読書レビュー:『文章は、「転」。 〈自分の言葉〉で書く技術』(近藤康太郎)

読書

読みたいと思ったきっかけ

近藤康太郎氏の著作ということで著者買い。


内容

目次

目次は以下のとおりとなっている。

 

はじめに    
第一章 前提篇 型を覚えるストレッチ
第二章 準備篇 感性は鍛えられる
第三章 理論篇 名作で味わう文豪の五感
    ①視覚で書く
    ②聴覚で書く
    ③嗅覚で書く
    ④触覚で書く
    ⑤味覚で書く
第四章 実践篇 ある日、文章塾にて
  重複ドン
  どっさりもっさり
  分かりにっ壁
第五章 応用篇 感性を磨く習慣づくり
    感性筋トレ十箇条の御誓文
おわりに    

内容

わたしの気になった箇所について記載する。

はじめに

■◯◯のために、▽▽する。こういう発想こそ、「表現力を鍛える」のにもっとも妨げになる考えだということに、早いうちから気がついていたほうがいい。表現の女神は、小利口者が嫌いなのだ。いや、女神だけではない。さかしらで計算高くて小ずるい。そういう者を好きな人間は、世界にいない。

第一章

※特になし

第二章

■日本語で書かれた文章を、たくさん読みましょう。そして、好きになった言葉を、書き写す。よほど好きなら、覚えてしまう。名文のストックを作ること。これにまさる鍛錬方法はありません。

第三章

■本書では夏目漱石からの引用が多くなります。なにせ近代日本語散文で最大の名文家は漱石先生なんだから、仕方ありません。

■イメージが自然に膨らむ。やはり名句というしかありません。視覚以外の感官を使う。意識する。それだけで、文章が少しオリジナルになります。

■生きるということは、「季節の記憶」を重ねること。空気に触れた「感じ」を、記憶する。言葉に移す。文章にしようと苦闘する。語彙が増える。すると、もっと鋭敏に「感じ」を覚知できるようになる。感じるから、感じられるようになるんです。

■そして、わたしなどは、こうした食レポ表現が、なんだかグルメ気取りで鼻白んでしまう。少年時代たいへん貧しかったので、「食えるだけで幸せだ。うまいのまずいの言ってんな。黙って食え」と思ってしまう。食と性は人間にとって欠くべからざる生物的欲求です。生存に直結するだけに、事細かに表現するのは品位に欠ける。下司張っている。そういう認識は、冷静に持っておきたいです。

■エッセイは突然、こう終わります。心憎いと言うほかない。「肝腎なこと」を忘れるわけがないです。周到に用意した決めぜりふ。やり過ぎは嫌みになりますが、この構文はテクニックのひとつです。肝腎なことは、最後に”思い出す”。

第四章

■重複ドンを見つけるのは簡単です。紙にプリントする。眺める。それだけ。推敲(読み直す)というより、絵を見て「探す」という感覚です。簡単なんだから、無精しない。重複ドンをなくすだけで、ほんの少しですが、文章のスピード感が上がる。この「ほんの少し」を甘く見ない。文章上達の秘訣です。

■あってもいいが、なくても分かる。どっさりもっさりの正体は、これです。初心者はまずそう覚えてください。なくても分かるものは、原則的にどっさりもっさりです。ただし、「原則的に」です。例外は、けっこうたくさんあります。

■人は文章を書くとき、悲しみをいったんわきに置く。悲しんでいる自分、落ち込んでいる自分を、客観視する。文章を書いているときだけ、自分が自分から離脱する。悲しみ、苦しみを、忘却のかなたへ掃き清める。人間には、そうした「忘却の箒」が、どうしても必要なんです。そして、文章を書くことこそ、忘却の箒になり得る。

■文章を書くことにわたしが取り憑かれているのは、そこなんです。自分の文章によって自分の考えが伸びる、考え抜くことによって、新しい自分になる。自分を、生まれ変わらせる。自分を、転がす。

■「すばらしい」と、ライターが書いてはいけない。「すばらしい」と思うのは読者。読者が、なるほどと納得し、少し遠いが奈良まで見にいこうかと思わせる。

■言葉は、自分が考えていること、感じていることを表現する道具ではない。むしろ文章によって、自分が考えていること、感じていることを、思い出す。ああ、おれはこんなことを考えていたんだ。そのことを、文章を書いている途中、当の自分が発見する。文章は召喚する。文章を書くという行為がとてつもなくおもしろいのは、このためなんです。

■わたしはこういう、軽いコラムが大好きなんです。喜怒哀楽の「楽」。読者を、軽い気持ちにさせる。人を怒らせたり、悲しくさせたりするのは簡単です。だって世界は、悲しいこと、腹立たしいことにあふれていますから。読者を楽にさせること、少し笑わせること。それがいちばん難しい。難しいからこそ、挑みがいがあります。

第五章

■わたしたちは、毎日二十四時間、生きています。それはとりもなおさず、毎日二十四時間ずつ「死んでいる」ことを意味します。生と死は、反対概念ではなくて、生のなかに死を含んでいる。生きるということは、死ぬことだ。そのことを、わたしたちはもう少し、まじめに考えたほうがいいです。

■どんなカネ持ちでも、時間は創造できない。だから、だれにも平等なたったひとつの資産である時間を、わたしたち凡人は最大限に利用するしかないんです。

■感性の筋トレで最初に始めるべきなのは、なにをおいても読書です。本、それも紙の本を、読む。紙の本を買い、手元に置き、毎日一定時間、読む。時間と場所を決めて本を読むという生活態度を身につける。

■「おもしろくない」「よく分からない」と思うのは、自分の古い感性を破壊しているのだから、むしろ当然。安心してください。

■紙の本は、データじゃない。なにかというと、紙の本は記憶なんです。紙の本がたまって本棚に千冊を数えるくらいから、なにやら部屋の空気が変わってきます。あやしい空気。紙の本に囲まれて生きるのは、本好きにとって幸福そのものです。自分なりの秩序で整理した本の、背表紙を眺める。本のタイトルは、その人の歴史そのものです。どうやって生きてきたか。なにを学び、どう変わったか。紙のページの手触りとともに、豊かに思い出す。記憶が喚起される。本と過ごした時間が、よみがえる。

■起きて最初のアクションを、読書にすることです。スマホは、決していじってはいけません。スマホを寝室に置いてはいけない。枕元に置くなんてダメ、絶対。スマホのアラームではなく、目覚まし時計を買う。感性筋トレ者にとて、スマホとの距離のおき方は決定的に大事です。

■本は、なんでもいいのですが、自己啓発本やビジネス本ではなく、小説や詩、俳句に短歌など、少し浮世離れしているものがいい。まだ夢と現の世界を、行ったり来たりしている状態です。そんなときに読む本は、現世利益から離れていたほうがしっくりする。

■集めるのは、人間の根源的本能だ。たとえそれが、手帳につけるただの印であっても、です。

■肝心なのは、「フォームが崩れている」と自覚することなんです。フォームの乱れを自覚しないと、あとはズブズブ。生活の海に溺れるだけです。

■これはアーティストの横尾忠則さんからうかがった話です。横尾さんは、いろんな仕事で地方を回ることが多い。仕事が終わって東京に帰る前、多少の空き時間があったとします。すると、県立美術館や市立美術館に、さっと入ってしまう、というのです。空き時間は一時間もない。だから、駆け足で見て回る。またそうするほうが、かえって印象に残る、ということでした。たいへん示唆に富むアドバイスだと思いました。

おわりに

※特になし

コメント

今回の著作も面白く、読書欲を刺激される。

「この本の主題は、感性を筋トレで身につけること」と述べられているとおり、読書がベースではありつつも、その他の映画、演劇、絵画、写真、落語、音楽などなど、すべて「感性の筋トレ」として必要であるとされる。

著者の作品でいうと『三行で撃つ』が主に書くことをフォーカスした内容であったが、こちらが言葉を鍛えることがメインだとすると、本書は感性を鍛えることに主眼が置かれている。

感性を鍛えるという視点から、五感で文章を書く事例や、著者が文章塾で添削してきた作文例をみたうえで、感性を磨くための習慣づくりを薦める。

相変わらず文章は抜群に上手く、ぐいぐい読ませる。読んでいて飽きないし、終わりが惜しくなる。

この感覚を得られるのは貴重。

どこを切っても示唆に富むし、読んでいて面白いのだが、「軽いコラムが好き」という部分が印象に残った。

曰く「読者を楽にさせること、少し笑わせること。それがいちばん難しい」という。

確かに文章で人を少し笑わせるというのはハードルが高い。そこのユーモアにはセンスがいるように感じる。

人を笑わせるということの意味やその重要性を考えることがあったので、それで刺さったのもあるかもしれない。

そして「生きるということは、死ぬことだ」というフレーズ。

確かにどんなに小さな子どもであっても、不可逆的に死へと進んでいるという事実。

毎日二十四時間ずつ「死んでいる」ことを意識することは、生きることをまた鮮明にさせる。

あまり仰々しく生死を意識する必要は必ずしもないようにも思うが、それでも何も意識しないとただ漫然と生きることになり、気がついたら死が近づいていたということになりかねない。

これを少しでも回避するためにも、毎日確実に死んでいることを頭の片隅に置き生きていくことは有用であるように思う。

近藤康太郎氏の著作は繰り返し読みたくなる。

それは内容が良いのもあるが、書籍のレイアウトや装丁なども影響しているように感じる。

一言学び

生きるということは、死ぬことだ。


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