読みたいと思ったきっかけ
土井英司氏のビジネスブックマラソンにおいて激賞されていたのが購入したきっかけ。
土井英司氏は広告やマーケティング関連の書籍にとりわけ強いので、オススメした書籍には外れがないと思われる。
内容
目次
目次は以下のとおりとなっている。
はじめに | ||
第1章 | : | 知られなければ「ない」のと同じ |
第2章 | : | 生活者を見誤る |
第3章 | : | 市場を見ずに突っ走る |
第4章 | : | 商品の健康診断をサボる |
第5章 | : | 競合商品にも顧客がいることを忘れる |
おわりに |
内容
わたしの気になった箇所について記載する。
第1章(知られなければ「ない」のと同じ)
第2章(生活者を見誤る)
・「売れたことを広告コンセプトや広告コピーにすることは厳禁」の企業もあるほどです。実際、市場シェア7割を超えるiPhoneやマクドナルドは、「○○台突破」や「売上No.1」といったコピーを私が知る限りでは過去に一度も使っていません。フォロワー向けにマーケティング資源を投入しても決してショル愛的にプラスにならないことを彼らは知っているからです。
・クリエイターの分野でも、優秀だと言われている人たちは「瞬時のシミュレーション」をおこなうことが心理学の研究でわかっています。…勘は、知識の蓄積があるからこそ発揮できるのです。
・しまいには、「菓子ハラスメント」「告白ハラスメント」など、「なんでもかんでもハラスメント」が増殖します。中には深刻なものもありますが、多くは「自分の周囲は自分好みの世界で囲まれたい。それ以外のことは拒否したい」が動機です。
・ターゲット設定とは「買ってほしくない人を決めること」。
・その中でも、ハイブリッド型商品または減産価値商品が革新型イノベーターに響くことが多いことがわかっています。なお、減産価値商品とは、付加価値の逆で「不要な価値を削り取る」を指す私の造語です。
・人は、事実でなくても、「認知・信じる・思い込み」をベースに行動することがあります。この減少を私は「認知ベースの行動」と呼び、事実ベースの行動と分けています。
・「大企業よりも小さい企業のほうが信用できる、あるいは質が良いものを提供する」といった考え方は、外食、教育(英会話教室など)、小売業、サービス業界などで強く見られる傾向ですが、美容業界も含まれます。
・人にとって、自分の頭の中にあるもの(認知)が事実です。客観的な事実があったとしても、「知らない」「知ろうとしない」「信じようとしない」のどれかです。…特に「知ろうとしない」「信じようとしない」は「認知バイアス」と呼ばれ、「自分が信じるものを強化する情報にしか目がいかない」心理的現象を指します。
・生活者は「客観的」や「プロが言う」正しいことをベースに行動しているのではないことを肝に銘じることが必要です。
第3章(市場を見ずに突っ走る)
・ひと言で言えば、「生活者がどちらにしようかと迷うかどうか」です。迷うなら「競合関係」にありますし、「同じジャンル」です。迷わないなら「競合ではない」し、「別ジャンル」です。
・ほとんどが…イノベーター理論にキャズム(溝)ということで縦に大きな溝が描かれます。これらはすべてまちがいです。
第4章(商品の健康診断をサボる)
・世の中の商品のうち、3要素(注:規格・ベネフィット・エッセンス)が揃うパッケージやWEBサイトのランディングページは、100商品のうち5〜6個しかありません。逆に言えば、チャンスです。
・プロダクトコーン理論では、3要素の順番は固定です。「規格」→「ベネフィット」→「エッセンス」の順番は決して逆行しません。これが意味するところは、次に何が訴求ポイントになるのかをあらかじめ予想できる点です。
・このように、プロダクトコーン理論はチェックリストに留まらず、将来予測のための理論として使うことが可能です。さらに、プロダクトコーン理論とイノベーター理論、そしてプロダクトサイクル理論の3つを組み合わせることで、いつ、どのターゲットに、なにを訴求すべきかが瞬時にわかることが大きな利点です。
・「どんな商品かすぐにイメージが湧き、競合商品との違いをはっきり『みんなが』言える」商品。それがブランドです。マーケティングとは「ブランドをどう作り上げ、維持、発展させるか」のための科学だと言い切ってもいいほど、ブランドは中心的なテーマです。
・「当たり前のことを当たり前におこなう。ただし徹底的に」私の座右の銘の1つですが、少しずつ踏み進んでいくしかありません。
・男性にとってピンクは1色ですが、女性は何種類ものピンクを識別できると言われます。男女で色彩判別能力が異なるのではなく、ピンクに対する興味関心度が異なるからです。興味関心が高い、情報量が多いのは、イノベーターの特徴です。
・注目すべきは、イノベーターです。イノベーターが離れ始めると、ブランドは衰退するからです。
第5章(競合商品にも顧客がいることを忘れる)
・ある基準に対して優劣を示すのが優位性で、別の基準で比較するのが差別性です。
・結論を言います。数値で測れるものは「1.2倍」「20%以上」が最小限必要です。人間は通常、20%以上異なるものしか認識できないからです。20%未満だと「似たようなもの」としてしか認知できません。
・マーケティングでは、積み重なった歴史は変えられません。
・一般的にいえば、差別性を強めれば強めるほど「キワモノ」になり、市場性を狭める結果になりがちです。一方で、市場性を広く取ろうとすると差別性が弱まり、競合商品が多くなり、競争激化に陥ってしまいます。
・100万人のユーザー数も、1つの目安です。100万人を超えると1つの市場として生活者に認知されるので、市場性が狭すぎることはありません。かつてシステム手帳が流行したとき、ユーザー数が100万人を超えた段階で取扱店が一気に増え、リフィル(用紙)の種類も販売店も増えたことがありました。
・差別化だけの商品では、単なる「偏屈」になってしまいます。よく企業内で「差別化しろ」と言われますが、じつは優位性をおざなりにしているケースが目立つのです。
おわりに
・ネコだけでなく人も失敗から学ぶことを身近なところで観察できます。グループインタビュー(座談会形式の調査)を観察していると、経験が少ない出席者は否定形で発言し、経験を積むに従って肯定系の言葉で語る光景をよく見かけます。たとえば「好きな異性のタイプは?」と聞くと、恋愛経験が浅い若い出席者は「ウソをつかない人」「乱暴でない人」など、否定形の言葉を使います。数少ない自分の経験でこれだけは避けたい人物像をイメージして答えるのです。ところが、恋愛経験を積んだ年齢になると「誠実な人」「優しい人」など、肯定系の言葉を多用します。過去の経験から「好みの異性」の共通点をつかみ取るのです。
コメント
ページ数でいうと500ページを超える分厚い本で、最近流行りの「鈍器本」の類に入るかもしれないが、あっという間に読み終えることができた。
たまに古い事例はあるものの、基本的には最近(30歳前半のわたしにとって)の事象を取り上げているものが多く、そしてどの事例の紹介も文句なく面白い。
基本的には「失敗事例」→「マーケティング理論」→「対処方法」の順番で進んでいくのだが、読んでいるとどんどん次を見たくなってくるのは内容が面白いからか。
ケーススタディの事例集としても役立つし、それこそマーケティングの基礎理論としても勉強できる内容になっていると思う。
惜しむらくはわたし自身がコンシューマー向けのビジネスを営んでいる会社に所属していないため、すぐに学んだことを実践できないことだ・・・。
それでも日々見かけるテレビやネットの広告、小売店での販売方法、商品の陳列の仕方など、この本を読んで学んだ視点で見てみるだけでも読み取れる情報が格段に増加する。
「この商品はプロダクトサイクル理論でいうと成長期にあるから優位性を押していく必要があるな」「プロダクトコーン理論での規格フェーズだから次はベネフィットフェーズに移行するのか」といったことを考えながら身の回りの商品群を眺めることができるようになる。(それが正確に読み取れているかどうかは別だが・・・)
この本を読んだ後と前とでは世界が違って見えるというと言い過ぎか・・・。
しかしながら、映画や小説などの芸術作品の評価としても「それを見た後では見る前の価値観で世界を見られなくなる」というのが1つの評価軸になっているという話も聞くので、その意味で言えば本書もそれに該当するかもしれない。
ページ数も多くて読むのが大変そうに思えるし、そのうえ値段も3,000円と高いけれど、読んで損したとは思えない内容なので、ぜひオススメしたい。
それにしてもやはり土井英司氏の選球眼に狂いはない。
一言学び
人は、事実でなくても、「認知・信じる・思い込み」をベースに行動する。
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