジネスパーソンの読書に取り入れることだ。その結果、日本人の読解力が飛躍的に向上するだろう。

コメント

『無敵の読解力』というタイトルではあるが、中身としては米中関係などのあるトピックに対してアカデミックな本を取っ掛かりにして池上・佐藤の両氏が対談していくという内容であった。

そういったアカデミックな書籍を読むことを通じて読解力が向上する、という趣旨で本自体は作られているのだろうが、タイトルと中身が割とズレているのは否めない。

『無敵の読解力』というタイトルであれば、普通はどういった本を、どういった順序で、具体的にどういった手順で読むのか、といったいわゆる大学受験の現代文読解の内容を想起してしまいがちだが、そういった類の本ではない。(当たり前にわかることではあるかもしれないが)

とはいえ内容としては、いつもの両氏の対談本よろしく、面白い。

わたしとしては第四章の政治家の読書遍歴のトピックが特に興味深かった。

中曾根康弘や細川護煕などは教養陣営として紹介されるが、その他、菅義偉、枝野幸男、田中眞紀子などは「恐るべき空虚」の事例として挙げられている。

政治家自体を選ぶのは国民という制度上の建前を考えれば、結局そういった政治家を選択している国民自体が教養を重視していないという話に帰結するわけであるので、教養ある政治家が誕生するには国民側が教養を深める必要があるという結論になりそう。今回の書籍も当然そこを念頭に置いているのだろうが。

こんなことを言っているわたし自身も最近はまったく学術書を読んでいないので、これを契機にまた硬派なアカデミック本を読んでいかねばならない。

学術本を読むのは結構骨が折れるので、電車の中でさっと読むには適さないことを考えると、また時間の捻出が難しくなってはくるが・・・。

一言学び

国家公務員試験に受かった人には、読書家が少ない?

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