読書レビュー:『スタンフォードの権力のレッスン』(デボラ・グルーンフェルド)

読書

読みたいと思ったきっかけ

土井英司氏のビジネスブックマラソンで紹介されていたので購入した。

人間社会を生きていくうえでは権力と無関係ではいられないということもあり興味が出た。

内容

目次

目次は以下のとおりとなっている。

INTRODUCTION   「権力のレッスン」へようこそ
PART1 権力とは何か?
  1 権力の真実と神話 ― 誰もが権力を誤解している
PART2 権力を戦略的に使う ハードパワーとソフトパワー
  2 自分を強く見せる戦略 ― パワーアップとプレイ・ハイ 
  3 相手を優位に置く戦略 ― パワーダウンとプレイ・ロー
PART3 権力を感じさせる パワフルに行動する方法
  4 権力を「演じる」 ― 権力はプロットで決まる
  5 「助手席」で力を発揮する ― 脇役として力をつかむ
  6 権力の「プレッシャー」に勝つ ― 力には責任がともなう
PART4 権力の手綱をさばく 権力への対抗策
  7 権力は人を「暴走」させる ― こうして権力者はダメになる
  8 権力に「対抗」する ― 権力に屈する真理と解決策
  9 権力者から「力」を奪う ― 立場が弱くても逆転できる方法
  10 権力の正しい使い方 ― 力は他者のためにある

内容

「権力のレッスン」へようこそ

・権力について書かれたほとんどの本は、権力を使って他者に勝つ方法を説いているが、この本は、自分自身との戦いに勝つ方法を説く。

・支配よりも責任を優先し、ありのままの自分であろうとすることより、人間としての成熟を優先して権力を獲得する方法を論じる。

権力の真実と神話 ― 誰もが権力を誤解している

・権力は「他者とその行動をコントロールする能力」と定義できる。

・一般に、自分の権力を誇示しなくてはならない者ほど、実際に持っている権力は弱い。

自分を強く見せる戦略 ― パワーアップとプレイ・ハイ 

・プレイ・ハイとは「自分をあいてより高める」or「相手を自分より引き下げる」こと。

・プレイ・ハイは自分が尊敬されているか、権力を持っているか確信できない状況で選択される。

・誹謗中傷はプレイ・ハイの一つだが、文脈によっては敬意や好意を伝えることもある。からかいの対象として選んだという事実が、その人に特別なステータスを与える。

・集団のなかでは、自分の利益のために権力を使ってもいい結果は得られない。

・パワーアップは、自分の権力を目に見える形で強調すること。パワーダウンは、自分の権力を控える慎み深さを見せること。

・集団のニーズに応えるために用いられている限り、パワーアップは権力の効果的な使い方となる。

相手を優位に置く戦略 ― パワーダウンとプレイ・ロー

・プレイ・ローとは「自分が相手の下に立つか」or「相手を自分の上に立たせる」こと。

・プレイ・ローは他者を刺激することを避けるために無意識にこれを採用する。

・パワーダウンはコントロールの放棄ではなく、裏返しの強さの証明。

・新しい状況下では、まず相手がどこから関係を始めようとしてるのかを把握したうえで、軽んじられないようにパワーアップしながら、脅威を与えないようにパワーダウンを組み合わせるとよい。

権力を「演じる」 ― 権力はプロットで決まる

・「自分自身である」ということは本質的にはパフォーマンス(演技)。

・演技とは、自分以外のだれかになろうとすることではない。自分をマネジメントする規律あるアプローチ、つまり行動規範。

・プロットを見失うとは「予想外の危険な行動を取ること」。自分の考え、感情、行動を自分が他者に対して追っている責任と一致させるのがプロットにとどまること。

・役割を果たす際に、自分に正直に行動するという「個人の論理」と、別の人間になったつもりで自分らしからぬ行動をするという「状況の論理」の二者択一で考えるのでなく、それらを一致させようとすることが重要である。

・自分らしさに逃げ込まず、誠実さ(インテグリティ=全体性が保たれている状態、分割されていない状態)を追求すること。

「助手席」で力を発揮する ― 脇役として力をつかむ

・ほかの誰かが拍手喝采を受けるあいだ、静かに座っていられるような自信を持つことは、スポットライトを浴びる能力と同じくらい力の源泉といえる。

権力の「プレッシャー」に勝つ ― 力には責任がともなう

・インポスター症候群とは「大きな役割を担うことにともなう恐怖のことで、パフォーマンス不安の一種」のこと。

権力は人を「暴走」させる ― こうして権力者はダメになる

・愛、親密さ、安定した愛着、そして帰属のニーズは、人間が社会心理的に成長していくための基本的な原動力→自分が愛されているかの疑問が、権力を握ったときにそうしたニーズを求めるきっかけになる。

・愛と権力の動機→拒絶されるのが怖いときには愛のニーズが高まり、自分が重要な存在だと思えないとき権力のニーズが高まる。

権力に「対抗」する ― 権力に屈する真理と解決策

・人間の進化モデルによると、私たちは強い相手に惹かれる。

・いじめられたからといって被害者の役割に甘んじる必要はない。

・まずは別の選択肢があると自分に言い聞かせ、自分を救うために何らかの行動に集中すること。

権力者から「力」を奪う ― 立場が弱くても逆転できる方法

・権力を持つことを「他者のために立ち上がる義務、あるいは機会」と捉えるのが成熟した考えた方であり、他者を守ったり世話をするために行動することで、自分は強いと感じられる。

権力の正しい使い方 ― 力は他者のためにある

・与益原則とは「大きな権力をともなう役割を担う者には、力のない人びとの福祉を優先する義務があるとする、応用倫理学の原則」のこと。

・リーダーを選ぶときは、野心や上昇志向を判断材料として選ぶのではなく、他者の問題を解決するためのコミットメントによって選ぶべき。

・どんな心理学理論でも、人間の成熟とは利己的行動を制御し、他者の利益のために行動する能力だと考えられている。

・メンタルヘルスの最大の条件は社会とのつながり→自分をコミュニティの一部と考えることで、心理的に他人とつながり、個人としての自分を超える高い目的に結びつけるはず。

コメント

権力に関する有名な本でいうとジェフリー・フェファーの『「権力」を握る人の法則』が有名だ。

『「権力」を握る人の法則』がまさしく権力を握るために必要なことを記載してるのに対して、本書は少し趣向が異なる。

内容の冒頭にも書いているが、この本は「自分自身との戦いに勝つ方法を説き」、「人間としての成熟を優先して権力を獲得する方法を論じ」ている。

権力というとまさしく自分自身のために使うもの、という固定観念があるが、この本ではあくまで権力は「他者や組織に資するように使うもの」としている。

この考え方自体が新鮮であり、今までの権力論では触れられてこなかったように思う。(権力の座から振り落とされないようにするための手段として他者や組織を使うことが説かれていたことはあるかもしれないが)

また権力を持った者が、目的に応じて自分を強く見せたり、弱く見せたりする(演技する)という発送も想像したこともなかった。

言われてみればリーダーとして成功している人は目的や状況に応じて適切にプレイ・ハイ・プレイ・ロー、パワーアップとパワーダウンを使い分けているように見られる。

そして演技すること自体も他者になることではなく、あくまで自分をマネジメントする規律あるアプローチだということも目が開かれた。

若干、理想主義すぎる気もするが、確かに他者の利益のため使うのが権力というリソースだという考えが広がれば、世界は良くなるはず。

スタンフォードという一流の知性、将来の権力者候補が集まる場でこうした講義が行われ、後々これを理解した卒業生が権力者となることで徐々に世界は良くなるのかもしれない。

一言学び

権力は他者のために演技すること。

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