読書レビュー:『シンプルで合理的な人生設計』(橘玲)

読書

読みたいと思ったきっかけ

橘玲氏の著作が出たら購入するようにしている。

今回も例に漏れず著者買い。

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シンプルで合理的な人生設計 [ 橘玲 ]
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内容

目次

目次は以下のとおりとなっている。

 

プロローグ 成功するためには、人生の土台を合理的に設計せよ
Part 1【理論編】合理性の基礎知識
1 コスパ・タイパ・リスパ
2 睡眠と散歩は最強の自己啓発
3 進化論的合理性と論理的合理性
4 成功に至る意思決定
Part 2【実践編】合理的に人生を設計するための戦略
5 3つの資本と8つのパターン
6 金融資本の成功法則
7 人的資本の成功法則
8 社会資本の成功法則
エピローグ シンプルで合理的な「成功のライフスタイル」
あとがき 日本人は合理性を憎んでいる。だからこそ、合理的に生きることが成功法則になる

内容

わたしの気になった箇所について記載する。

プロローグ(成功するためには、人生の土台を合理的に設計せよ)

・合理性とは、「投入した資源(リソース)に対してより多くの利益(リターン)を得ること」と定義できる。

コスパ・タイパ・リスパ

・「人間と現実が闘ったとき、勝つのは100パーセント現実のほうだ。現実は出し抜けない。現実はだませない。現実は自由自在に曲げられない」のだ。だとしたら、(革命などで)世界を変えることに挑むよりも、現実を所与の(与えられた)条件として受け入れてしまった方がいい。

・コスパとリスパ(評者注:リスクパフォーマンス)は、もともとはファイナンス理論の用語なので、金融資本(資産運用)を考えるときにもっとも有用だ。しかしこの原則は、人的資本(働いてお金を稼ぐ能力)や社会資本(人間関係)を考えるときにも意識しておく必要がある。

睡眠と散歩は最強の自己啓発

・ジェフ・ベゾスはなぜ、毎日8時間寝ることを最優先しているのだろうか。それは、睡眠こそがもっとも効果の高い成功法則だからだ。

・現代社会では、仕事や勉強に「集中」することが重要だとされる。だがもっと大切なのは、なにもせずに「ぼーっとする」ことなのかもしれない。

・これをまとめると、散歩するときはできるだけ早歩きで、可能なら、それに軽いジョギングや腕立て伏せを加えるといいようだ。睡眠と散歩・運動は誰でもいますぐ始められる最強の成功法則だ。

進化論的合理性と論理的合理性

・これと同じことは、人生の選択にも当てはまるだろう。よい選択すると、改善した状況を前提として次のよりよい選択が可能になる。悪い選択をすれば、悪化した状況で次のより不利な選択をするしかなくなる。その結果、正のスパイラル(よい選択の連鎖)と負のスパイラル(悪い選択の連鎖)に二極化して、人生が天国と地獄に分かれるということが起きる。選択の結果は累積する、というのは、ものすごく重要だ。このことをまずは頭に叩き込んでおこう。

・もちろんこれは、「すべてのことを犠牲にして金持ちを目指せ」ということではない。そんなことをすれば、失うもの(恋人や家族、生きがい)の方が多くなるだろう。だがそれでも、幸福になりたいひとが真っ先に取り組む課題は金融資本を大きくすることなのだ。

成功に至る意思決定

・このように多くの場合、認知を変える(これはかなり大変だ)より環境を変える(転校や転職、転居する)方がうまくいく可能性が高い。これが、「合理的に成功する」考え方の基本になる。

・日常的な用語としては「リスク」も「不確実性」も同じものととして扱われているが、この両者には厳密な区別がある。「リスク」は統計的世界(ベルカーブ)の事象のばらつきで、データが揃っていれば将来を確率的に予測できる。それに対して「不確実性」は複雑系(ロングテール)の出来事で、「とてつもないこと」が起きる可能性がつねにあり、原理的に未来を予測することはできない。

・超予測者は「永遠のベータ版」で、「試す、失敗する、分析する。修正する、また試す」という思考サイクルが大好きなのだ。

・3つ目は「ミニマックス・リグレット基準」で、後悔(リグレット)を最小化することをいう。学校や会社の選択であれ、パートナーとの結婚であれ、その選択をしなかった場合、どれくらい後悔するかを考え、それを最小化するような予測をするのだ。

・近年は日本企業も中途採用にちからを入れはじめ、30代半ばまでなら転職も当たり前になった。もちろん転職が必ずうまくいくわけではないが、それもまた貴重な経験になるだろう。50代になって窓際に追いやられ、「あのとき決断していれば」とほぞを噛むより、若いときにリスクをとってさまざまな経験をした方がずっといいのではないだろうか。

3つの資本と8つのパターン

・これは、「短期的な幸福(快感)と長期的な幸福(成功)が、しばしば衝突する」という話でもある。成功とは多くの場合、短期的な快楽を抑制することで長期的な利益を最大化することなのだから、「痛み」に耐えて、自分よりも優れたひとたちとつき合った方が成功しやすいだろう(とりわけ若者には、このアドバイスは有効だ)。

・脳は直近の出来事に強く影響され、過去の出来事ほど影響は薄れる。「終わりよければ、すべてよし」なのだ。

金融資本の成功法則

・日本は「衰退途上国」と揶揄されるまで落ちぶれたが、それでもまだ世界第3位の経済大国だ。わたしたちは、”日本に生まれたという幸運”によって、発展途上国のひとたちから見れば巨額の人的資本をあらかじめ与えられている。いうまでもなく、これはとてつもない「特権」だ。

・「資産運用でもっとも大切なのは、資産運用を考えないこと」なのだ。

・このように考えれば、「現金でマイホームを購入するより、REITに投資して配当を家賃に充てた方がいい」ことになる。

・マイホームの購入は、高いレバレッジをかけて不動産に投資する信用取引なのだ。

・そうした自体を避けるもっともシンプルな原則は、「営業はすべて無視する」だ。なぜなら、ウマい話はあなたのところにはぜったいに来ないから。ほんとうに儲かる投資機会があったなら、見ず知らずの他人に教えたりせず、自分で投資するだろう。不動産にせよ、保険や株式、先物にせよ、「儲かりますよ」という営業はすべてこの矛盾を説明することができない。

人的資本の成功法則

・それに対してエッセンシャル思考では、いったん人生の優先順位を決めたら、さして重要でない選択は放棄するか、自動化してしまう。たったこれだけで、ささいな能力のちがいは関係なくなり、ライバルに大きな差をつけることができるだろう。私は同じことを、「人的資本は一極集中する」と述べてきた。人的資本について理解しておくべきもっとも大切なことは、これだけだ。

・高度化した知識社会では、人的資本(高い専門性)をもたない者は、会社(労働市場)のなかで”居場所”を失い、うつ病など精神疾患のリスクが高くなる。人的資本を一極集中するエッセンシャル思考を勧める第一の理由は、金銭的な報酬が増えるからではなく、こころの健康維持なのだ。

・成功にとってもっとも重要なのは、自分がもつアドバンテージをどのようにマネタイズするかだ。

・ここから、重要な教訓を得ることができる。それは、自分の能力が優位性をもつ市場をみつけろ、というものだ。どれほど高い能力をもっていても、優位性がなければなんの意味もない。それに対して、平均よりはすこし上(上位30〜40%)の能力しかなくても、競争相手の平均がそれ以下ならじゅうぶんな利益(金銭的な収入と高い評価)を獲得できるのだ。

・まず、「競争の本質は競争しないこと」にある。なぜなら、競争には大きなコストがかかるから、つねに敵との戦いにあけくれていれば、生殖のための資源がなくなってしまう。このようなコスパの悪い戦略は、冷酷な進化の法則によって、たちまち遺伝子プールから排除されてしまっただろう。…この残酷さは、人間世界でも同じだ。わたしたちも、それぞれの環境で「ナンバーワンになれるオンリーワンの場所」を獲得しなければ生き延びることができない。

・「好きなことも得意なこともないんですが」という質問は、もっとも難度が高い。これについてはちょっときびしい言い方になるが、「失敗を恐れているだけではないのか」と考えてみよう。当たり前の話だが、なにもしていないのに誰かがチャンスをくれるなんてことはない。リスクをとらなければなにも始まらない。

・ベイズ的に試行錯誤を繰り返す以外に、専門性を高めて人的資本を大きくし、コア(強み)を活かせるニッチを見つける方法はない。だったら、若いうちにできるだけ多くの失敗をするべきだ。「若いときってそんなもんだよ」と誰も気にしないから。

・日本の社会は同調圧力が強く、日本人はリスクをとりたがらなくなったといわれる。だがそのような社会だからこそ、リスクをとることが有利になる。なぜなら、競争相手が少ないから。――君より優秀なライバルは、会社や役所のタコツボに閉じ込められて貴重な人生の資源(リソース)を無駄に使っているのだ。

社会資本の成功法則

・愛情や友情は時間資源によって測ることができる、のだ。同様に、子どもたちと家族旅行したり、親の介護で実家に通ったりしていると、その分だけ他の社交を減らさなくてはならない。「親しい関係ほど多くの時間資源を費やす」というこの法則は、すべての人間関係に貫徹している。

・徹底的に社会化された動物であるヒトが求めているのは、社会からの承認であり評価だ。だとすれば成功法則とは、より効率的に評判(社会的承認)を獲得する戦略のことだ。ここから、人間のつながり(ネットワーク)を分析することの重要さがわかる。愛情や友情もまた、(ある程度は)コスパで語ることができるのだ。

・だが、人的資本が成功にとって大きな影響力をもつ知識社会(メリトクラシー)では、「静かな退職」は敗者の戦略になる可能性が高い。余暇を楽しむのは大切だろうが、その間もライバルは人的資本を大きくしているのだ。

・ギブしても減らないものは2つある。ひとつは、面白い情報を教えること。もうひとつは、面白い知り合いを紹介することだ。ネットワーク社会の「ギバー」とは、この2つをせっせとやっているひとのことだ。

エピローグ(シンプルで合理的な「成功のライフスタイル」)

・当たり前の話だが、大量のメール(そのほとんどは意味のないCCメールだろう)が送られてきたり、とうてい処理できないほどの仕事を押しつけられたりしない環境をつくっておけば(自分で仕事を選択できるようになれば)、「問題」そのものが物理的になくなるのだ。

・ここで間違ってはならないのは、因果関係を逆にすることだ。成功者が筋トレをしているからといって、筋トレをすれば成功できるわけではない。同様に、現代アートに詳しくなれば成功が引き寄せられるわけでもない。これらの「無駄」は、成功した者が顕示する(見せびらかす)からこそ強い印象を与える。勉強でも仕事でも高いパフォーマンスを達成できないのに、筋トレだけしていては、たんなる「筋肉バカ」と思われるだけだ。

・だとすれば、これを「不合理な選択」として否定することができるだろうか。カルト宗教にはまったり、ギャンブルに全財産を注ぎ込むのも同じだが、「自分らしく生きる」ことを最大限認めるリベラルな社会では、他人に危害を与えないかぎり、どのような選択も尊重されるべきだ(ジョン・スチュアート・ミルの「他者危害原則」)

・社会はますます複雑になり、市場には膨大なコンテンツや商品が溢れている。わたしたちはみな「選択疲れ」に陥っていて、だからこそ「コスパ」や「タイパ」というわかりやすい基準に頼ろうとする。その結果、日々の生活の面倒なことはすべて機械に任せてしまうのが合理的になるのだ。

・そう考えれば、SNSの魔界に迷い込まない効果的な方法は、人的資本に投資し、実生活での社会的ステイタスを上げることではないだろうか。もちろんこれは、ナンバーワンでなければ幸福になれないということではない。ロングテールのフラクタル構造を考えれば、それがささいなものであっても、どこかのサブジャンルでテールの端を確保し、ファンの評判を獲得することで(誰かの「推し」になれば)自己肯定感が得られるはずだ。

・このとき「成功」にとって重要なのは、「自分にはこれしかない」と結論を決めることなく、トライ・アンド・エラーを繰り返すことだ。「ベイズ的な生き方で成功確率を上げる」といってもいい。

・現代社会において唯一、やり直せない選択は親(とりわけ母親)になることだ。しかしその一方で、出産には生物としての限界があるので、「親にならない」という選択もやり直すことができない。

あとがき(日本人は合理性を憎んでいる。だからこそ、合理的に生きることが成功法則になる)

・こうした人間的な特徴を無視して「合理的な人生設計」を説いても、それは「機械(ロボット)のように生きなさい」という話にしかならない。しかしそれでも、合理的に考えることは、ビジネスだけでなく人生のさまざまな場面で役に立つだろう。それに加えて、日本社会では、コロナ禍の対応で露呈したように、政府から個人まで「合理性」を嫌うひとがものすごく多い。日本人は合理性を憎んでいる。だからこそ、合理的に生きることが成功法則になる。

コメント

現代日本において「成功」するための最も筋道立った戦略であるように思う。

合理性=「投入した資源(リソース)に対してより多くの利益(リターン)を得ること」という定義のもと、徹底的に合理性を追求してリターンを最大化する。

金融資本はもちろん、人的資本、そして社会資本においてもリソース投下に対するリターンをある程度計算できるというのは、直感的には違和感を感じる部分もあるが、説明を聞くと納得してしまう。

これだけシステム化された世の中になってくると、合理的に行動することによって成功する確率も上がってくる。システム化された環境であればインプットに対するアウトプットがある程度予測が立つから。

そうした環境下において、合理性を嫌って行動することで「成功」から遠ざかることは、それこそ合理的な選択ではなくなってくる。

日本人は合理性を憎んでいる。だからこそ、合理的に生きることが成功法則になる」という言葉のとおり。

ただ、これが成り立つのは「合理性を憎んでいる環境があってこそ」であって、皆が合理的に動いていくとそれこそ差別化できなくなってくる気もする。

もちろん全員が全員合理的に振る舞うことはないのだろうから、この手の話は杞憂なのだろうが。

結局、成功できるやつは成功するし、できないやつはできない、という身も蓋もない話に収斂してしまう気もする。。。

とはいえ、個人レベルでいえば本書に書かれたとおりに行動すれば、少なくとも苦境に立たされる(多くは経済的に)ことはないだろう。

合理性が金融資本、人的資本により効いてくることを考えれば、少なくともその2つの分野で苦しむことはなくなる(はず)。

社会資本においては合理性で割り切れない部分も結構ある気がしているが、時間の制約という観点でみると、確かにある程度はリソースに対するリターンで考えることができる。(このあたりは議論がありそうだが)

あらゆるリソースの奪い合いの様相を呈する現代において、どこにリソースを投下するかは重要な問題。だからこそ、そのリターンを最大化しようというのが本書のテーマであり、その指針を提示しているのだろう。

この手の話は大人はもちろん、もっと早い段階、例えば中学生・高校生でも読んでおくと、自分の人生におけるリソース配分を早くから考えられて有益かもしれない。(学生時代の無駄に思える時間が必ずしも無駄なわけではないけれど)

一言学び

合理性とは、「投入した資源(リソース)に対してより多くの利益(リターン)を得ること」

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