読書レビュー:『デジタルで変わる子どもたち』(バトラー後藤裕子)

読書

読みたいと思ったきっかけ

子どもを育てていると「どこまでテレビを見させていいのか」、「タブレット端末を使った動画視聴は止めておいた方がいいのか」、「言語習得や認知機能の向上にはどういった方法が好ましいのか」といった疑問が出てくる。

そういった疑問を解決できそうなタイトルであり、パラパラと中身を見た印象ではかなり論理的に話が展開されていたので購入した。

概要

目次

目次は以下のとおりとなっている。

第1章 デジタル世代の子どもたち
第2章 動画・テレビは乳幼児にどう影響するのか?
第3章 デジタルと紙の違いは何?
第4章 SNSのやりすぎは教科書を読めなくする?
第5章 デジタル・ゲームは時間の無駄か?
第6章 AIは言語学習の助けになるか?
第7章 デジタル時代の言語能力

未知語

・デジタル世代:2000年以降に生まれ、デジタルテクノロジーとともに育ってきた子ども・若者たち

・ビデオ不全:2歳以前の乳幼児の場合、テレビ・ビデオからの学習は、現実の世界で同じことを学ぶのに比べて、学びが劣るという指摘

・バックグラウンド視聴:保護者が大人向けのテレビ・動画を乳幼児と同じ空間で観ている状況

・打ちことば:SNSやメールで使われる文字ことばのこと

・マルチモダル化:言語テクストだけに頼らない形態のこと

・社会ロボット:人間が通常行う基準に従って、人間と交わり、コミュニケーションをする目的で作られたロボット

内容

・人間は非言語行動が言語行動と一致しないと不信感や誤解を引き起こすといわれている→オンライン会議システムでのストレスの原因

・子どものテレビ・動画の視聴→一緒に観ながら内容について子どもとどのように話すかが、言語習得の非常に重要な鍵となる(2歳以上の子どもの場合。ただし無条件ではない)

・初期言語習得には相互交渉(インタラクション)と身体性(実際に身体を動かしたり、触れたり)の役割が大きい

・日本の一般的な外国語学習環境では、いつ学習を始めたかではなく、得られた言語インプットの量と質のほうが習得の度合いに大きな影響を与える→乳幼児期より小学校高学年あたりの方が効率がいい

・読みをもっと広義かつ柔軟に捉える必要あり→テクストの理解だけでなく、聴覚(音響効果)・視覚(表、グラフ、写真・動画など)・空間・触覚なども利用した総合理解

・デジタル絵本と紙の絵本では、インタラクションの質・量の点で紙の絵本の方が上回る→絵本だけでなく、説明文や長めの文章の場合も紙の方が読解力が高まる

・読みのパフォーマンスを上げるためには、目よりも手の動きの適合を重視→読みの身体性と関連する

・読解力の高い人はテクスト全体にまんべんなく目を通し、効率的にスキミングする一方、読解力の低い人は、スキミングがうまくできず、メリハリのある読みができない

・打ちことばの影響については、英語圏では小学生であれば読み書きにプラスに働くが、英語と表記システムの異なる日本ではプラスにもマイナスにもならない可能性あり

・マルチモダル化を前提としつつも、ある程度の長さのテクストから意味を構築するための耐久力を培う練習は不可欠となる

・言語学習用としての社会ロボットへの関心は高い→インタラクション(疑似的であっても)がある、物理性・身体性がある

・コロナ禍でデジタルテクノロジーへのアクセス格差が注目されたが、実はデジタルテクノロジーの使用の質の差が非常に重要である

言語習得においては身体性が重要である。言語習得・使用は社会性のなか(他社との関係性のなか)で、また感情・情緒の伝達を本質(ハッピーな気分のときのほうが言語習得も進む)に持つ

・デジタル時代に必要な言語コミュニケーション能力は、基本的言語知識にプラスして、①自律的言語使用能力(目的を持って自主的に言語活動を行う能力)、②社会的言語使用能力(社会ネットワークを構築するための言語使用能力)、③創造的言語使用能力(既存の知識を再構成・再構築し、新しいコンテクストへの植え替えを行う能力)である

印象

デジタルテクノロジーの発展に伴い、従来のテクスト重視の読みに固執しないことが重要だと感じた。

どちらかというとテクストの読解力が大切と思ってしまいがちなので、もっと広く読解リテラシーを定義づける必要をを認識することができた。

ビデオ不全やバックグラウンド視聴など、子育てをしていると日常的に陥りがちな現象について実験をベースに実証的に記述がなされているので参考になる。同時に、まだまだデジタルテクノロジー関連の子どもたちへの影響については実験データが不足していることもあって確固たる結論が出ていないということも知ることができたのも収穫だ。

言語習得においてインタラクションと身体性・物理性が重要な地位を占めていることも改めて認識することができた。

コメント

ハウツー本というわけでもないので、こうすればお子さんの言語習得に効果があります!という形での記載にはなっていないが、言語習得とデジタルテクノロジーの関係性について現状の研究内容を概観することができる。

1人の人間として社会の中で生きていく子どもにとって、生身の人間とコミュニケーションを取る(インタラクション+身体性・物理性)ことが最も重要になるというのは、考えてみれば当たり前の話なのだが、ついつい見逃しがちな点である。

デジタルテクノロジーに頼りすぎることなく(当然ながら依存せず)、そのメリットは活かしながらも、より広義の読解リテラシーを育むという視点のもとで子どもに接し(同時に自分も学びながら)ていく必要がありそう。

コメント

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